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 浄化槽 - 水洗化から生活排水処理対策へ -

たちが台所や洗濯などで使った水は、下水道が整備されている地域では、下水処理場で処理されています。では、下水道が整備されていない地域ではどうでしょうか。これらの地域では、合併処理浄化槽*などにより処理されています。しかし、それも設置されていない場合も多く、そのまま放流されて水質汚濁の大きな原因の1つとなっています。有機物による汚濁度を示す代表的指標はBOD**で、その河川への汚濁負荷量は、家庭から排出される量が全体の約8割を占めており(大阪府平成7年度)、未処理雑排水の対策が緊急の問題となっています。

1.下水道と浄化槽

 浄化槽の設置による汚濁削減効果を図1に示します。一人一日の生活から排出されるBOD量(原単位)と、浄化槽処理後のBOD量を示したものです。日本の戦後復興が進むとともにトイレの水洗化は、使用者の快適性が高いことから、下水道の未整備地区においても急速に進められました。しかし、そのほとんどはトイレからの排水(し尿)のみを処理する単独処理浄化槽で、洗濯や台所などの排水(雑排水:BODとして27g)は処理されずにそのまま放流されていました。一方、合併処理浄化槽を設置すると、BODとして4gにまで処理され、生活排水から排出される汚濁量は単独処理浄化槽の1/8となります。これは、下水道施設で処理される場合と同じ量です。しかし、合併処理浄化槽は、浄化槽容積、設置面積、設置コスト等が単独浄化槽に比べると増加するため、設置基数はなかなか増えませんでした。

合併浄化槽の一例

図1 BOD排出量の比較

2.大阪府の生活排水処理対策

 全国レベルでは、昭和58年に浄化槽法が制定され、浄化槽の製造、設置、維持管理などに関する一貫した法体系が出来上がりました。そして、合併処理浄化槽設置への財政的な補助や規制の強化などの施策が進められてきました。今年は、建築基準法の改正に伴って浄化槽の構造を示す構造方法の中から通常の単独処理浄化槽が削除され、原則合併化に向けた浄化槽法の改正が行われました。

 大阪府では平成7・8年に相次いで「大阪府生活排水処理計画」、「大阪府環境総合計画」を策定し、2001年までに下水道普及率90%、生活排水の適正処理100%を目標にしています。しかし、大阪府の公共下水道の普及率は、平成10年度で80.5%(大阪市を除くと72.4%)と、現状では目標の達成は困難な状況にあります。さらに、市町村ごとの差も非常に大きく、下水道普及率が低い地域ほど河川での水質汚濁が深刻となっています。生活排水の適正処理に向けて、平成9年には「大阪府浄化槽指導要綱」を改正し、下水道未整備地域での合併処理浄化槽の設置が強力に推進されています。これらにより、浄化槽の設置は原則として放流水BOD20mg/l以下の合併処理浄化槽に限られるようになりました。また、合併処理浄化槽設置の市町村補助事業に対して、補助金の1/3の交付が行われています。図2に大阪府下の新設浄化槽における合併処理浄化槽の割合を示します。平成9年度から、合併化率が上昇しており、合併化に向けたこれらの取り組みが大きな成果をあげています。しかし、大阪府下ではすでに単独処理浄化槽が約27万基(既設浄化槽の約94%)設置されており、今後これらの合併化も進めていかなければなりません。

図2 年度別新設浄化槽の合併化率(月刊「浄化槽」より)

3.浄化槽の機能を発揮させるために

 合併処理浄化槽の処理機能を発揮させるためには、使用者として以下の3点に注意しなければなりません。

1) 浄化槽の機能を阻害することが無いように、油脂類や殺虫剤などを流入させないこと、また、ばっ気装置などの設備の電源を切らないこと。

2) 保守点検・清掃の契約を行い、これらを定期的に行うことで処理機能を確保すること。

3) 第3者機関による法定検査を受けて、所定の処理性能が発揮されていることを確認すること。

4.これからの浄化槽

 浄化槽は、有機物の除去とし尿の衛生処理を目的としてきました。しかし、瀬戸内海を含めた閉鎖性水域での富栄養化が深刻な問題となると、その原因物質である窒素やリンの除去が求められるようになり、浄化槽にも窒素除去型や、窒素・リン除去型のものが開発されてきました。規模の大きな浄化槽では、こうした技術がほぼ確立されてきています。一方、家庭用などの小規模な施設においては、維持管理や設備的な制約が大きく、まだまだ問題点を抱えています。窒素除去型については実用レベルに達していますが、リン除去技術についてはこれから技術の確立が必要です。

 当研究所では、民間との共同研究の結果、これらの小規模浄化槽でも適用可能な鉄電解方式によるリン除去技術の開発に成功し、現在、実用化の段階に入っています。さらに、処理水の再利用も可能なほどの性能を持つ膜型浄化槽についても開発から実用化まで、研究を進めています。 

5.今後の取り組み

 合併処理浄化槽のような小規模施設を下水道施設と並ぶ基幹施設として運用するためには、維持管理、清掃、法定検査などの情報を総合的に運用するシステムの構築が不可欠です。当研究所においても情報管理運用システムの開発を進めているところです。

 また、処理水の再利用や、汚泥の有効利用など循環型社会の形成にむけての取り組みが今後ますます重要になると思われます。

環境衛生課 奥村 早代子、山本 康次

 

  カビって何もの?

 

いおきしておいたパンや果物にカビが生えて、悔しい思いをした経験は誰にもあると思います。カビは食品だけでなく、布、皮革、紙、タイルの目地、畳、壁等、家庭内のいたるところで知らない間に発育しています。温暖多湿の気候風土である日本は、非常にカビが生育しやすく、カビと人間が一緒に生活しているといっても過言ではありません。実際、毎年6月から7月初旬に続く梅雨は、同音であることから黴雨と書かれることもあります。赤、青、黄、緑、茶、黒、その時々に出現するこの多彩な色を持つカビとは、一体、どんなものでしょう。

1. カビの仲間

 カビは真菌類に属し、酵母やキノコも同じ仲間です。酵母は大きさが5μm程度の単細胞で、主として出芽によって増殖するのに対し、カビは糸状菌と呼ばれ、菌糸の先端部で伸長し、胞子を形成して繁殖します(図3)。キノコはその菌糸体が集まって大型の子実体になったものです。カビ、酵母、キノコは分類学的な区分ではなく、発育形態の相違による便宜的な名称です。実際、ヒトのカンジダ症の原因菌であるCandida albicans は二形成菌と呼ばれ、培養条件によって酵母形と菌糸形の両方の発育形態をとります。自然界に分布する真菌類は約45,000種とも言われていますが、私達の生活環境中で通常分離されるカビはおよそ数百種程度でしょう。

酵母
カビ菌糸
黒カビの一種(Cladosporium cladosporioides)

図3 酵母とカビ

2. カビの形態

 図4はカビの集落を上と横から観察した模式図です。菌糸には、植物の根に相当し栄養を吸収して伸長する基底菌糸と、茎に相当し先端部の胞子形成器官から胞子を形成する気菌糸とがあります。胞子は直径3〜10μmの球形、卵形の単細胞で、カビの色はほとんどこの胞子の色です。無数の粉状の胞子は空気中に飛散し、適当な環境条件下で発芽し、再び菌糸を形成し増殖を続けます。カビが増殖する食品や木材などの基質内には基底菌糸がもぐりこんでいます。カビが生えた餅を切ってみると、表面から1〜3cmぐらいまで菌糸が伸びているのが観察できます。

図4 カビのコロニー

3. カビの発育条件

 次の4つの条件(酸素、温度、水分、栄養分)が揃えば、カビは発育します。

1) 酸素:カビは好気性の微生物で呼吸のために酸素が必要です。

2) 温度:5〜45℃で発育可能ですが、最適温度は20〜30℃です。

3) 水分(湿度):一般には水分含量が高いほど(80%以上)よく発育します。しかし、細菌が約50%以下の水分含量で発育できないのに対し、カビは、15〜50%程度でも発育することができます。食塩や糖濃度の高い食品や乾物類に発生するカビは特に好稠性カビ、好乾性カビと呼ばれています。

 

4) 栄養分:カビは植物と違って葉緑素を持たず、光合成ができないため、発育には有機物が必要です。どちらかというと、細菌が蛋白質の多い肉や卵を好むのに対して、カビは炭水化物や糖を含んだ穀類、豆類、いも類に好んで繁殖する傾向があります。

 もうおわかりでしょうが、以上の4つの条件は人の生活環境とほとんど重なっています。4つのうちどれかひとつを完全に断てばカビは生育できませんが、ミネラルウオーターはもちろん、レンズやジェット機の航空燃料にまで生えることのできるカビは人間の想像以上の生命力を持っているようです。

4.カビの死滅条件

 そのような強い、しぶといというイメージとは異なって、カビそのものは案外容易に死滅します。湿度100%で70℃・10分の加熱、消毒用エタノール、20mg/l次亜塩素酸ナトリウム溶液等でほとんどのカビが死滅します。それでも、風呂場のカビが絶滅しないのは、浴槽のへりの防水用シール材に生えたカビの基底菌糸に物理的な除去法も届かず、薬剤も浸透しないためです。たとえ全て死滅させたとしても、環境が同じであれば、またそのうち、カビが繁殖することになります。

5.カビ汚染の防止

 それでは、カビ汚染を防止するには具体的にはどうすればいいのか、家庭内で一番カビの発生頻度が高い風呂場について考えてみます。まずは生えてしまったカビは市販のカビ取り剤や次亜塩素酸ナトリウム溶液などを用いて、できるだけ除去します。(消毒用エタノールは濡れた壁に噴霧しても効果が低下するので要注意!)その後、防カビスプレーを吹き付けるのも効果があります。しかし、何と言っても一番のポイントは水分の除去です。壁面の水滴をタオルでふきとる、朝まで換気扇をつける、家族が多い場合は間隔をつめて入浴するなど、一日のうち乾燥した状態ができるだけ長く続くよう心がけましょう。

食品細菌課 久米田 裕子

 


  (か)に盈(み)ちて後進む 第1、2期編集後記

 

はくぼみがあれば先ず、そこに溜まり、やがて先にながれてゆく、つまり学問をする     にも一歩一歩順を追いながら、すすむべきこと、の喩えだそうです。当研究所は本年創立40周年を迎えます。この間、感染症、環境汚染、労働、食品、薬品など公衆衛生の実に広い分野を網羅し度重なるテーマの変遷を繰り返しながら、永年にわたって培われ、蓄積されてきた膨大な衛生科学の情報量は、今や満々と水をたたえた湖のようですらあります。

 先の喩えのように、このような情報の中からタイムリーなものをどのように汲み上げて、解りやすく効果的に流布していくか、これが第1と2期の編集委員会に課せられたテーマでした。幸い1997年に第1号の発刊を果たし、ミレニアムの本年上半期までに10号を刊行しました。さらに、印刷物である冊子の発行のみにとどまらず、同じ記事を当所のホームページに掲載することを試み、今ではインターネットを通じてカラフルな情報発信を実現しています。

 公衆衛生領域の調査研究は、21世紀に至ってもよどみなく続けられるはずです。多彩なこの分野の科学情報を的確にしかも絶えまなく伝える発信メディアとして、「公衛研ニュース」に向けられた期待は大きく、またその果たす役割も一層重みを増していくものと思われます。

第1、2期編集委員会 大石 功


発行日:平成12年7月1日
編 集:桑原、野上、小坂、足立、加瀬、岡村
事務局:薬師寺 、渋谷(内線297)