侵入毒グモのゆくえ

から5年前の1995年11月に突然この大阪府内でセアカゴケグモやハイイロゴケグモという毒グモが発見され大騒ぎになりました。これらのクモは神経毒成分のα-ラトロトキシンを有しており、オーストラリア等では毎年このクモに咬まれた被害者が多数出ています。同年12月と翌年の9月に私たちが行ったセアカゴケグモの毒性試験が公表され、その危険性等を考慮して、関連自治体は住民への広報活動、および、抗毒素血清の配置等の危機管理対策を行いました。その後、パニック状態が沈静化し、96年12 月初めに、大阪府セアカゴケグモ対策検討委員会は解散しました。この一連の流れのなかでこの毒グモに対する世間の関心はしだいに沈静化し今日に至っています。97年夏期には、大阪府内で1名の被害者(推定)が発生しましたが、上記の危機管理体制の活動で事無きを得ました。

1.侵入してきた毒グモの特徴

 日本に侵入してきた毒グモは、セアカゴケグモとハイイロゴケグモの2種類で、これらのクモはヒメグモ科に属し、腹部腹面に赤色気味の砂時計様の模様が認められます。雌の腹部背面は、セアカゴケグモでは赤いネクタイ様の模様があり、ハイイロゴケグモではドット状の赤い斑点が特徴です。雄の腹部腹面は雌と同様ですが、腹部背面は雌の赤い部分が白に置き換わっています。いずれのクモも雌の成体は、10mm前後あるのに対して、雄は3mm程度しかありません。これらのクモは、コガネグモ科のクモが規則正しい同心円形の網を張るに対して、地面に近い所で不規則な網を張ります。またその網には、落ち葉や周辺のゴミが派手なほど付着しているものもあります。

2.セアカゴケグモの一生

 室内での飼育実験(室温、約30℃)の途中経過ではありますが、図1に示すように、雌は卵を嚢状(一卵嚢中にはおおむね平均200個)で産下し、約20日前後で仔グモ(2令、卵嚢の中で孵化し、さらに1回脱皮する)が卵嚢の表面に脱出孔をあけて出てきます。雄は、97%弱が5、6令で性的に成熟し、残りが7令で成熟します。一方雌は、8、9令で成熟します。成熟するまでに要する時間は雄で出嚢後平均40日、雌では73日を要します。雌の性的成熟を待って雄と同棲させると、雄は交尾後雌の餌食になってしまいます。ゴケグモのいわれはこのことからきています。交尾した雌は約10日後毎に産卵し、その回数は4回までは確認されており、このクモの寿命については現在観察中です。

図1 大阪で捕獲されたセアカゴケグモのライフサイクル

3.毒グモはどこへいった? - 大阪府内での分布 -

 大阪府内においてはセアカゴケグモが確認されたのは1996年までに15市4町でした。97年8月には新たに吹田市でも確認(住民から所轄保健所に連絡)されました。しかしながら、確認された市町村の間でも個体数および発見される場所数は著しく異なっていました。95年から97年のいずれの年にも恒常的に確認された市町村は、11 市1町であるのに対して、5市3町では一時的にみられただけでした。広範囲に恒常的に確認されたのは堺市以南の地域で、大阪湾岸の埋め立て地に集中していましたが、内陸部でも散在して観察されました。もちろん関西新空港もその例外ではありませんでした。一方、大和川以北の地域では発見された所はいずれもスポット的で、個体数も大きな集団ではありませんでした。99年にはセアカゴケグモが確認された累積市町村数は、16市6町に達しました。

 2000年に入っても10市4町で前年に引き続き確認されており、地点数(発見場所)とその個体数の増加がみられています。少なくともセアカゴケグモの生息地域は、発見当初よりも大阪府南部全域では年々拡大しているといえます。一方、ハイイロゴケグモは、大阪市港湾地帯で発見されてからその後は大阪府内では確認されていません。1995年から2000年の大阪府内での分布についての調査は、大阪府健康福祉部環境衛生課、保健所、堺市保健所等の関係機関と当研究所が共同で行ったものです。

4.毒グモ被害予防のために

 セアカゴケグモは神経毒をもつ毒グモであり、警戒を要する生物です。決して素手では触らないようにしてください。怪しいクモを見つけたら大阪府内の保健所、自治体の関係部局に連絡し、適切なアドバイス、処置方法等をきいてください。クモに咬まれた時の症状は、局所の疼痛、発赤、腫脹と全身の発汗です。毒が全身に広がるにしたがって、嘔気、嘔吐、頭痛が生じ、重症例では、進行性の筋肉麻痺が起こります。

 大阪府では咬傷時の連絡網を常時、環境衛生課衛生指導グループ内に設けています。さらに府立病院の救急診療科では、抗毒素を用意し、診療体制を整備し、万全の態勢をとっています。

ウイルス課 吉田 政弘