ヒスタミン食中毒(アレルギー様食中毒)

柳に「はづかしさ医者にかつおの値が知れる」 というのがありますが、これはカツオを食べてヒスタミン食中毒になったことを詠んだものです。皆さんの中にもしめさばやカツオのたたきを食べて、ヒスタミン食中毒になった方がおられるのではないでしょうか。
 ヒスタミン食中毒は、衛生状態も悪かった1950年初頭までは主要な食中毒の一つでした。現在では低温流通 が普及し大規模な事件は減少しましたが、小さな食中毒は依然発生しています。
 ところで、「サバに当たる」という言葉が普段使われるように、魚自身に問題があるように思われていますが、実は細菌が原因で起こる食中毒なのです。しかし、この事を知っている人はごく少数のようです。

1.ヒスタミンは細菌がつくる

 ヒスタミン食中毒とは、ヒスタミンを大量に含む魚介類を食べることにより、摂食後、数分から2、3時間という短い間に悪心、嘔吐、下痢、腹痛、頭痛、舌や顔面 の腫れ、じんま疹、金属様の味(peppery taste)、めまい感といった症状を起こす食中毒です。このように多くの症状がありますが、実際にはこのうちの2,3の症状しか示さず、長くても1日程度で自然に治ります。どの症状が現れるかは、摂取したヒスタミンの量 や患者の個人差によりますが、心臓や呼吸器に基礎疾患のある人が発症した場合、重症となる可能性があるので注意が必要です。一般 的には、魚肉中に500μg/g以上のヒスタミンが蓄積されると食中毒が起こるとされていますが、感受性の高い人ならば50μ g/gで発生する場合もあります。
 ではなぜ、魚肉中でヒスタミンが増えるのでしょうか?原因となる食品はいわゆる赤身魚(マグロやサバといった血合いが濃い魚)であり、刺身以外でもイワシやサンマの干物やサバ缶 でも起こっています。赤身魚は筋肉中にアミノ酸の一種であるヒスチジンを多く含んでいます。魚を室温で放置していると、ヒスチジンをヒスタミンに変える酵素を持っている細菌(ヒスタミン生成菌)が増殖し、それに伴いヒスタミンも増えるのです。また、魚の腐敗の指標となるアンモニアなどの生成量 がまだ少ないにもかかわらず、ヒスタミンは大量に産生されることがあり、気づかずに食べてしまうと食中毒になるのです。現在ヒスタミン食中毒を引き起こすとされている菌は、もともと人や動物の腸内にいる菌であるため、細菌の汚染は魚が水揚げされてから以降に起こります。

2.ヒスタミン食中毒と食物アレルギー

 この食中毒はアレルギー様食中毒とも呼ばれていますが、これは食中毒の症状がアレルギーの症状に似ているからです。そこで考慮しなければならないのは、たとえばサバを食べて数分後に前述のような症状が出た場合、それがヒスタミン食中毒なのかサバに対するアレルギーなのかを区別 することです。まず、過去にサバを食べて同じ様な症状を示したことがあるかを患者に確認する必要があります。また、皮内テストやサバ特異的 IgE 抗体テストをすれば、アレルギーであるか否かが判断できます。アレルギーならば以後サバを食べないように注意し、単なる食中毒ならば今後もサバが食べられるということになります(当たってからサバが嫌いになったという話をよく聞きますが)。しかし、どちらにしても抗ヒスタミン剤を使えば簡単に治りますし、普通 は症状が軽いことから病院に行くことは少ないようです。

3.冷蔵、そして早く食べるのが一番の予防法

 ヒスタミン生成菌による汚染は意外と高頻度に起こっており、私たちが赤身魚とその加工品を検査したところ、その中の約60%が汚染されていました。ただし、ヒスタミンの検出率は10%未満でした。その結果 を表1に示します。表1のマグロとカツオ生節は、ヒスタミン生成菌は多いにもかかわらず、ヒスタミンは検出されませんでした。

表1 赤身魚およびその加工品におけるヒスタミン生成菌の
    菌数と ヒスタミン濃度 (1999年)

検査した時点でヒスタミンを生成していなかったからだと思われます。それに対して、この時のイワシ丸干しでは、細菌も認められ、ヒスタミン濃度もかなり高いものでした。したがって菌に汚染されていても、菌が増殖しヒスタミンを生成しなければヒスタミン食中毒は起こらないということです。

 冷蔵中は菌の増殖およびヒスタミンの生成は完全ではありませんが抑えることができるので、魚が水揚げされてから私たちの口に入る間の冷蔵保存が重要となります。しかし、近年は発展途上国からの魚の輸入が増えており、ヒスタミン食中毒の予防で最も大事だとされる水揚げされてからすぐの冷蔵が適切に行われていない場合があります。この場合、食品中でヒスタミン生成菌がかなり増殖しており、ちょっとした隙に(たとえば買い物帰りの長話の間に)ヒスタミンを生成してしまうのです。また通 常、ヒスタミン生成菌は低温ではヒスタミンを生成できないとされていますが、大量 に菌が増殖した場合は冷蔵中もヒスタミンを生成するとの報告があります。
 赤身魚は買ってきたらできるだけ早めに食べるか、保存するなら冷凍すべきです。ヒスタミンは102℃で3時間加熱しても一部しか壊れないため、「少しぐらい傷んでいても加熱すれば大丈夫だろう」と考えるのは大きな間違いです。

4.最後に

 今日ではヒスタミン食中毒は低温保存の普及により、あまり発生が見られませんが、海外ではHACCP (hazard analysis and critical control point ) を導入して加工品製造における衛生管理を徹底するなど、ヒスタミン食中毒に関してはかなり気を使っているようです。特に我が国では魚を生で食べる機会が多く、ヒスタミン食中毒の予防には消費者の認識も必要になってきます。赤身魚は買った日に食べ、保存するなら冷凍しましょう。

食品細菌課 神吉 政史、食品化学課 吉田 綾子