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  ごみ焼却場職員のダイオキシン類暴露状況

衛研には労働衛生部という部門があります。職場で発生する化学物質中毒や騒音性難聴、あるいは腰痛や頚肩腕障害などの健康障害から府民を守ることを目的として、様々な調査研究を実施しています。これらの中から、ごみ焼却場職員のダイオキシン類への暴露状況調査を紹介します。
 1999年3月、労働省(現:厚生労働省)は、豊能郡美化センター(大阪府)の職員の健康調査結果を発表しましたが、焼却炉関連施設内に立ち入って作業を行なったことのある職員の血中ダイオキシン類濃度は平均323pgTEQ/g脂肪と、一般人の約15倍に上昇していました。全国では、1,000を超える自治体の焼却場がありますが、他の焼却場でも同様の状況であるとすれば憂慮すべき事態です。このため、当所では、これまで6つのごみ焼却場において、職員の血中ダイオキシン類濃度の調査を実施しました。

表1 対象焼却場の概要と排ガス中のダイオキシン類濃度
焼却場
A
B
C
D
E
F
稼動開始
1988年
1980年
1975年
1981年
1986年
1979年
ごみ処理量
160トン/日
300トン/日
600トン/日
20トン/日
40トン/日
60トン/日
炉形式
全連続式
ストーカ
全連続式
ストーカ
全連続式
ストーカ
バッチ式
流動床
准連続式
流動床
准連続式
ストーカ
除塵装置
電気集塵器
電気集塵器
電気集塵器バッグフィルター
バッグフィルター**
電気集塵器
電気集塵器
排ガス中ダイオキシン類濃度 (ngTEQ/Nm3)*
8.9-42
0.82-1.35
0.072-12
0.22-590
11-256
11-53
 *: 1995〜98年のデータ  ng:1gの10億分の1  **:以前に電気集塵機使用

1. 毒性等量(TEQ)とは

 最初に、血中ダイオキシン類濃度の数値の見方について簡単に説明します。ダイオキシン類というのは、ダイオキシン、ジベンゾフラン、そしてコプラナーPCBの総称です。塩素の数とその付く位置によって様々な種類があり、現在、毒性係数が定められたものは29種類あります。毒性の強さは物質ごとに大きく異なります。このような毒性の強さの異なる種々のダイオキシン類を総合的に評価する指標が毒性等量(TEQ)です。新聞やテレビで報道される数値は、多くの場合この値です。ただし、「ダイオキシン+ジベンゾフラン」を算出している場合と、「ダイオキシン+ジベンゾフラン+コプラナーPCB」を算出している場合がありますので注意が必要です。

2.単位はpg/g脂肪

 ダイオキシン類は脂肪によく溶けます。このため、体内では脂肪組織にもっとも多く蓄積しており、脂肪組織中のダイオキシン類濃度は体内蓄積の指標になります。血液中には脂肪が少ないため、ダイオキシン類の蓄積も少ないのですが、血中脂肪1g当たりの濃度として表すと、脂肪組織中濃度と同程度になります。単位はpg/g脂肪と書きます。毒性等量で表す場合はpgTEQ/g脂肪で、pg(ピコグラム)とは1グラムの1兆分の1です。

3.焼却場職員と一般人を比較

 調査した6つの焼却場の概要を表1に示します。排ガス中ダイオキシン類濃度は0.072〜590ngTEQ/Nm3と低いケースから高いケースまで含まれています。焼却場A、B、Cでは勤続年数が長い職員10名から採血し、焼却場D、E、Fでは全職員(7、7、6名)から採血し、血中ダイオキシン類濃度をガスクロマトグラフ・質量分析計で測定しました。また、比較のため、同じ地域で勤務する一般人(職業的にダイオキシン類暴露がない)を同数選び、同様に測定しました。

4.毒性等量は一般人と同程度

図1は焼却場職員と一般人の血中ダイオキシン類濃度の平均値を毒性等量(ダイオキシン+ジベンゾフラン)で表しています。焼却場職員では、23、28、35、23、29および23pgTEQ/g脂肪、一般人では29、28、29、16、19、および25pgTEQ/g脂肪です。いずれの地域でも、統計的に検討してみると両者間で差はありませんでした。したがって、毒性等量で見ると、これら6カ所の焼却場職員の血中ダイオキシン類濃度は、一般人と同程度であると言うことができます。
図1 焼却場職員と一般人の血液中
   ダイオキシン濃度

5.焼却場職員では一部のダイオキシン類濃度が高い

 しかし、ダイオキシン類の種類ごとに血中濃度を比較すると、一部の物質では、両者間に差が見られました。特に、1,2,3,4,6,7,8-七塩化ジベンゾフランについては、いずれの地域でも焼却場職員の方が高い結果となりました(図2)。図3は、焼却場での1,2,3,4,6,7,8-七塩化ジベンゾフランの暴露指数(焼却場内の堆積粉塵中濃度×職員の勤続年数)と職員の血中濃度の関係を示しています。暴露指数の上昇とともに血中濃度も高くなっており、勤務中の暴露を反映していることがわかります。五塩化,六塩化,八塩化ジベンゾフランについても同様の傾向が見られました。このことは勤務中にダイオキシン類を体内に取り込んでいることを示しています。

6.ダイオキシン類の取り込み防止対策を実施

 今回調査した焼却場では、職員の血中ダイオキシン類濃度は、毒性等量から見ると一般人と同程度でした。しかし、ダイオキシン類の一部が一般人よりも高くなっており、勤務中にダイオキシン類の取り込みがあることもわかりました。現在、これらの焼却場では、焼却施設の改良によりダイオキシン類の発生を減少させるとともに、より性能の良い呼吸保護具の導入などにより、勤務中のダイオキシン類の取り込みを防止する対策を推進しています。
 自治体の焼却場の中で血中濃度の測定を実施した所はほんのわずかです。実態を明らかにするには、さらに調査が必要です。
図2 焼却場職員と一般人の血液中1,2,3,4,6,7,8-塩化ジベンゾフラン濃度
図3 七塩化ジベンゾフラン暴露指数
      (ng/g×年)

労働衛生部 熊谷信二


  忍び寄る輸入感染症

通が発達して国際交流が盛んになり、海外から多くの人や物がわが国に入ってくるようになりました。快適で便利な生活を営むには結構なことですが、良いことばかりではありません。歓迎しない輸入感染症の侵入の機会が増加しています。それらの中にはウイルスを原因とするものがあり、これを輸入ウイルス感染症と呼びます。侵入(感染)経路としてはいくつか考えられますが、それぞれの経路とウイルス感染症の種類について表2にまとめてみました。

表2 輸入ウイルス感染症の侵入経路と種類
侵入経路
感染症の種類
デングウイルス感染症(デング熱、デング出血熱)、黄熱、A型肝炎、B型肝炎、エイズ、エボラ出血熱、マールブルグ病、ラッサ熱、クリミア・コンゴ出血熱など
食品・生体材料等
A型肝炎、C型肝炎、ウイルス性下痢症、クロイツフェルト・ヤコブ病、エイズなど
動  物
節足動物
狂犬病、腎症候性出血熱、デングウイルス感染症、黄熱、日本脳炎、西ナイル脳炎など

1.人が海外から持ちこむウイルス感染症

 日本人が海外旅行中に現地で感染し、潜伏期間中に帰国して発症するケースなどがこれです。この可能性のある感染症の種類は多く、その代表がデングウイルス感染症です。
 デングウイルスはフラビウイルス科に属し、70種類近くあるこの科の代表的なウイルスです。このウイルスは、熱帯に生息するネッタイシマカという蚊によって媒介され、人に感染しやすいのが特徴です。人→蚊→人のサイクルで感染が拡大し、人口密度が高いほど大きな流行となります。主な流行地は東南アジアと中南米ですが、とくに東南アジアではほとんどの人が子供の時に感染するので、「熱帯のはしか」ともいわれています。これらの熱帯地域を旅行した人が帰国して高熱を発した場合には、まずマラリアやデング熱を疑うのが鉄則と考えます。デング熱の特徴的な症状は突然の高熱と発疹ですが、死ぬことはまずありません。しかし、小児がデングウイルスに感染した場合は、全身に出血傾向を示し、一部はショックを起こして死亡することがあり、流行期には多数の小児が罹患するため恐れられています。筆者は、インドネシアを旅行していた日本人女児がデング出血熱に罹った例を経験しています。
 当研究所は、デングウイルス感染症の診断ができる数少ない研究所で、大阪はもとより他府県の医療機関からデング熱を疑う患者の診断を依頼されることが多くなってきています。わが国の昨年の届け出患者数は18例ありましたが、実数はこれよりもはるかに多いと推測されます。
 エボラ出血熱、マールブルグ病、ラッサ熱、クリミア・コンゴ出血熱は、今まで日本で発生したことはありませんが、患者が国内の医療機関で発見された場合は、深刻な事態になることが予想されます。これらの出血熱は、患者の血液や体液から二次感染する危険性があり、死亡率が高いのが問題です。最初はインフルエンザ様の症状を示すので、早期に診断して迅速に対応することが肝心です。

2.輸入食品や生体材料等から感染するウイルス感染症

 ウイルスに汚染された輸入食品を喫食して発症することがあります。その多くは魚貝類であり、急性肝炎を起こすA型肝炎ウイルス、ウイルス性下痢症の原因である小型球形ウイルス(SRSV)などがこれに該当します。調理の時に、十分に加熱することにより予防することができます。
 一方、血液製剤中には各種のウイルスが混入している可能性があり、輸入血液製剤が原因で発病したエイズはあまりにも有名です。また、最近ではC型肝炎も問題になっています。
 さらに、輸入された硬膜を移植された患者が致命的なクロイツフェルト・ヤコブ病に罹患し、第二の薬害エイズかと問題になっていますが、この病原体はウイルスではなくプリオンという蛋白です。同じプリオンが原因で牛が発病するのが牛伝染性海綿状脳症(狂牛病)です。狂牛病と人のクロイツフェルト・ヤコブ病との関連が問題になっており、現在、日本では流行地(EU加盟国および自国産牛で発生のある国)からの牛肉の輸入を停止する処置を講じています。

3.動物から感染するウイルス感染症

 ウイルスに汚染された動物から人が感染する場合がこれで、海外から持ち込まれたり侵入してくる動物の場合は、国内にはない感染症が発生します。この中で、最も恐れられているのは狂犬病の発生です。
 人の狂犬病は、東南アジア、中南米、アフリカに特に多いようです。日本国内では1957年以降、狂犬病の国産犬の報告は皆無です。しかしながら、日本、イギリス、スカンジナビア半島の国々など一部の地域を除いて世界中で多数の患者発生があり、毎年約5万人が発症し、そのすべてが死亡しています。イヌが主な感染源ですが、ネコも多いのです。そのほか、ジャッカルやコウモリなど多くの野生動物が感染源となり得ます。家畜や特定の動物の輸入には検疫体制がとられていますが、検疫対象とならない種類の動物もあるのが現状です。ペットとして多種類の動物がわが国に持ち込まれており、人がこれらの動物からさまざまなウイルスに感染しても不思議ではありません。今後さらにペットの輸入時の検疫体制を強化することが必要だと考えられます。
 また、昆虫などの節足動物によってウイルスが媒介され、哺乳動物が感染するアルボウイルス感染症としては日本脳炎、デング熱、黄熱などがその代表で、とくに熱帯、亜熱帯地域を中心に地方病的な流行を起こしています。
 しかし、この感染症についての最近の注目すべき事例は、1999年8月下旬に突然、ニューヨーク市でアルボウイルス脳炎患者が発生したことです。このとき7名の死亡例が報告され、人、鳥、蚊から分離されたウイルスを同定したところ、西ナイルウイルスであることが判明しました。アフリカが主な流行地である西ナイルウイルスがなぜニューヨークという大都会に侵入したのか、全くの謎です。
 近年のように温暖化が進むと、日本でも今まで予想もしないウイルス感染症が発生する可能性があり、常に監視を怠ってはいけないと思われます。

ウイルス課 奥野良信


 低濃度ガス長期暴露実験設備の紹介

害衛生室では大気汚染物質の生体影響を調べるため動物暴露実験を行っています。暴露実験室では実験動物にガス状大気汚染物質の二酸化窒素を数ヶ月単位で連続吸入させながら飼育しています。
 室内の温度は一年中24℃に保たれており、動物はアクリル製の暴露チェンバー内で飼育しています。暴露空気は、ブロアーにより室内空気をフィルターと粒状活性炭を通してチェンバー内に導入し、これに二酸化窒素を混合して調製しています。チェンバー内の気圧はやや陰圧にしてあり、暴露空気が外へ漏出する事はありません。チェンバーは4段になっており、段毎に異なった濃度の二酸化窒素の導入が可能で、二酸化窒素濃度は常時自動測定装置で監視しています。
 また、飲み水は自動給水により自由摂取させ、糞尿は一定時間ごとに自動水洗により掃除しています。アクリル製のチェンバーは、加工がしやすく、透明なので動物の観察がしやすいといった利点があり、耐久性についても10年以上使用可能です。この他、エアロゾルの吸入装置があり、この装置は一度に30匹のマウスにエアロゾルを吸入させることができます。
 これらの装置を用いて、二酸化窒素の吸入、エアロゾルの吸入、粒子状大気汚染物質の気管内注入等を組み合わせた動物実験を行っています。

公害衛生室 中島孝江


発行日:平成13年5月28日
発行者:大阪府立公衆衛生研究所長 江部高廣
編 集:桑原、野上、小坂、足立、加瀬、岡村
事務局:薬師寺 、渋谷(内線297)
〒537-0025 大阪市東成区中道1-3-69
TEL:06-6972-1321
FAX:06-6972-2393