輸入腸管感染症について

外旅行者が旅行中にコレラ、赤痢、腸チフスパラチフスなどの感染症法(平成11年4月施行・感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律)の2類感染症や、腸炎ビブリオ、サルモネラ、病原大腸菌などの食中毒菌に感染し、日本国内に持ち込む「旅行者下痢症」を「輸入腸管感染症」とよびます。コレラ、赤痢、腸チフス、パラチフスは旧・伝染病予防法では法定伝染病でしたが、新しい感染症法では、「感染力、罹患した場合の重篤性などに基づく総合的な観点からみた危険性が高い疾患」と定義されており、わが国で発生する症例の多くが輸入例によって占められています。
 当所では、海外旅行者下痢症を予防し、輸入症例から派生し国内で蔓延することを防止するために、関西空港検疫所と協力して大阪府における輸入腸管感染症を細菌学的に調査しています。以下に当所の調査成績を中心に、輸入腸管感染症の概況を紹介します。

1.調査対象

 大阪府住民で海外から帰国し検疫時に下痢の申告をして空港検疫所で検査を受けた人と、帰宅後に保健所や医療機関で検査を受けた人を調査対象としました。対象者の旅行地はタイ、インドネシア、インド、ネパール、シンガポール、マレーシアなどの東南アジアおよび南西アジア諸国が多く、これらの国々への旅行者が旅行者下痢症に罹患する機会がとくに多いことを示しています。(表2)

2.検出された病原菌

 1995年から1999年までの5年間に調査した4,777人のうち1,622人から病原菌が検出され、海外旅行下痢症の34.0%から病原菌が分離されたことになります。最も多く検出された病原菌はプレジオモナスであり、次いで赤痢菌、腸炎ビブリオ、エロモナス、毒素原性大腸菌、サルモネラの順で、この6菌種で94.2%を占めていました。また複数の病原菌が検出された混合感染例が257症例(15.8%)もみられ、プレジオモナスと他の病原菌の組み合わせが多くみられました。

3.感染菌種と感染国の関係

 タイ、インドネシア、インドを旅行した被検者に多数の細菌感染症例がみられました。
 赤痢症例はインドにおける感染が最も多く、次いでインドネシア、タイ、ネパール、エジプトの順で合計31カ国にわたって277症例がみられました。コレラ症例はインドネシアが多く計8カ国で24例、 チフスおよびパラチフスは5カ国のみで、インドとインドネシアに多くみられました。プレジオモナスの感染例はタイとインドネシアが多く22カ国の863例から検出されました。

4.「旅行者下痢症」の危険因子

 関西空港検疫所が行った下痢患者160人(腸炎ビブリオ、赤痢、コレラ患者の合計)と下痢を経験しなかった160人を対象とした研究によると、喫食内容では氷が危険因子でした。また、旅行者側の要因としては睡眠不足や胃腸薬の内服(制酸作用)が危険因子でした。

5.旅行者下痢症を予防するには

 予防のためには、病原菌で汚染された飲食物を摂取しないことです。WHOは「海外渡航者のための安全な食事の手引き」のなかで、市街地の屋台での飲食のみならず、高級ホテルのレストランでの食事までいかなるときにも注意が必要であるとアドバイスしています。以下に感染予防のための注意点をあげてみました。
(1)水道水でもなま水を避け、煮沸あるいは消毒した水を飲む。
(2) ジュース類は瓶・カンから直接飲む。グラスに氷を入れて出されるものは、氷が汚染されている可能性がある。
(3) シャワーを使うとき、その水を飲まないように注意する。
(4) 加熱した食品を摂る。調理後に汚染する場合もあるので、給仕された時にまだ温かいかどうか確認する。
(5) 果物は表面に傷が入っているものは避けて、皮をむいたら早く食べる。
(6) 消化薬や胃腸薬には制酸剤が入っており、胃液の殺菌作用が抑制され感染しやすくなる。

6.もし下痢症状がでたら 

 脱水状態にならないようにスポーツ飲料など塩分を含む飲み物で水分をたくさん摂りましょう。そして帰国時に検疫所で申告して下さい。また帰宅後に下痢や発熱などの異常があった場合は医療機関を受診して下さい。症状がなくなっても病原菌を排泄して家族や友人、職場の人たちに感染させるおそれがあるので、検査を受けて病原菌を持っていないことを確認しておきましょう。


微生物課 田口真澄