最近のエイズ動向

界で初めてのエイズ患者が1981年にアメリカで報告されて以来、エイズウイルス(HIV)は広く世界で確認されるようになり、20年が過ぎた今でも途上国を中心に感染拡大の勢いは衰える気配すらありません。現在、世界中で4,000万人のHIV感染者が生存しており、毎日15,000人が新たに感染していると推測されています。有効な治療薬が開発され、病気の進行を遅らせることは可能になりましたが、いまだ完治させるには至っていません。すなわち、感染者はエイズ発症を抑えるため高価な薬を一生涯飲み続けなければならないのが現状です。しかも、薬の恩恵にあずかれるのは先進国のごくわずかな感染者のみで、4,000万人の感染者の大部分が住む途上国では、エイズは今でも死に直結する病気なのです。
 日本ではテレビや新聞でもほとんど話題に上らなくなってしまったエイズですが、はたして「自分には関係ない」ですませていいのでしょうか。

1.性感染症として広がるエイズ

 わが国のエイズ患者・HIV感染者数は、諸外国に比べると少ないながらも年々着実に増え続けており、平成14年9月29日までの累計でHIV感染者数4,982名、エイズ患者数2,488名が報告されています(血液製剤による感染を除く)。なかでも日本人男性の感染者が著しく増加しており、2001年の報告では全体の76.5%を占めています(図1)。また、異性間および同性間の性的接触が感染経路の大部分を占めていることから、HIVが性感染症(STD)として流行していることがわかります(図2)。つまり、エイズは「特別な人だけが罹る特別な病気」ではなく、無防備な性行為(コンドームを使わない、不特定多数の人との性交など)をすれば誰でも感染する可能性があるのです。1回の性交によりHIVが感染する確率は約0.1%とされていますが、他のSTD(淋病、梅毒、クラミジア等)が存在すると、患部の皮膚・粘膜が弱まりHIVが侵入しやすくなるため、感染率が数倍から数百倍にも高まると言われています。
 近年、初体験年齢の低下に伴って10代の若者の間でSTDが流行しつつあり、それに引き続くHIV感染の拡大が懸念されます。

図1 HIV感染者数の性別、国籍別年次推移
図2  HIV感染者数の感染経路別年次推移

2.大阪府の現状

 府内のHIV感染者数は全国第5位、患者数は第6位であり、平成14年9月末までの累計でそれぞれ344名および134名が報告されています。大阪府域では男性同性間の性的接触による感染が多く見られるのが特徴で、2001年の報告によると、異性間での感染が15.9%(全国では34.3%)であるのに対し、男性同性間は73%(同50.6%)と圧倒的多数を占めています。当研究所では、感染者が持っているウイルスの性質や薬剤耐性の有無を調べるなど、医療機関と協力して感染者の治療支援を行う一方で、男性同性愛者(ゲイ)を対象としたSTD予防・啓発推進プロジェクトに参加し、HIV抗体検査を担当するなど、ゲイ・コミュニティにおけるHIV感染拡大の防止にも積極的に取り組んでいます。

3.STDクリニックにおけるHIV抗体調査

 当研究所では、大阪府内におけるHIV流行の実態把握を目的として、1992年以来、府内の性病科、泌尿器科、産婦人科等のSTD関連クリニックに協力を依頼し、HIV感染に対して危険度が高い行動を取っていると思われる受診者(不特定多数と性交渉を持った人や性風俗産業に従事している人など)を対象に、HIV抗体調査を実施してきました。2001年末までに約20,000検体について検査し、48例の陽性者を確認しましたが、ここ数年はその大部分を日本人男性が占めています(図3)。

図3 STDクリニックにおける年別HIV抗体陽性件数

昨年は陽性者数が過去最高の9例にものぼり、また今年に入ってからもすでに7例の陽性者が見つかるなど、近い将来の大流行を憂うべき調査結果が得られています。

4.検査を受けましょう

 HIVの感染拡大を阻止するためには、一人一人がエイズに関する正しい知識を持ち、危険な行為をしないようにすることが大切です。そして、感染したかもしれない、と思うような機会があったなら、迷わず検査を受けて下さい。もし感染していたとしても、早い段階であれば治療効果も高く、また知らないうちに他人に感染させてしまうことも防げます。まずは感染しないこと、そして次に大切なのは「出来るだけ早く感染を知ること」なのです。
 なお、HIV抗体検査は、ほとんどの府民健康プラザや保健センター(曜日・時間は機関によって異なります)、大阪予防医学協会(毎週木曜日18時〜20時)、およびNPO法人チャーム(大阪合同ビル2階、毎週土曜日14時〜17時)で、いずれも、無料・匿名で受けることができます。

病理課 森 治代

■性感染症(STD)とは

 Sexually Transmitted Diseases、つまり性行為に伴って皮膚や粘膜から病原微生物(寄生虫、原虫、細菌、ウイルスなど)が感染することによっておこる疾患の総称です。DiseasesをInfectionsに変えてSTIとも呼ばれています。
 最近では、症状がほとんど現れない性感染症(性器クラミジア、性器ヘルペスなど)が増加しており、気付かないうちに感染したり、相手に感染させたりするケースが多く見られます。感染防止にはコンドームの使用が有効です。パートナーからの再感染を防ぐため、検査・治療はパートナーと一緒に行うことが大切です。