細菌性食中毒

 -夏から秋は細菌性食中毒の最盛期-

年に入っても腸管出血性大腸菌O-157による食中毒散発事例が相変わらず発生しています。さらに、残念なことに本菌による集団食中毒の発生がすでにみられたことで、また今年も、悪夢の再来かと懸念されます。

 細菌性食中毒は、食品および水を介して、あらかじめそれらの中で一定数以上に増殖した細菌、あるいは細菌の代謝産物(毒素)を含んだ食品を摂取することによって、急性または亜急性の消化器疾患の症状を呈することを基礎概念としています。従来、食中毒は原因菌が少量の場合は発症しないとされてきました。しかしながら、昨年全国的に大発生したO-157や近年増加が著しいサルモネラによる食中毒では、100個程度で感染が成立し、ヒトからヒトへの感染が証明されています。そのため赤痢やチフスなどの消化器伝染病との境界がかなり曖昧になってきています。

最近の食中毒発生状況

 

厚生省の統計によると、これまで食中毒の発生件数は減少傾向にあったものの、患者数は横ばい状態にありました。すなわち、1件あたりの患者数が多く、食中毒の規模は拡大傾向にあるといえます。

 平成8年はかつて類をみない規模で、O-157による食中毒が全国的に発生しました。5月の岡山県邑久町、7月の堺市における学校給食によるO-157の食中毒発生以来、全国的に食中毒予防のため注意が喚起されたにもかかわらず、大規模な食中毒の発生が続き、食中毒発生件数1,217件、患者数43,935人と、件数、患者数ともに極端な増加を示しました。

細菌性食中毒が好発する季節は例年7月から10月に集中しますが、平成8年は発生のピークが早く7月に認められ、6月から10月までの5ヶ月間に年間発生数の約7割を占めました(図1)。8年度の統計では、細菌性食中毒の中で原因菌別にみた発生件数が最も多いのはサルモネラで、およそ3割(34%)を占めています。次いで腸炎ビブリオ(28%)、O-157を含む病原大腸菌(17%)、カンピロバクター(6%)、ブドウ球菌(4%)、ウエルシュ菌(3%)で細菌性食中毒が全食中毒事例の93%を占めていました。患者数では、サルモネラが最も多く4割以上、病原大腸菌が3割以上と、この2種類の細菌だけで患者数の大半を占めました(図2)。

 食中毒の原因施設別では飲食店での発生が4割を占めて最も多く、次いで家庭、旅館、仕出し屋、事業所、学校の順となっていました。患者数の割合は学校が31%、飲食店24%、仕出し屋17%、旅館14%となっていました。

 近年の食中毒の傾向は、学校給食のように大量調理施設で調理された食事や外食による発生件数の増加と発生規模の増大等が挙げられますが、いずれも大きな課題となっています。

サルモネラによる食中毒

 サルモネラは腸内細菌科に属し、グラム陰性で周囲に毛を備えた、無芽胞桿菌であり、2,000以上の血清型に型別されています。本菌は爬虫類、両生類、哺乳類、鳥類に至る動物、さらに河川等の環境からも分離されています。近年、わが国において、本菌による食中毒が増加傾向を示し、その血清型では世界的にも流行しているサルモネラ・エンテリティディス(SE)による食中毒が大多数を占めています。また、散発下痢症から検出されるサルモネラの血清型も多様ですが、やはりSEの頻度が高くなっています。

 大阪においても、1989年(平成元年)以降それまで比較的頻度の高かったサルモネラ・ティフィムリウム等から次第に置き換わり、SEによる食中毒が増加している現状は全国と同じ傾向です。欧米において1985年頃から増加傾向にあったSEによる食中毒は、その後先進諸国の間で急激に増加しています。その原因がSEに汚染された鶏・卵であることが明らかとなり、世界的に問題となっています。わが国において、1989年以降にSEによる食中毒が著しく増加した原因の一つに、1988年以降に輸入されているSEの保菌ヒナが挙げられます。

 サルモネラの感染源としては、卵(on egg:卵殻表面およびin egg:卵内)、鶏肉、ペット、野生動物などが知られていますが、特にSE はin eggの介卵感染が重要視されています。従って、原因となる食品としては、卵及びその加工品、複合調理食品、菓子類等が主なものです。

 しかし、卵のSE陽性率は5千から1万分の1と低く、感染菌量も20個以下と考えられています。サルモネラの発育温度域は8〜45℃で、卵黄中のSEは25℃で極めてよく増殖しますが、10℃での増殖は遅く、4℃以下での増殖はありません。一方、卵白中では増殖速度が遅いことが知られています。以上のことから、サルモネラによる食中毒の予防策として、全卵(卵白卵黄混合)の殺菌は64.5℃、2.5分間加熱するか、または保存温度を4℃以下の低温に保つことが必要と思われます。

 当研究所では年間を通じて食中毒の発生事例ごとに原因物質の究明に取り組んでいます。また、平成9年4月より、これまで行ってきた細菌学的な検査に加えてウイルス検査も行っています。

食品細菌課 柴田 忠良 


厚生省指定食中毒菌

■ 腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus )

■ 黄色ブドウ球菌 (Staphylococcus aureus )

■ サルモネラ ( Salmonella spp. )

■ 下痢原性大腸菌(病原大腸菌)(Diarrheagenic E.coli )

■ ウエルシュ菌 (Clostridium perfringens )

■ セレウス菌 ( Bacillus cereus )

■ ボツリヌス菌 (Clostridiun botulinum )

■ カンピロバクター・ジェジュニ/コリ (Campylobacter jejuni/coli )

■ エルシニア・エンテロコリチカ (Yersinia enterocolitica )

■ ナグビブリオ ( Vibrio cholerae non-O1 )

■ ビブリオ・ミミカス ( Vibrio mimicus )

■ ビブリオ・フルビアリス ( Vibrio fluvialis )

■ エロモナス・ソブリア ( Aeromonas sobria )

■ エロモナス・ヒドロフィラ( Aeromonas hydrophila )

■ プレシオモナス・シゲロイデス ( Plesiomonas shigelloides )