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ダイオキシンとは

 

今新聞・テレビ等で報道されているダイオキシンとは、ポリ塩化ジベンゾ -p- ジオキシン(PCDDs)の通称であり、これにポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)を加えてダイオキシン類と総称しています。ダイオキシン類は、動物実験の結果から、強い急性毒性のほか、人に対する発ガン性や催奇形性、ホルモン様作用を持つことが疑われています。ダイオキシン類の毒性評価の難しさは、ひとつには、動物の種類によってその毒性が大きく異なることにあります。しかし現在では、TEQ*を用いる各国共通の毒性評価法で評価しています。毒性評価の難しさのもうひとつは、環境への排出が微量であることです。ダイオキシン類は、燃焼や化学物質製造等の過程で非意図的に生成し、燃焼排ガスや化学物質の不純物として環境に排出されます。

 我が国全体における年間ダイオキシン類発生量は4kg〜8.4kgTEQと推定され、その約80%がごみ焼却施設によるものと考えられています。また、ダイオキシン類は難分解性であるため、環境中に残存しやすく、それらが環境を介して食品に移行し、最終的に人に蓄積されます(母乳、血液および脂肪組織等に検出されます)。一般的な生活環境からのダイオキシン類暴露の状態は、大都市地域で0.52〜3.53pg*TEQ/kg(体重)/日 (食事0.26〜3.26、大気0.18)、バックグラウンド地域で0.29〜3.29pgTEQ/kg/日(食事0.26〜3.26、大気0.02)と推定されており、その摂取量の50%以上は魚介類由来であることが明らかになっています。私たちにとっては、まず食事からの摂取量を減らす必要がありますが、それには燃焼排ガスからのダイオキシン類の排出を低減することが肝要です。

 ダイオキシン類の法的規制がこの秋から始まります。環境庁は、大気汚染防止法でごみ焼却施設からの排出基準を決め、それに基づいて厚生省は、ごみ焼却施設の設置基準を設けてダイオキシン類の排出規制に乗り出します。

 当研究所でも、食品等に認められるダイオキシン類の調査・研究を行っています。

 なお、最近、ダイオキシン類とともに、毒性の強い一部のPCB(コプラナーPCB)も合わせて毒性評価を行うことがあります。

*TEQ:毒性等量(Toxic Equivalents):

ダイオキシン毒性を表す数値で、ダイオキシン類の多数の異性体の中で最も毒性が強い2,3,7,8-四塩化ダイオキシン量に換算した値

*pg:ピコグラム:1兆分の1グラム

食品化学課 堀 伸二郎 


細菌性食中毒

 -夏から秋は細菌性食中毒の最盛期-

年に入っても腸管出血性大腸菌O-157による食中毒散発事例が相変わらず発生しています。さらに、残念なことに本菌による集団食中毒の発生がすでにみられたことで、また今年も、悪夢の再来かと懸念されます。

 細菌性食中毒は、食品および水を介して、あらかじめそれらの中で一定数以上に増殖した細菌、あるいは細菌の代謝産物(毒素)を含んだ食品を摂取することによって、急性または亜急性の消化器疾患の症状を呈することを基礎概念としています。従来、食中毒は原因菌が少量の場合は発症しないとされてきました。しかしながら、昨年全国的に大発生したO-157や近年増加が著しいサルモネラによる食中毒では、100個程度で感染が成立し、ヒトからヒトへの感染が証明されています。そのため赤痢やチフスなどの消化器伝染病との境界がかなり曖昧になってきています。

最近の食中毒発生状況

 厚生省の統計によると、これまで食中毒の発生件数は減少傾向にあったものの、患者数は横ばい状態にありました。すなわち、1件あたりの患者数が多く、食中毒の規模は拡大傾向にあるといえます。

 平成8年はかつて類をみない規模で、O-157による食中毒が全国的に発生しました。5月の岡山県邑久町、7月の堺市における学校給食によるO-157の食中毒発生以来、全国的に食中毒予防のため注意が喚起されたにもかかわらず、大規模な食中毒の発生が続き、食中毒発生件数1,217件、患者数43,935人と、件数、患者数ともに極端な増加を示しました。

細菌性食中毒が好発する季節は例年7月から10月に集中しますが、平成8年は発生のピークが早く7月に認められ、6月から10月までの5ヶ月間に年間発生数の約7割を占めました(図1)。8年度の統計では、細菌性食中毒の中で原因菌別にみた発生件数が最も多いのはサルモネラで、およそ3割(34%)を占めています。次いで腸炎ビブリオ(28%)、O-157を含む病原大腸菌(17%)、カンピロバクター(6%)、ブドウ球菌(4%)、ウエルシュ菌(3%)で細菌性食中毒が全食中毒事例の93%を占めていました。患者数では、サルモネラが最も多く4割以上、病原大腸菌が3割以上と、この2種類の細菌だけで患者数の大半を占めました(図2)。

 食中毒の原因施設別では飲食店での発生が4割を占めて最も多く、次いで家庭、旅館、仕出し屋、事業所、学校の順となっていました。患者数の割合は学校が31%、飲食店24%、仕出し屋17%、旅館14%となっていました。

 近年の食中毒の傾向は、学校給食のように大量調理施設で調理された食事や外食による発生件数の増加と発生規模の増大等が挙げられますが、いずれも大きな課題となっています。

サルモネラによる食中毒

 サルモネラは腸内細菌科に属し、グラム陰性で周囲に毛を備えた、無芽胞桿菌であり、2,000以上の血清型に型別されています。本菌は爬虫類、両生類、哺乳類、鳥類に至る動物、さらに河川等の環境からも分離されています。近年、わが国において、本菌による食中毒が増加傾向を示し、その血清型では世界的にも流行しているサルモネラ・エンテリティディス(SE)による食中毒が大多数を占めています。また、散発下痢症から検出されるサルモネラの血清型も多様ですが、やはりSEの頻度が高くなっています。

 大阪においても、1989年(平成元年)以降それまで比較的頻度の高かったサルモネラ・ティフィムリウム等から次第に置き換わり、SEによる食中毒が増加している現状は全国と同じ傾向です。欧米において1985年頃から増加傾向にあったSEによる食中毒は、その後先進諸国の間で急激に増加しています。その原因がSEに汚染された鶏・卵であることが明らかとなり、世界的に問題となっています。わが国において、1989年以降にSEによる食中毒が著しく増加した原因の一つに、1988年以降に輸入されているSEの保菌ヒナが挙げられます。

 サルモネラの感染源としては、卵(on egg:卵殻表面およびin egg:卵内)、鶏肉、ペット、野生動物などが知られていますが、特にSE はin eggの介卵感染が重要視されています。従って、原因となる食品としては、卵及びその加工品、複合調理食品、菓子類等が主なものです。

 しかし、卵のSE陽性率は5千から1万分の1と低く、感染菌量も20個以下と考えられています。サルモネラの発育温度域は8〜45℃で、卵黄中のSEは25℃で極めてよく増殖しますが、10℃での増殖は遅く、4℃以下での増殖はありません。一方、卵白中では増殖速度が遅いことが知られています。以上のことから、サルモネラによる食中毒の予防策として、全卵(卵白卵黄混合)の殺菌は64.5℃、2.5分間加熱するか、または保存温度を4℃以下の低温に保つことが必要と思われます。

 当研究所では年間を通じて食中毒の発生事例ごとに原因物質の究明に取り組んでいます。また、平成9年4月より、これまで行ってきた細菌学的な検査に加えてウイルス検査も行っています。

食品細菌課 柴田 忠良 


厚生省指定食中毒菌

■ 腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus )

■ 黄色ブドウ球菌 (Staphylococcus aureus )

■ サルモネラ ( Salmonella spp. )

■ 下痢原性大腸菌(病原大腸菌)(Diarrheagenic E.coli )

■ ウエルシュ菌 (Clostridium perfringens )

■ セレウス菌 ( Bacillus cereus )

■ ボツリヌス菌 (Clostridiun botulinum )

■ カンピロバクター・ジェジュニ/コリ (Campylobacter jejuni/coli )

■ エルシニア・エンテロコリチカ (Yersinia enterocolitica )

■ ナグビブリオ ( Vibrio cholerae non-O1 )

■ ビブリオ・ミミカス ( Vibrio mimicus )

■ ビブリオ・フルビアリス ( Vibrio fluvialis )

■ エロモナス・ソブリア ( Aeromonas sobria )

■ エロモナス・ヒドロフィラ( Aeromonas hydrophila )

■ プレシオモナス・シゲロイデス ( Plesiomonas shigelloides )


消 毒 剤 

-手洗いの科学-

毒剤は主として手指、皮膚等に用いられる生体消毒剤(Antiseptics)と器具、環境に使用される消毒剤(Disinfectants)に区別されますが、今回は食中毒との関連から生体消毒剤を中心に述べます。

 手指の消毒剤(創傷部位の消毒用を除く)として一般的に入手可能な製剤はクレゾール石鹸液等に限られますが、医療現場等では消毒用エタノ−ル、ヨウ素系のポビドンヨ−ド、陽イオン界面活性剤系の塩化ベンザルコニウム、ビグアナイド系のグルコン酸クロルヘキシジン及び両性界面活性剤系の塩酸アルキルジアミノエチルグリシン等の様々な製剤が使用されています。消毒剤は液状タイプが主流ですが、最近はゲル状、フォーム状の製品や使用後の水洗が不要な擦式の製品も登場しています。

 用途に応じて薬剤を選択すること、製品ごとの用法用量を守ることは言うまでもありませんが、基本的な手洗いの方法が不適切なため、期待する消毒剤の効果が得られないケースも多くみられます。

 昨年のO-157流行時に、堺市で塩化ベンザルコニウム液が各家庭に配布されましたが、これは法定伝染病菌及び食中毒原因菌等を常用濃度(塩化ベンザルコニウム濃度0.05〜0.2%)で殺菌します。塩化ベンザルコニウム液で手指・皮膚の消毒をする場合、消毒前に石鹸で洗浄した後0.05〜0.1%の薬液に浸して洗浄しますが、石鹸によって薬液中の薬効成分が沈殿し効力が低下するため、石鹸分は十分水で洗い落としておくことが大切です。また、無意識に手指を洗うとき図に示したような部分に手洗いミスが発生しやすいので、その部分を意識的に洗浄すること、少なくとも30秒間は手洗い時間を取ることが必要です。一方、家具物品等の消毒には0.05〜0.2%溶液を布片に含ませて清拭塗布又は噴霧して使用し、感染者の使用した衣類などは薬液に浸して消毒しますが、リネン、タオル等に薬効成分が吸着されやすいこと、汚物等に含まれるタンパク成分は薬効成分により変性して凝固するといった点に注意を要します。

 細菌類は全て病気の原因と考えられがちですが、健康な人の皮膚にも細菌類は存在し、皮膚を健康に保つ働きをしています。すなわち、人体にとってよい菌と悪い菌のバランスが崩れることにより感染症は発症することが多いため、消毒剤の適正使用により食中毒や感染症の原因菌を消毒し、疾病を予防することが必要です。当研究所ではこれらの点をふまえた消毒剤に関する総合的な研究を実施しています。

 

薬事指導部 坂上 吉一


クリプトスポリジウムと水道水

リプトスポリジウム(Cryptosporidium)は寄生性の原生動物(原虫)です。数種が知られていますが、その中でクリプトスポリジウム パルバム(Cryptosporidium parvum:以下、C.parvum)という種類は、ヒトを含む多くの哺乳動物(ウシ等の家畜やイヌ・ネコ・ネズミ等)の小腸に寄生し、ヒトでは、激しい水様下痢を引き起こすことが知られています。

 この下痢症は、健常者では、発症しても2週間ほどで自己免疫力により治癒しますが、免疫力の低下した人(HIV感染者、免疫抑制療法を受けている人、老齢者など)では、死に至ることもあります。

 感染したヒトまたは動物の糞便には、C. parvumのオーシスト(oocyst:接合子嚢、大きさ約5ミクロン)が多量に含まれ、環境中ではこの形で存在し、これが経口的に摂取されて感染します。このオーシストは環境中で増殖することはなく、乾燥や熱には弱いのですが、塩素などの消毒剤に強い耐性を持っていることから、これが水道水に紛れ込んだ場合、感染性を持ったまま一般家庭へ供給されてしまう可能性があります。現に、欧米ではこの種の集団感染事故がここ十数年何度か起こっており、日本でも昨年6月に埼玉県越生町(おごせまち)で8,000人以上が感染する事故が起きています。これらの事故の多くは、水道原水が畜産排水や下水からのオーシストで高濃度に汚染され、しかも浄水処理が不十分であったことが原因として推定されています。越生の事件では、いろいろな条件が重なって大規模な集団感染になったようですが、最初の汚染がどこからきたのか明らかにはなっていません。家畜や感染した動物の排泄物による汚染、海外渡航者の感染等が考えられますが、いずれにせよ、この事件で、日本の水道原水もオーシストで汚染される可能性があるということが明らかになりました。

 アメリカやカナダでは、水道原水の約87%がクリプトスポリジウムのオーシストで汚染されていたとの報告もあります。また、最近になって、関東地方の水道原水でオーシストが検出されたとの報道があり、日本の現状がどうなのか調査する必要があると思われます。

 当研究所では、大阪府下の市町村の水道原水と浄水の検査を行い、水道水源の状況と浄水機能について調査しています。

環境衛生課 肥塚 利江

 


発行日:平成9年8月10日

編 集:大石、中村、山吉、桑原、東、味村

事務局:薬師寺 、渋谷(内線297)


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