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 麻疹をなくすために -日本の麻疹の現状-

疹(はしか)なら、「自分も罹った!」という方も多いのではないでしょうか。日本では、比較的身近な子どもの">病気というのが一般的な認識で、「全世界の感染症による死亡原因の第一位は麻疹」と聞くと驚きます。麻疹ウイルスは非常に感染力が強く、免疫を持たない人が感染した場合、ほぼ100%発病しますが、効果の高いワクチンが開発され、現在では感染・発病の予防が可能です。対策の遅れていた日本でも、最近になりようやく本格的な取り組みが開始されました。
 世界保健機構(WHO)では、発展途上国を中心に、毎年3,000万人以上の麻疹患者と87万5千人の死亡者(致死率3〜5%)の発生を推測しています。WHOの麻疹根絶計画にのっとり、南北アメリカ大陸、ヨーロッパ、南アフリカや中近東の一部の国々では、徹底的なワクチン接種と監視活動を実施してほぼ根絶に近い状態が達成されつつあります。米国では、2001年の麻疹患者数が100人、死亡者は2人と、本当に珍しい感染症となり、ほとんどは輸入例です。日本はその麻疹の輸出元第一位という不名誉な地位に甘んじています。先進国の多くは、予防接種としてMMR(麻疹、おたふくかぜおよび風疹の混合)ワクチンの2回接種を基本とし、米国やカナダの接種率は95%を超えています。

2.日本の麻疹の現状

 麻疹罹患者は、厚生労働省の感染症発生動向調査から年間20万人と推定さていますが、全実数はあまりに多いため把握できていません。WHOの麻疹根絶計画では、中国、インドなどとともに、対策の遅れた国の1つです。年齢別では、1歳(24%)に次いで6〜11カ月(13%)が多く、2歳以下で49%を占めています。死亡率は、栄養状態の改善や対症療法の発達で、麻疹制圧先進国と同じく0.1%程度と低く、これが重篤感の希薄な一因となっています。しかし、患者発生数から考えて、死亡者が年間100人の規模に達しても不思議ではありません。死亡例は0および1歳児が多く、大半が0〜4歳児です。国内の麻疹ワクチン接種率は、ようやく80%を越えたところですが、1歳児では接種率が50%と低く、また、抗体(麻疹に対する免疫)保有率も43.9%と極めて低く、1歳児のワクチン接種率を向上させることが急務です。

3.大阪の麻疹の現状

 大阪府では、平成11年(1999年)12月〜12年10月にかけて麻疹が大流行し、4,500人を超える患者が発生しました。死亡者は流行期間直前の1人でしたが、15%に肺炎、3%に腸炎、2%に中耳炎がみられ、脳炎患者も9人報告され、全体の30%以上に合併症が認められました。また、40%の患者が入院しており、麻疹が重篤な感染症であることを裏付けています。大阪府におけるワクチン接種率は81%ですが、この流行期間の全麻疹患者の内94.3%がワクチン未接種者であり、大阪から麻疹をなくすためには、ワクチン接種をさらに推進し、感受性者を減らすことが重要です。

4.麻疹ワクチン

 わが国では、昭和41年(1966年)に麻疹ワクチン接種が開始され、昭和44年から高度弱毒生ワクチンが使用されています。このワクチンは、ヒトから分離された麻疹ウイルスの毒力を弱めたもので、現在国内で流行しているウイルスに対しても95%以上のワクチン効果が期待できます。一方、麻疹ワクチンの副反応は、平成7〜12年度に全国で618件が報告されました。頻度の高いものは、即時型全身反応(アレルギー反応)、発疹および発熱でしたが、脳炎・脳症も平成8年および9年に1例ずつ報告されています。平成8〜10年にかけて、重篤なアレルギー反応の原因となっていた安定剤が除去されるなど改良が加えられ、それ以後、副反応報告数は半分以下に減少しました。
 麻疹ワクチンは、国内では予防接種法に基づき、生後12〜90カ月未満の者に1回接種されていますが、接種期間として推奨されているのは、生後12〜24カ月です。しかし、麻疹患者が1歳児に最も多いことを考慮しますと、1歳になったできるだけ早い時期に接種するのが望ましいと考えられます。また、流行発生時の6〜11カ月児への緊急接種の必要性についても検討が行われています。

5.年長者における麻疹の増加

 近年わが国で、中学校や高校での集団発生や、成人の麻疹による入院が増加しています。この背景として、
1)流行の頻度が減少したため、ワクチン未接種者が年長になった後に罹患する。
2)ワクチン接種によっても十分な免疫効果が得られず罹患する。
3)幼児期のワクチン接種で獲得した免疫力がその後低下したために罹患する。
ことが考えられます。
 ワクチン接種後に野外ウイルスに接触すると、症状は出現しないものの、感染することにより免疫力を保持あるいは高める効果があると考えられます。今日の日本のように、患者数がある程度減少した状況では、その機会が少なく、年長者の麻疹患者が増加する現象が認められています。米国では、この対策としてワクチンの2回接種が勧告されました。日本においても、ワクチンの2回接種を検討すべき時期が近づいていると考えられます。
 なお、ワクチン接種者では、年長時に麻疹に罹患した場合でも、未接種者にくらべ臨床症状が明らかに軽いことが報告されています。

6.おわりに

 日本の教育水準は高く、医療も非常に発達していますが、麻疹対策は、発展途上国にも遅れをとっています。また、地球的視野で見ても、麻疹輸出国の汚名はできる限り早期に返上しなければなりません。お父さん、お母さん、1歳のお誕生日を迎えたら、麻疹ワクチンを接種してあげましょう。

ウイルス課 伊藤 正恵

●生ワクチン
 毒力を高度に弱めた病原体を生きたまま接種するワクチンで、ヒトの体内で病原性を発揮しない程度に増殖し、免疫力を賦与します。生ワクチンとしては、麻疹、おたふくかぜ、風疹やポリオのワクチン等があります。これに対し、インフルエンザなどでは、ヒトから分離した毒力の強い病原体の感染力をなくし、不活化ワクチンとして接種します。


 電子顕微鏡の世界

から「百聞は一見にしかず」といわれるように、ヒトは情報の多くを視覚から得てきました。しかし、小さいものを見ようとすると、ヒトの目では0.1 mm程度が限界で、それより小さいものを見るには虫眼鏡や光学顕微鏡が必要になります。ところが、光学顕微鏡は光源として用いる可視光の回折現象のため、理論上の分解能は0.2 μm(倍率で約1,200倍)を越える事はできません。電子顕微鏡は、可視光よりずっと波長の短い電子線を用いることにより、はるかに高い分解能(0.14 nm、倍率で約100万倍程度)で観察が可能です。

病理課 西村公志

電子顕微鏡の種類

 
電子顕微鏡には二種類あります。一つは普通の光学顕微鏡と同様に、試料を透過した光(電子線)の像を拡大して観察する透過型電子顕微鏡です。もう一つは試料に電子線を照射し、出てくる二次電子をブラウン管上に明るさのドットとして表し、試料をなぞる(走査する)ことにより一つの像として見る走査型電子顕微鏡です。この原理から分るように、透過型電子顕微鏡は試料の内部を、走査型電子顕微鏡は試料の表面を立体的に見ることができます。

電子顕微鏡写真ができるまで

 
電子顕微鏡は電子線を飛ばすため高真空と高電圧が必要です。そのため、乾燥していてかつ耐熱性のある試料でないと見ることができません(最初に生物分野の試料として綿を見たら燃えてしまったそうです)。
 現在では、右図の手順で試料を作成することにより、ウイルスや腸管出血性大腸菌O157等、多くの種類の生物試料を見ることができるようになりました。

■透過型電子顕微鏡(TEM)Transmission Electron Microscope

TEM
1)インフルエンザウイルスA型:70,000倍

2)ロタウイルス:70,000倍

 
 
3)腸管出血性大腸菌O157:6,000倍
4)腸炎ビブリオ:5,000倍
1)インフルエンザの原因ウイルス(H3N2)
2)乳幼児や小児に嘔吐と下痢症状を起こすウイルス
3)出血性の腸炎と溶血性尿毒症症候群の原因細菌
4)わが国の細菌性食中毒の中で最も多い原因細菌
5)細胞(核・ミトコンドリア・粗面 小胞体など)

1 μm=100万分の1メートル
1 nm =10億分の1メートル
5)ラット肝細胞:3,000倍
6)PlasmidPBR322:5,000倍

■走査型電子顕微鏡(SEM)Screanning Electron Microscope

SEM

1)腸管出血性大腸菌0157:5,000倍

2)黄色ブドウ球菌:5,000倍
 
 
3)スギ花粉:500倍
4)ブタクサ花粉:500倍
 
 
5)コナチリダニ:100倍
6)ツメダニ:100倍
2)人に化膿性の炎症や毒素型食中毒を起こす細菌
3)春の花粉症の原因の1つ
4)秋の花粉症の原因の1つ
5)ふとんや畳におり、アレルギーの原因となるダニ
6)吸血性のダニ
8)気管に見られる線毛
 
7)ヒトの髪の毛:90倍
8)気管上皮:90倍

発行日:平成15年2月17日
発行者:大阪府立公衆衛生研究所長 江部高廣
編 集:足立、野上、小坂、浅尾、加瀬、岡村
事務局:薬師寺 、渋谷(内線297)
〒537-0025 大阪市東成区中道1-3-69
TEL:06-6972-1321
FAX:06-6972-2393