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  研究所の新たな出発にあたって

所長 織田 肇 

研究所は過去2年間の検討を経て、この4月から新組織*で出発いたしました。これは1960年の創立以来もっとも大きな変革になります。府のスリム化の方針に添って、組織の簡素化も行いましたが、必要な機能を維持することに努め、特に重要な企画調整部門の強化を図ったところです。
 研究所の基本的な使命は府民の健康の確保ということにありますが、そのなかで、健康危機への迅速な対応、専門機関のネットワークの拠点、および府民に開かれた研究所が今後の役割の3つの柱となっています。これを実現するためには、研究所の機能である、調査研究、試験検査、研修指導、情報活動の4つをバランスよく動かしていくことが必要と考えています。
 最近の動向を見ますと、新たな感染症の出現や、食品・薬品・水・毒物などによる健康被害の発生または危惧される事例において、当研究所がその原因究明や対策に関わる場面が数多くありました。今後、経済、文化、技術のグローバル化に伴い、大規模な感染症や環境汚染が発生する可能性もあり、住民に密着した地方衛生研究所の役割はさらに大きくなるものと考えています。このためには、緊急の事態における対応能力の向上はもちろんのこと、「健康被害防止の最善の方法は予防である」という公衆衛生の過去の教訓に学び、日ごろから、予見的、予防的な研究や開発を進めなければなりません。
 当研究所は、昨年、調査研究評価委員会や倫理委員会を設置するなど、業務の効果的な推進を図ってきましたが、今回の新たな出発にあたり、さらに努力していきたいと考えています。府民および関係機関の皆さまのより一層のご支援、ご指導をお願いいたします。

* 研究所の組織改正
 平成15年4月1日から5部7課3室を4部8課制に組織改正しました。新組織の詳細は本ページの「研究所の新組織」欄をご覧下さい。


 コレクチンと生体防御

原微生物の侵入・増殖に対する感染防御機構は、生来備わった自然免疫と、感染後働く獲得免疫からなっています。獲得免疫は、抗体やリンパ球等が特異的な病原微生物を異物として認識し、その記憶を持続することに特徴があります。一方、自然免疫は、病原微生物を即時に認識するが特異性が低く、記憶が持続しないシステムです。自然免疫に関わる蛋白質は体内に常在しており、微生物の表面に保存された分子パターン(Pathogen-associated molecular patterns、PAMPs)を認識します。この分子パターンとは、宿主には存在しない、グラム陰性菌のリポ多糖、グラム陽性菌のペプチドグリカン等にみられる分子存在様式をいいます。自然免疫を担う液性因子としてコレクチン、リゾチーム、補体等が知られています。また、細胞の表面に存在するPAMPs認識蛋白質としては、Toll-like receptorが最もよく研究されています。

1.自然免疫に関与する因子コレクチン

 コレクチンファミリーの一員であるマンナン結合レクチン(MBL)は、1980年に京都大学の川嵜らにより初めて報告され、恒常的に肝臓で産生され、血中に分泌される分泌型レクチンとして特徴づけられました。(レクチンとは、糖に結合する蛋白で、抗体や酵素ではないものをいいます。)このMBLに関して、その血中濃度と小児におけるオプソニン不全症との関連が解析され、この疾患の原因としてMBLの血中濃度が非常に低いことが発見されました。このことは、コレクチンの生物学的意義の一つが基礎免疫であることを示しました。

2.コレクチンの構造

 コレクチン(Collectin)は、内部にコラーゲンに似た構造を持っているため、コラーゲン(Collagen)とレクチン(Lectin)から作られた合成語です。コラーゲン領域、糖認識領域(CRD)を含む4つのドメインからなるモノマー3本がコラーゲン様領域によって3重螺旋構造となり基本単位を形成し、この基本単位が2〜6個会合して巨大分子を形成します(図1)。

図1 コレクチンの構造

 

3.コレクチンの生理機能

 コレクチンは微生物表面の分子パターンとしての糖鎖を認識して、感染防御に重要な役割を果たしています。しかし一方では、感染に補助的に働く可能性を示すデータも報告されています。また、心筋梗塞後の再環流時の血管壁障害、リュウマチ様関節炎、IgA腎症等への関与も報告されています。
 コレクチンのうちMBLは補体の活性化を導く能力があることが最近明かとなりました。MBLは糖認識領域(CRD)で異物と結合し、これにセリンプロテアーゼであるMASPが結合し、補体を活性化するもので、レクチン経路と命名されています(図2A)。また、コレクチンは、異物と結合してオプソニンとして働きます(図2B)。オプソニンとともに重要なのは、レクチンの多価の結合手による原始的な凝集活性です(図2C)。また、ウイルスの中和(図2D)とともにウイルスの細胞からの出芽を阻害し、感染の広がりを阻止することもできる(図2E)と考えられています。

A.コレクチンのうちMBLはMASPの協力によりC3、C4の解裂を介して補体経路の活性化を誘導する。


B.コレクチンは、異物と結合してオプソニンとして働き、白血球などに異物を取り込ませ、処理させる。


C.コレクチンはウイルス、細菌その他の病原体に結合してこれを凝集させ排除させる(物理的排除)。


D.コレクチンはウイルスに直接結合してウイルス感染価を抑える(中和)。


E.コレクチンはウイルスが感染細胞より出芽する際に働き、感染細胞から非感染細胞への細胞間伝達を阻害する。

図2 コレクチンの生体防御における役割

 

4.コレクチンと細菌感染

 コレクチンはグラム陰性菌のリポ多糖(LPS)上の糖鎖構造、グラム陽性菌上のリポマンナン又はグルコース置換型のリポテイコ酸、抗酸菌ではリポアラビノマンナンに強く結合します。コレクチンは病原細菌膜上に結合し、補体の活性化、菌体凝集、貪食作用を助けるものと思われます。一方、肺に存在するコレクチンの一種のSP-Aが肺胞マクロファージによる結核菌の取込みを助長し、その結果結核菌が増殖することも報告されています。つまりコレクチンは細菌感染症において感染防御と感染助長の二面性を持っています。

5.コレクチンとウイルス感染

 ウイルス感染症においてもコレクチンの関わりが数多く報告されています。インフルエンザA型ウイルスに対して赤血球凝集抑制(HI)活性をになう物質としてα、β、γの三種のインヒビターが知られていました。これらのうちのβインヒビターの本体がコレクチンであることが報告されました。また、MBLはインフルエンザA型ウイルスに対してHI活性を有するのみでなく、オプソニンとして働くこと、さらに補体依存的にインフルエンザA型ウイルスを溶解することも報告されました。この現象に加えて、われわれはMBLが補体の存在無しでも、インフルエンザA型ウイルスの中和と感染拡大阻止活性をもつことを証明しました。
  この他にもコレクチンが感染防御効果あるいは病状進展阻止能を発揮する可能性が考えられるウイルス感染症には、エイズウイルス、Respiratory Syncytialウイルス、アデノウイルス、C型肝炎ウイルス(慢性活動性肝炎あるいは肝癌への移行)などがあります。一部のウイルスにおいては抗酸菌のようにコレクチンが感染を助長する可能性を示すデータも報告されています。ウイルス感染においてもコレクチンは感染防御、感染助長の2方向性の役割を果たしているのかもしれません。

6.コレクチン研究の新たな展開

 コレクチンは生体防御を中心にその機能が明らかにされてきました。しかしながらすべての機能が解明されたわけではなく、さらなるデータの蓄積が望まれます。我々は新たに3種のコレクチン遺伝子(CL-L1、CL-P1、CL-K1)のクローニングに成功しました。これらのうち、CL-P1は分子内にコイルドコイル領域を持ち、スカベンジャー受容体関連蛋白質と同様に微生物および酸化LDLとの結合性を有していました。新たに見い出した3種のコレクチン分子の感染防御に果たす役割については、今後のさらなる研究が必須であると考えられます。


(旧)病理課 鈴木 定彦*
ウイルス課 加瀬 哲男 
*(現) 鳥取大学医学部 


 


発行日:平成15年6月6日
発行者:大阪府立公衆衛生研究所長 織田 肇
編 集:足立、野上、小坂、浅尾、加瀬、岡村
事務局:井上 、渋谷(内線297)
〒537-0025 大阪市東成区中道1-3-69
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