小規模事業所における騒音性難聴

 

音性難聴は化学物質による健康障害や腰痛・頸肩腕障害などに比べて、直接的な苦痛が少なく、また、日常会話への影響が少ない高音域から、徐々に進行するため軽視されがちです。しかし、高齢になってから、職場や家庭でのコミュニケーションがうまくとれなかったり、各種の警報音が聞こえないなど日常生活に大きな支障をきたすことになります。

1.騒音性難聴とは

 騒音性難聴は長期間の騒音曝露によって内耳にある聴細胞が破壊されて起こります。初期には、4,000ヘルツ(Hz)またはその周辺の周波数に限局した聴力低下が起こるのが特徴で、人の会話の周波数はおよそ500Hz〜2,000Hzなので気づかないことが多いのです。騒音性難聴が進んでくると中・低音域にも障害がおよんで、会話が聞き取りにくくなります(図4)。低下した聴力は回復することはないので、騒音曝露を低減し、進行を止めることが大切です。

 
 

2.騒音障害防止のためのガイドライン 

 1992年10月に労働省(当時)から騒音障害防止のためのガイドラインが出されました。それには作業環境測定による騒音の評価基準(表1)および聴力レベルに基づく管理区分(表2)が示されており、事業主はこれらの基準に基づいて、必要な場合には騒音レベルの低減策や防音保護具の使用などの適切な措置を講じることになっています。

 

*1:前駆期の症状が認められる者 
*2:軽度の聴力低下が認められる者

図5 プレス作業者の年齢階層と聴力低下率(男)

3.小規模事業所プレス作業者の騒音曝露と聴力低下の状況

 プレス機は金属やプラスティックの切断、打ち抜き、曲げなどの加工に使用されます。プレス作業は、金属製の机、椅子、文房具、台所用品など多種多様な金属製品の製造に欠かせない工程のひとつです。
 1999年〜2000年に、従業員数30人未満の事業所のプレス作業について、作業場の騒音と作業者の聴力の調査を行いました。その結果を表3および図5に示します。騒音では34事業所のうち第・管理区分(表1参照)であったのは2事業所のみで、32事業所は改善が必要と判断されました。また、作業者の襟にマイクロホンを装着して測定した個人曝露騒音レベルでは、23名中21名が8時間曝露の許容基準である85デシベル〔dB(A)〕を超えており、1時間曝露の許容基準である94dB(A)を超える作業者も6名ありました。

表1 作業環境騒音測定の評価

 注
A測定:単位作業場を等間隔に5点以上測定する         
(作業環境測定基準に基づく)         
B測定:作業者に接近して測定する(作業環境測定基準に基づく) 
第  I  管理区分:作業環境管理がおおむね適切であると判断される状態
第  II 管理区分:作業環境管理に改善の余地があると判断される状態 
第 III 管理区分:作業環境管理が適切でないと判断される状態    

表2 聴力レベルに基づく管理区分

 注
高音域の聴力レベルは4000Hzの聴力レベルによる 
会話音域の聴力レベルは3分法平均聴力レベルによる
(3分法聴力レベル=500Hz,1000Hz,2000Hzの聴力レベルの平均値)

表3 作業環境測定評価結果(数値は事業所数)

・評価結果
第  I  管理区分: 2事業所
第  II 管理区分: 8事業所
第 III 管理区分:24事業所

*1:前駆期の症状が認められる者 
*2:軽度の聴力低下が認められる者

図5 プレス作業者の年齢階層と聴力低下率(男)

4.望まれる安全衛生管理体制の充実

 プレス作業の他にも鋲打ち機、はつり機など多くの騒音作業がありますが、小規模事業所ではほとんど対策が取られていないのが現状であり、早急な対策が望まれます。対策としては、機械の改良、密閉、間仕切、保護具(耳栓、耳覆い)の着用などが考えられ、中でも保護具の使用はすぐにでも実施できる対策です。騒音以外の問題も含めて、安全衛生対策が多くの事業所で充実されるために、事業主や労働者への安全衛生情報の提供や安全衛生教育、環境測定や健康診断、職場改善の技術指導などの小規模事業所を対象とした安全衛生管理体制の充実が望まれます。

生活環境部生活衛生課 田淵 武夫