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鳥インフルエンザを考える

アジア各国での流行に続いて、日本でも1925年以来初めての高病原性鳥インフルエンザの発生が3府県において確認されました。今回の発生は養鶏界に多大な被害をもたらし、ヒト社会への感染拡大も懸念されました。この病原ウイルスはヒトの「インフルエンザ」の原因ウイルスとは一体どこが違うのでしょうか?

1.インフルエンザウイルスの宿主について

図1
図1 インフルエンザウイルス

インフルエンザウイルスは、内部蛋白質および膜蛋白質の抗原性の違いからA型、B型、C型に分類されます。B型、C型は主にヒトに感染するのに対し、今回アジア各国で流行が見られた鳥インフルエンザはA型に属し、A型は鳥類の他、ヒト、ウマ、ブタなど多種の動物に感染することが知られています。インフルエンザウイルスの遺伝子は分節に分かれているため(図1)、1つの細胞に異なる遺伝子を持つインフルエンザウイルスが同時に感染すると、細胞内でそれぞれのウイルスから遺伝子が作られ、元のウイルスと異なる遺伝子の組み合わせを持ったウイルスができる可能性があります。A型インフルエンザウイルスは、ウイルス表面の糖蛋白質であるヘマグルチニンH(15種類)とノイラミニダーゼN(9種類)の組み合わせにより理論上135種類の亜型に分類され、それらはH3N2、H5N1のように記載されます。

図2
図2 A型インフルエンザウイルスの宿主

図2にA型インフルエンザウイルスの宿主とその動物から分離された(括弧内は感染が確認された)亜型を示します。これを見ると、野生のカモからは、H1〜H15、N1〜N9が分離されるのですが、ヒトではH1N1、H2N2、H3N2の亜型が、ブタではH1N1、H3N2が分離されており、感染する亜型は動物種により限られていることが分かります。また、このことから野生のカモがA型インフルエンザウイルスの本来の宿主であり、カモから一部の亜型が他種動物に持ち込まれ、流行していると考えられます。

2.動物種によるインフルエンザウイルス受容体の違い

動物の細胞には多種の糖鎖が表面に存在していますが、インフルエンザウイルスはその中でも特定の構造をもつ糖鎖を受容体として認識します。そしてこの糖鎖が動物種により異なるため、種を越えた感染は制限されていると考えられます。
 インフルエンザウイルスが利用する糖鎖の末端構造は大きく分けて2種類あります(分かりやすいようにヒト型とトリ型とします)。A型インフルエンザウイルスは、鳥の体内では腸の上皮細胞で増殖します。この上皮細胞の糖鎖はほとんどがトリ型です。ほ乳類では気道粘膜細胞がウイルス増殖の場ですが、ヒトではほとんどがヒト型、ウマではほとんどがトリ型です。注目すべきことは、ブタは両者を持っているということです。カモから分離したインフルエンザウイルスはトリ型の受容体に強く結合しますが、ヒト型への結合は弱く、逆にヒトから分離したウイルスはヒト型に強く結合できます。

3.鳥インフルエンザウイルスのヒトへの感染について

今回流行が見られた高病原性鳥インフルエンザウイルスは、鶏に対し強い病原性を示し、急速に鶏の間で感染が広がりました。このウイルスのヒトへの感染例が鶏の被害に比べて非常に少なかったのは、おそらく受容体の違いによると考えられます。鶏に接触する機会の多い人(養鶏者や鶏肉加工者)ではウイルスに暴露される機会が増え、種を越えた感染がおこったと考えられますが、鳥インフルエンザウイルスは、ヒト型受容体への結合力が弱いウイルスなので、ヒトからヒトへの感染は今のところ確認されていません。しかし、鶏の間で感染が繰り返されるうちに、ヒト型の受容体に強く結合するような能力を持ったウイルスに変異する可能性は残されています。
 また、ブタではトリ型とヒト型両方の受容体を持つことから、鳥インフルエンザウイルスとヒトインフルエンザウイルスのどちらにも感染できます。同時に感染すれば体内で遺伝子の組み換えが起こり、ヒト-ヒト間で容易に伝播できる鳥インフルエンザウイルスが新たに作られるかも知れません。

4.今後はどうなる?

鶏に接触する機会が多い人が、鳥インフルエンザウイルスとヒトインフルエンザウイルスに同時に感染しても、遺伝子の組み換えが起こるおそれがあります。感染鶏の処分にあたる人に現行ワクチンの接種が勧められたのは、できるだけ同時感染を防ぐためです。ヒト社会では、現在鶏で流行している亜型ウイルスは過去に流行していないため、誰も免疫を持っていません。鳥インフルエンザウイルスがヒト-ヒト間で伝播できるようになれば、爆発的に流行し深刻な影響を及ぼすことが懸念されます。よって、感染した鶏を即時に処分し、感染の拡大を防ぐことが重要です。
 鳥インフルエンザウイルスは鳥との接触が軽度ならば、うがい、手洗いで感染防止できると考えられていますので、過度に心配する必要はありません。しかし、現在の日本の現状では、再度、鳥インフルエンザが流行する可能性は否定できません。流行の早期発見と、拡大防止策が封じ込めのカギです。

鳥インフルエンザの分布(2004年5月末現在)

感染症部ウイルス課 森川 佐依子
ロゴマーク 公衛研ニュース第24号(1) 編集:公衛研ニュース編集委員会