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バイオ技術を用いた染色と廃水処理

世界には驚くほど多種多様な微生物が存在しています。これらの微生物を利用して“人と環境にやさしい技術”を開発する事は、研究者・技術者にとって大きな目標であり、夢でもあります。
 今回は私たちが開発した、微生物が作る酵素を用いた抜染法による繊維の染色と、染色排水の分解脱色処理について、解説したいと思います。

1.抜染法による染色とバイオ染色

染料には天然染料と化学染料とがあり、現在、化学染料は世界で年間約100万トン以上が生産されています。化学染料は化学構造の発色団により、アゾ染料、アントラキノン染料、キノリン染料、インジゴ染料、アントシアニン染料等に分類され、アゾ染料の使用量は約60%を占めています。
 染色加工法を大別すると、無地染め(浸染)と模様染め(プリント)に分けられますが、この模様染めの一つに“捺染”があり、捺染は繊維を多色の模様に染め上げる方法の総称です。
 抜染法も捺染の一種で、化学薬品を用いて還元分解により染料の色を抜く方法です。抜染法では、あらかじめ染色した布上に還元剤等を含む糊剤で絵柄を印捺し、印捺した染料を高温で還元分解させて絵柄模様を作ります。バイオ染色は、この還元剤のかわりに、微生物から得た染料分解酵素を利用します。

2.アゾ染料分解酵素を用いた染色

図1
図1 酵素反応式

私たちは120箇所の土壌、汚泥、廃水からアゾ系染料を炭素源、窒素源として生育できる微生物をスクリーニングし、脱色率の高い微生物Bacillus OY1-2(次ページ電子顕微鏡像参照)を分離・同定した後、精製して、アゾ染料分解酵素を得ることが出来ました(アゾ染料を分解する酵素は“アゾリダクターゼ”と呼ばれています)。この酵素は、耐熱性を有し(70℃まで安定)、pH6.0〜9.0の範囲で安定で、至適pHは7.5であり、発色団のアゾ結合を分解してアミン化合物に変換します(図1)。
 染色例として、3種類のアゾ染料
 (1) C.I. Reactive Red 22 (Sumifix Red B Special)
 (2) C.I. Reactive Black 5 ( Sumifix Black B)
 (3) C.I. Reactive Yellow 17 (Remazol Golden Yellow G)
で染色した綿布地、及び
 (4) 市販の緑色の布地
の上に、熊とアヒルの絵柄をくり抜いた版を重ね、その上からバイオ染色用糊剤(酵素と補酵素(NADPH)をアルギニン糊剤と混合したもの)を塗布して、60℃、1時間放置した結果を図2に示しました。くり抜かれた絵柄部分の下の布地の染料が分解され、バイオ染色用糊剤を洗い流すことにより、絵柄のところが白く抜けた模様ができているのがお分かりになると思います。
 この方法は、化学薬品を用いて高温で蒸す加工では布地を損うという問題があるのに比べて、低温で処理する事が出来、化学薬品による環境問題も生じません。また、色が鮮明・繊細で、ぼかし染め、絞り染めが可能等、優れた特徴を持っています。

図2
図2 アゾ染料分解酵素を用いた抜染例

3.排水の分解脱色

Bacillus OY1-2の写真
Bacillus OY1-2の電子顕微鏡像

合成繊維は化学反応の当量で染まり、染着率が高く(通常98〜100%)、染料が環境に排出されることはほとんどありません。一方、天然繊維は染着率が悪く(通常40〜60%)、従来の一般的な排水処理方法である活性汚泥法では染料は分解されず、着色された水が放流される事になります。
 現在、水質汚濁防止法や自治体の「排水の色規制条例」による、透明度、色度、COD,BOD等の規制をクリアするため、活性汚泥法と凝集沈殿法を組み合わせて排水の脱色が行われています。しかし、多量の化学薬剤の投入が必要となり、その結果、多量の汚泥が発生し、汚泥廃棄処分費、人件費等のランニングコストが上昇します。また、汚泥の最終処分地の問題も大きな課題となっています。
 私たちは、この染色排水の脱色処理として、先程のバイオ染色の原理を応用する事を考えました。即ち、排水処理施設のバイオリアクター槽の竹炭や備長炭等の多孔質担体に、アゾ染料の分解酵素を持っている微生物Bacillus OY1-2菌株を住まわせ(固定化)、未染着のアゾ染料を分解することにより、脱色・透明化を行うのです。
 染色工場での実験プラント装置(3トン)による試験では、放流水のCOD・BOD除去率は80%以上、脱色率も目視で70%以上、分光光度計で80%以上の成績が得られました。バイオリアクター槽における脱色工程では薬剤使用による汚泥を発生しないので、最終廃棄物汚泥量も少なく、処理施設のコンパクト化、コストの削減が可能となりました。
 染料の中でアゾ染料の占める割合が約60%である事を考慮すると、この排水処理法は、環境改善、環境保全に貢献するものと思います。

生活環境部環境水質課 杉浦 渉
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