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多剤耐性緑膿菌とは

最近、「多剤耐性緑膿菌による院内感染」について新聞等で大きく報道され、あまり聞き覚えのない名前に一体どんな細菌なのか不安に思われた方も多いと思います。

1.緑膿菌とはどんな菌?

緑膿菌Pseudomonas aeruginosaは、長さが1.5〜3.0μmのグラム陰性、好気性桿菌で、1本の鞭毛を使って動き回ることができます。また、多くの株が緑色の色素を産生し、このことが「緑膿菌」という名前の由来となっています。土壌・水中・植物・動物(ヒトを含む)などあらゆるところから分離される常在菌で、ヒト・動物はもちろん、植物にも病気を起こすことがありますが、その病原性は低く、通常は緑膿菌がいても病気になることはほとんどありません。
 では、どういったときに病気を引き起こすのでしょうか?緑膿菌による感染が成立するためには、
 1)体の抵抗力が低下すること
 2)周囲に緑膿菌が生存しやすい環境があり、接触の機会が多いこと
などが必要となります。すなわち、通常の健康な方であれば、体に一時的に入ってきても体の抵抗力によって自然に排除されますが、重度の火傷・外科手術・がん治療・移植手術などによって体の抵抗力が弱まった人に侵入すると、容易に感染が成立してしまい、主に、肺炎、尿路感染症、術創部感染症、そして菌血症等を引き起こします。

2.普通の緑膿菌と「多剤耐性緑膿菌」はどう違う?

感染力・病原性などについては大きな差はなく、「多剤耐性緑膿菌」の最大の特徴は、その強力かつ広範な抗菌薬への抵抗性にあります。
 緑膿菌はもともと、他の細菌と比較すると抗菌薬に強い傾向があるために有効なものが限られており、以下の3系統の薬剤が"特効薬"として用いられてきました。
1)フルオロキノロン系抗菌薬:シプロフロキサシン、レボフロキサシンなど
2)カルバペネム系抗菌薬:イミペネム、メロペネムなど
3)アミノグリコシド系抗菌薬:アミカシンなど
 しかし近年、上記の薬剤全てに耐性を持つ緑膿菌が現れ、これを「多剤耐性緑膿菌」と呼ぶようになりました。感染症法でも、「薬剤耐性緑膿菌感染症」として5類の定点把握疾患*に指定しています。

3.緑膿菌が「多剤耐性化」するメカニズム

それではどのようにして緑膿菌は様々な薬剤から逃れることができるようになったのでしょうか?ここでは代表的なものについて解説していきます(図1)。

1) 薬剤分解・修飾酵素の産生

これまでの研究で薬剤耐性緑膿菌は、薬剤を分解したり、少し変化させたりして不活化する酵素を持っていることがわかっています。これらの酵素はもともとは他の菌種が持っていたもので、プラスミドと呼ばれる遺伝子の運び屋によって緑膿菌に入り込んだと考えられています。メタロ-β-ラクタマーゼ(広域セフェム系・カルバペネム系耐性)、アミノグリコシドアセチル化酵素(アミノグリコシド系耐性)がそれに当たります。
 また、緑膿菌がもともと持っていたやや作用の弱い薬剤分解酵素(AmpC型β-ラクタマーゼ)を過剰に産生して耐性を獲得する場合もあります。

2) 薬剤作用部位の変異

菌が自身を少し変化させ、薬剤が結合しにくくしてその作用から逃れられるようになります。これがフルオロキノロン系薬剤に対する耐性の主要な機序であることが明らかとなっています。
 フルオロキノロン系薬剤の作用部位の一つが、細菌の生存・増殖に欠かせない「DNAジャイレース」と呼ばれる酵素です。耐性菌は自身の遺伝子を少し変化(変異)させ、この酵素を薬剤が結合しにくい形にして、薬剤の作用から逃れることができるようにしています。その他にもアミノグリコシド系薬剤に対して、他の菌種の持つ遺伝子を獲得することでその作用部位を変化させ、耐性化しているという研究報告もなされています。

3) 菌体内へ薬剤が入りにくくする・強制的にくみ出す

薬剤が入り込む菌体外膜の穴(D2ポーリン)の数を減らしたり、もともと緑膿菌のもつ「efflux pump」と呼ばれる菌体内から菌体外へ物質をくみ出すポンプによって薬剤を排出したりすることで、菌体内の薬剤の濃度を下げてその作用から逃れることもあります。

4) バイオフィルムの形成

緑膿菌は菌体の周りに粘性に富んだ強力な保護膜を形成することがあります。このような状態になった菌が集まり、膜状になったものを「バイオフィルム」と呼びます。ひとたびバイオフィルムを作ると、ほとんど全ての薬剤が菌体内に到達できなくなります。また消毒薬などに対しても抵抗性が高まるため、器具などの表面に形成されたバイオフィルム中の緑膿菌を除去するのは容易ではありません。

図1
図1 緑膿菌の薬剤耐性メカニズム

4.対策や気をつけるべきことは?

普通の「緑膿菌」は環境や人・動物などありとあらゆるところに生息していますが、「多剤耐性緑膿菌」は日常的に抗菌薬を使用しているところ、すなわち病院などにのみ分布しています。このため、対策としては病院内の感染対策と抗菌薬の適正な使用が主となります。
 一方、日常生活においてはこの多剤耐性緑膿菌との接触がないために感染のリスクはほとんどなく、仮に通院等で病院に行きこの菌と接触したとしても、自然に排除され問題とはなりません。よって、普通に生活していれば恐れる必要は全くないと言えます。

*定点把握疾患

 「定点把握疾患」とは、感染症法に基づき都道府県知事が指定した医療機関(定点医療機関)のみが届け出ることになっている5類感染症のことです。多剤耐性緑膿菌の他に、MRSA、インフルエンザなど全28疾患が指定されています。
 なお、そのほかの重篤性・感染性の高い1〜4類および「定点把握疾患」に含まれない5類感染症については、すべての医師に届け出義務のある「全数把握疾患」に指定されています。

感染症部細菌課 河原 隆二、勝川 千尋
ロゴマーク 公衛研ニュース第26号(2) 編集:公衛研ニュース編集委員会