アスベスト問題の概要

アスベストの健康影響が大きな社会問題になっています。吸い込むと肺癌や中皮腫*1などを引き起こすためです。建材など様々なところに使用されているので、アスベストを扱う工場だけでなく日常生活でも見かける機会があることも、問題が広がっている原因です。また、アスベストに曝露されてから中皮腫や肺癌が発症するまでの期間(潜伏期間)は10〜50年といわれており、問題が長期化するとともに、因果関係を分かりにくくする要因となっています。
ここでは、アスベスト問題の概要を紹介しましょう。

1.アスベストの種類

アスベストには6つの種類があります。クリソタイル(白石綿)、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、アンソフィライト、トレモライト、およびアクチノライトですが、これまで主に使用されてきたのは前3者です。いずれも繊維状で、引っ張る力に強く、かつ耐熱性、絶縁性、耐薬品性、耐腐食性、耐摩耗性などすぐれた性質を持っています。

クロシドライ クロシドライト

2.アスベストの使用状況

アスベストは、戦前から船の機関室などに使用されていましたが、戦後になって使用用途が保温材、吹き付け材、建材、水道管、クラッチ・ブレーキなどに広がり、それに伴い使用量が急速に増加し、1974年と1988年にピークとなり、その後、徐々に減少していき、現在は例外を除いて新たな使用はされていません。厚生労働省によると、その例外使用も2008年までにはなくす予定とのことです。しかし、建材等に使用されてきたため、古くなった建物を解体する際には、解体従事者や周辺住民が曝露される可能性があり、健康影響が懸念されています。

3.法的規制の始まり

スベストを取り扱う労働者が石綿肺を発症することは戦前から知られていました。1950年代には、肺癌や中皮腫を引き起こすとの疫学調査が報告され始め、1970年代には国際的に発癌性物質として認められました。

日本における法的規制は、1960年のじん肺法から始まりますが、発癌性物質としての規制は1971年の特定化学物質等障害予防規則からで、第2類物質として製造、取扱い作業における規制(発散防止設備の設置、特定化学物質等作業主任者の選任、作業環境測定の実施等)が制定されました。さらに1975年には吹き付けアスベストが原則禁止されました。ただし、アスベスト含有量5%未満の吹き付けは禁止されなかったため、この後もロックウール*2の中に混ぜられて使用される場合がありました。また、吹き付け以外のアスベストは禁止ではなく、あくまでも安全に使用するという方針であったため、多量に使用され続けてきました。

それでも、この規制により、発散源に局所排気装置を設置することや防塵マスクの着用が規定されたため、工場等でアスベストを使用する場面では曝露の低減化が図られました。しかし、建設現場では建材などの切断や貼り付け時に曝露を防ぐのは困難でしたし、アスベストを使用した建物の解体時の曝露対策も十分ではありませんでした。

4.社会問題化と規制の強化

1980年代の後半に、学校や住宅などの壁面に吹き付けられたアスベストが大きな社会問題になりました。当時、多くの施設で吹き付けアスベストの除去、封じ込め、あるいは囲い込みが行われました。また、1989年に大気汚染防止法として工場の敷地境界の濃度が規制されました。さらに、1995年に、アスベストの中でも毒性が強いとして、クロシドライトとアモサイトが使用禁止となり、2004年に、クリソタイルも含めほぼ全面使用禁止となったわけです。さらに、2005年の本年、石綿障害予防規則が制定され、特に建物の解体時における曝露低減のための対策が規定されました。ただし、代替品がないということで、化学プラント等に使用するパッキンなど一部の製品は使用が認められています。

5.最近のアスベスト問題

このように規制が強化されていく間にも、アスベストを使用している工場や建設現場で働いている労働者に、石綿肺、肺癌、中皮腫が発症し、労働災害として認定されてきました。今回、アスベスト関連会社が公表したデータはこれらの患者の累計であり、ある意味では予想された事態です。ただし、今回のマスコミ報道により、アスベストを仕事で使用して中皮腫で亡くなられた方の遺族が新たに名乗り出てきているので、労働災害の被災者はさらに増えると思われます。このようなケースで問題になるのは時効です。死亡の翌日から5年以内に届けなければ、労働災害の認定が受けられないのです。

もうひとつ大きな社会問題になっているのは、工場の周辺住民のアスベスト曝露です。尼崎市にあるクボタの神崎工場周辺の住民に数名の胸膜中皮腫患者がいることがわかり、それを発端としてクボタが従業員のアスベスト関連疾患(石綿肺、肺癌、中皮腫)への罹患状況を発表したことから、工場周辺の住民の中にもっと多くの中皮腫患者がいることがわかったのです。

これまで、直接アスベストを取り扱っている労働者については健康管理の対象として考えられていましたが、周辺住民のことは念頭にありませんでした。しかし、諸外国では、アスベスト工場周辺の住民に中皮腫患者が一般の地域よりも多かったという報告はいくつかありますので、わが国でも同様のことが起こっても不思議ではありません。諸外国の経験に学ばなかったことを反省すべきかもしれません。

現在、環境省や患者の支援団体などが周辺住民の疫学調査を進めています。また、国は、このような事態に対応するため、来年には新法を制定するとしています。

生活環境部生活衛生課 熊谷 信二

*1 中皮腫

内臓を包む膜(胸膜、心膜、腹膜)にできる腫瘍で、多くは胸膜に発生する。

*2 ロックウール

岩石を融解して繊維状にしたもので、別名で岩綿(がんめん)ともいう。アスベストと比較して繊維径が太い(白石綿:0.02〜0.06μmロックウール:3〜10μm)。 多量吸入によりじん肺発症の可能性はあるが、国際癌研究機関(IARC)でグループ3《発癌物質として証拠不十分》と評価されている。

ロゴマーク 公衛研ニュース第29号(1) アスベスト問題の概要