インフルエンザ

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月下旬、報道各社は香港での新型インフルエンザウイルスA(H5N1)の感染による小児の死亡を伝え、この報道は少なからず世界中に緊張感を与えました。その後、11月にも同型ウイルスの感染が数例報告されましたが、これまでの調査では患者周辺で同型ウイルスの人から人への感染は確認されていません。

 インフルエンザ(流行性感冒)は、様々な原因による「かぜ」のなかでも、その症状や伝播力の強さから恐れられています。インフルエンザの流行期を迎え、その流行史、現状、新型ウイルス出現の可能性、ワクチン接種を含めた日常の対策について考えてみたいと思います。

■ インフルエンザウイルスとその分類

 ウイルスは、ほぼ球形(直径100nm)で、内部は核酸(RNA)と結合した蛋白質からできています。この内部蛋白質の抗原性によってA、B、Cの3つの型に区別されます。ウイルスの表面にはさらに赤血球凝集素(H)とノイラミニダーゼ(N)の2種類の糖蛋白質があります。A型には抗原性の異なる15種類の赤血球凝集素(H1〜H15)と9種類のノイラミニダーゼ(N1〜N9)があり、この組合せによってA型ウイルスの亜型が表現されます。ヒトに感染を起こすものにはA香港型A(H3N2)、Aソ連型およびスペインかぜのA(H1N1)、そしてアジアかぜA(H2N2)があります。その他のA型ウイルスはブタ、ウマ、トリなどに感染するウイルスですが、特にトリではH1〜15とN1〜9との色々な組合せの亜型ウイルスが検出されています。興味あることにトリ型ウイルスは、腸の中で増えて便中に排泄されます。人類にとっての新型ウイルスの出現かと最近話題となったA(H5N1)は、本来トリ型のウイルスなのです。このようなA型以外にBとC型のウイルスがありますが、これらにはA型のような亜型はなく、またヒトにしか感染を起こしません。

■ インフルエンザの流行史

 A型は時として世界中に大流行を起こします。今世紀に人類が経験した大流行を図1に示しました。まず1918〜19年にかけて世界中を駆け巡った「スペインかぜ」とよばれる流行では、死者が2,000万人を上まわりました。この時ウイルスは検出されていませんが、のちに1933年に初めて発見されたインフルエンザウイルスA(H1N1)と血清学的調査により同じであることが証明されています。その後、1957年のアジアかぜA(H2N2)が出現しましたが、これと同時にA(H1N1)型は姿を消しました。その後1968年になってA香港型A(H3N2)の出現があり、この時はAアジア型が姿を消しました。ところが、1977年にソ連かぜの名称で知られるA(H1N1)型が出現したのちは、A香港とAソ連型の両タイプのウイルスとB型が交互または同時期に流行するようなことがしばしば見られており、現在に至っています。

■ 新型ウイルスの出現

 過去を振り返ると、10年から40年の間隔で新型のウイルスが出現しています。実際、A香港型が30年間、またAソ連型が20年間流行してきたことになりますが、そろそろ新型ウイルスの出現も間近いのではないかと考えられています。

 では新型ウイルスはどのように出現するのでしょうか。それには、

1)新型ウイルスは必ずしも新しいものとは限らず、ある種の亜型ウイルスが循環するという抗原循環説。この仮説に当てはめるとアジアかぜA(H2N2)が再び流行する可能性が高い。

2)トリとブタのウイルスが遺伝的に交ざり合った交雑ウイルスが、ヒトに対して病原性を持つようになる。

3)トリ型のウイルスが、突然ヒトに対して病原性を持つようになる。

という3つの可能性が考えられています。このような可能性を考慮して、最近、各国で新型ウイルスの出現に備えた対策がたてられ、わが国でも本年の10月24日に新型インフルエンザ対策検討会の報告書が取りまとめられました。特に前述の2)の可能性に関連して、日常生活でヒト、ブタ、トリが同居していて、このため交雑ウイルスが出来やすいと考えられる地域の一つである中国南部が観測定点に選ばれています。国立感染症研究所内の日本インフルエンザセンターも世界保健機関(WHO)のステーションとしてインフルエンザウイルスの情報収集を行っています。

■ インフルエンザの予防

 現在、インフルエンザの積極的な予防法はワクチンのみです。インフルエンザとかぜの区別が正確になされていない我国では、ワクチン接種の評価は必ずしも高いとは言えません。しかし、ワクチンは発病の相対危険が0.1〜0.3(有効率70〜90%)の評価を始めとし、症状を軽くしたり重症化を防ぎ、ウイルスの排泄期間を短くするのに役立っています。日本では現在極端に接種率が低下していますが、米国や欧州では肺炎などの重症化を防ぐ効果が評価され、高齢者などインフルエンザによる影響を受けやすい人たちを対象とした接種率が上昇してきています。しかし、高齢者や乳幼児では感染の機会は二次的であるので、感染の増幅の場となる学校などの集団生活をする世代へのワクチン接種が、より望まれます。

 さて、それでは日常生活でインフルエンザにかからないようにするにはどのような注意が必要でしょうか。それには先ず何故インフルエンザが冬に流行するかを考えることが大切です。飛沫感染をするウイルスにとって、低温で乾燥が続き、しかも閉鎖環境の多い日本の冬はウイルスが生き延びるのに最適なのです(図2)。流行期にはできるだけ人込みを避けるよう心掛けましょう。「うがい」はどうでしょうか。うがいによって直接ウイルスを排除することは困難ですが、乾燥して傷ついた咽頭(のど)を清浄にして気道粘膜の免疫機能を正常に保つことが期待できます。寒さが体の免疫機能の低下を招くともいわれていますので、体を温かくして居住環境の湿度と温度に注意することも大切です。

■ インフルエンザにかかったときは

 ほとんどの人が経験しているように、インフルエンザは突然発症します。急激な体温の上昇に伴い頭痛や「のど」痛などかぜ様疾患に共通な症状があり、特に重症感が強いものです。対症療法しか期待できませんが、睡眠を十分にとり体の防御機能を高めることが必要です。通常、健康な人では数日から一週間ほどで軽快します。

 慢性の呼吸器疾患や循環器疾患を持つ高齢者では、細菌の二次感染による肺炎の併発、また免疫機能が未熟な乳幼児では脳炎や脳症によって死亡することがあるので、これらの人々に感染させないようにする心掛けが必要です。

ウイルス課 前田 章子