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ストレスと免疫 

-生活習慣病にかからないために

均寿命が延び、超高齢化社会がまじかに迫ってきましたが、健康で生活の質の高い老後を送りたいものです。

 ところで、社会の著しい発展や変化にともなって、ライフスタイルは多様化し、私たちのストレスも増大する一方です。ストレスが過剰に加わると精神的に鬱状態となるだけでなく、食事の量や飲酒量、喫煙量が増えたりして、生活習慣が乱れてきます。ストレスや生活習慣のひずみが慢性化してくると、動脈硬化、高血圧、糖尿病、脳卒中、がんなどのいわゆる生活習慣病や、胃や十二指腸潰瘍などのストレス関連疾患の発症の危険が生じます。病気になってから後悔しても手後れなので、ストレスや悪い生活習慣などの危険因子をかかえている人は、これらを改善する必要があります。健康診断で血液や尿に変化が現れるようでは、もう病気になりはじめているといえます。

 以前からストレスや悪い生活習慣は、いろいろな微生物の感染防御に働くTリンパ球(白血球の一種)の増殖活性や、がん細胞を攻撃するナチュラルキラー細胞の活性など様々な免疫防衛能力の低下をもたらすことが知られています。これは、神経系、内分泌系および免疫系が共通のホルモンやサイトカインなどの生理活性物質を介して、密接に連絡しあっていることと関連のあることがわかってきました。当研究所では5年にわたり、これらの危険因子を多く持っている人を対象に、不健康の度合いを示す生理的なバロメータがないかどうかを検討してきました。中高年の男子勤労者500名から聞き取り調査を行い、仕事や生活のストレス、ストレスに関連した症状や疾患、悪い生活習慣などの危険因子をいくつ持っているかを調べました。同時に、血液中のリンパ球を分離し、強い増殖刺激作用を持つフィトヘマグルチニン(PHA)を添加して培養し、増殖度(PHA反応)を測定しました。

 その結果、ストレスの多い人ほど(図1)、ストレス関連性症状や疾患の数の多い人ほど(図2)、また悪い生活習慣を多く持っている人ほど(図3)PHA反応が低いことがわかりました。さらに、これらの危険因子の合計数が多いほど(図4)顕著に低いPHA反応を示すことがわかりました。リンパ球の増殖度が高いほど、進入してきた細菌などの外来抗原をすみやかに除去できます。すなわち、不健康な状態にある人ほど免疫抵抗力が落ちていることになります。

 このようにPHA反応は人の不健康度を示すよい指標となりますが、この検査に頼るまでもなく、ストレスや生活習慣のひずみに早く気づいて自分から健康を守るための改善を行うことが大切です。

労働衛生部 中野 ユミ子


インフルエンザ

- 古くて新しきもの -

月下旬、報道各社は香港での新型インフルエンザウイルスA(H5N1)の感染による小児の死亡を伝え、この報道は少なからず世界中に緊張感を与えました。その後、11月にも同型ウイルスの感染が数例報告されましたが、これまでの調査では患者周辺で同型ウイルスの人から人への感染は確認されていません。

 インフルエンザ(流行性感冒)は、様々な原因による「かぜ」のなかでも、その症状や伝播力の強さから恐れられています。インフルエンザの流行期を迎え、その流行史、現状、新型ウイルス出現の可能性、ワクチン接種を含めた日常の対策について考えてみたいと思います。

■ インフルエンザウイルスとその分類

 ウイルスは、ほぼ球形(直径100nm)で、内部は核酸(RNA)と結合した蛋白質からできています。この内部蛋白質の抗原性によってA、B、Cの3つの型に区別されます。ウイルスの表面にはさらに赤血球凝集素(H)とノイラミニダーゼ(N)の2種類の糖蛋白質があります。A型には抗原性の異なる15種類の赤血球凝集素(H1〜H15)と9種類のノイラミニダーゼ(N1〜N9)があり、この組合せによってA型ウイルスの亜型が表現されます。ヒトに感染を起こすものにはA香港型A(H3N2)、Aソ連型およびスペインかぜのA(H1N1)、そしてアジアかぜA(H2N2)があります。その他のA型ウイルスはブタ、ウマ、トリなどに感染するウイルスですが、特にトリではH1〜15とN1〜9との色々な組合せの亜型ウイルスが検出されています。興味あることにトリ型ウイルスは、腸の中で増えて便中に排泄されます。人類にとっての新型ウイルスの出現かと最近話題となったA(H5N1)は、本来トリ型のウイルスなのです。このようなA型以外にBとC型のウイルスがありますが、これらにはA型のような亜型はなく、またヒトにしか感染を起こしません。

■ インフルエンザの流行史

 A型は時として世界中に大流行を起こします。今世紀に人類が経験した大流行を図1に示しました。まず1918〜19年にかけて世界中を駆け巡った「スペインかぜ」とよばれる流行では、死者が2,000万人を上まわりました。この時ウイルスは検出されていませんが、のちに1933年に初めて発見されたインフルエンザウイルスA(H1N1)と血清学的調査により同じであることが証明されています。その後、1957年のアジアかぜA(H2N2)が出現しましたが、これと同時にA(H1N1)型は姿を消しました。その後1968年になってA香港型A(H3N2)の出現があり、この時はAアジア型が姿を消しました。ところが、1977年にソ連かぜの名称で知られるA(H1N1)型が出現したのちは、A香港とAソ連型の両タイプのウイルスとB型が交互または同時期に流行するようなことがしばしば見られており、現在に至っています。

■ 新型ウイルスの出現

 過去を振り返ると、10年から40年の間隔で新型のウイルスが出現しています。実際、A香港型が30年間、またAソ連型が20年間流行してきたことになりますが、そろそろ新型ウイルスの出現も間近いのではないかと考えられています。

 では新型ウイルスはどのように出現するのでしょうか。それには、

1)新型ウイルスは必ずしも新しいものとは限らず、ある種の亜型ウイルスが循環するという抗原循環説。この仮説に当てはめるとアジアかぜA(H2N2)が再び流行する可能性が高い。

2)トリとブタのウイルスが遺伝的に交ざり合った交雑ウイルスが、ヒトに対して病原性を持つようになる。

3)トリ型のウイルスが、突然ヒトに対して病原性を持つようになる。

という3つの可能性が考えられています。このような可能性を考慮して、最近、各国で新型ウイルスの出現に備えた対策がたてられ、わが国でも本年の10月24日に新型インフルエンザ対策検討会の報告書が取りまとめられました。特に前述の2)の可能性に関連して、日常生活でヒト、ブタ、トリが同居していて、このため交雑ウイルスが出来やすいと考えられる地域の一つである中国南部が観測定点に選ばれています。国立感染症研究所内の日本インフルエンザセンターも世界保健機関(WHO)のステーションとしてインフルエンザウイルスの情報収集を行っています。

■ インフルエンザの予防

 現在、インフルエンザの積極的な予防法はワクチンのみです。インフルエンザとかぜの区別が正確になされていない我国では、ワクチン接種の評価は必ずしも高いとは言えません。しかし、ワクチンは発病の相対危険が0.1〜0.3(有効率70〜90%)の評価を始めとし、症状を軽くしたり重症化を防ぎ、ウイルスの排泄期間を短くするのに役立っています。日本では現在極端に接種率が低下していますが、米国や欧州では肺炎などの重症化を防ぐ効果が評価され、高齢者などインフルエンザによる影響を受けやすい人たちを対象とした接種率が上昇してきています。しかし、高齢者や乳幼児では感染の機会は二次的であるので、感染の増幅の場となる学校などの集団生活をする世代へのワクチン接種が、より望まれます。

 さて、それでは日常生活でインフルエンザにかからないようにするにはどのような注意が必要でしょうか。それには先ず何故インフルエンザが冬に流行するかを考えることが大切です。飛沫感染をするウイルスにとって、低温で乾燥が続き、しかも閉鎖環境の多い日本の冬はウイルスが生き延びるのに最適なのです(図2)。流行期にはできるだけ人込みを避けるよう心掛けましょう。「うがい」はどうでしょうか。うがいによって直接ウイルスを排除することは困難ですが、乾燥して傷ついた咽頭(のど)を清浄にして気道粘膜の免疫機能を正常に保つことが期待できます。寒さが体の免疫機能の低下を招くともいわれていますので、体を温かくして居住環境の湿度と温度に注意することも大切です。

■ インフルエンザにかかったときは

 ほとんどの人が経験しているように、インフルエンザは突然発症します。急激な体温の上昇に伴い頭痛や「のど」痛などかぜ様疾患に共通な症状があり、特に重症感が強いものです。対症療法しか期待できませんが、睡眠を十分にとり体の防御機能を高めることが必要です。通常、健康な人では数日から一週間ほどで軽快します。

 慢性の呼吸器疾患や循環器疾患を持つ高齢者では、細菌の二次感染による肺炎の併発、また免疫機能が未熟な乳幼児では脳炎や脳症によって死亡することがあるので、これらの人々に感染させないようにする心掛けが必要です。

ウイルス課 前田 章子

 

 


抗菌グッズのブームの中で 

- その安全性を考える -

菌グッズが大はやりです。特に病原性大腸菌O-157が猛威をふるった1996年夏からは、その種類も数も一段と増加しています。抗菌という言葉は、菌を制御するということで、殺菌、除菌など全ての意味を含めて使われているようです。ここでいう抗菌グッズとは、薬事法に規定する医薬品、医薬部外品、化粧品および食品衛生法に規定する食品や添加物を除いた商品類を指します。メ−カ−は、抗菌グッズの有用性を宣伝して商品の販売を進めていますが、国民生活センタ−では、「抗菌加工が不必要な製品や、抗菌効果がない製品もある。」と抗菌グッズへの過信を戒めています。

 一方、抗菌加工剤の種類は多く、医薬品、医療用具、化粧品、農薬などに使用されている抗菌剤も転用されており、これらの抗菌剤により皮膚かぶれなどの健康被害が起った事例はたくさんあります。ところが、抗菌グッズに関しては安全性についての資料や健康被害の報告は少なく、表示方法や安全性に関しての基準もほとんどないのが現状です。

 そこで当研究所では、平成3年度から6年間にわたってどのような抗菌グッズが販売されているか市場調査をしてきました。また、使用されている抗菌加工剤を薬剤調査資料などと照らしあわせて調べました。調査した製品の総数1,113件のうち、ラベルに抗菌加工剤名を表示してあるものは化学製品を中心として2割程度で、加工剤や加工方法及びブランド名から推測したものを含めても、高々4割弱の抗菌加工剤名しかわからず、大半は不明という結果になりました。このことから、消費者は抗菌グッズに使用されている抗菌加工剤をほとんど知らされていないことがわかります。今後、表示基準について見直しの必要があると思われます。

 次に、この市場調査結果や毒性試験および毒性情報などから安全性に問題のある抗菌加工剤を選んで、分析法を開発して市販製品の分析調査を行なってきましたが、その結果から、使用濃度や使用方法に問題のある場合はメ−カ−に使用中止を要請するなど、健康被害の未然防止を図ってきました。

 抗菌グッズに関して、使用抗菌加工剤だけでなく、もう一つの視点から安全性を考えなければなりません。それは、細菌には病原性を有するものだけでなく、人体に必要な常在菌も存在すると言う事実です。健康な皮膚にはそれらがバランスを保ちながら存在しています。したがって、必要な細菌まで殺してしまうと病原菌がはびこり、体に悪影響を与えることにつながります。幸い、これまで、抗菌グッズによって細菌バランスが崩れたり、耐性菌ができて健康被害に至ったという明らかな事例は見当りませんが、医薬品や化粧品中の使用抗菌剤によって、皮膚の常在菌のバランスが崩れて悪性のかび類が皮膚にはびこったという症例報告もあります。

 抗菌グッズの安全性を考えていく上で、薬剤による皮膚障害や呼吸器系障害は生じないか、皮膚常在菌叢が壊されないか、耐性菌が生じることはないかなどについて検討していく必要があります。特に皮膚のバリアが完成していない乳幼児、皮膚感受性が高くバリアが壊されやすいアトピー患者、皮膚バリア機能や化学物質代謝機能が低下している高齢者のための製品には、厳密なチェックが必要と思われます。

労働衛生部 中島 晴信


発行日:平成9年8月10日

編 集:大石、中村、山吉、桑原、東、味村

事務局:薬師寺 、渋谷(内線297)


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