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大阪湾におけるアサリ等二枚貝の麻痺性貝毒による毒化

本年、3月下旬から4月下旬にかけて大阪湾の二枚貝から規制値を超える麻痺性貝毒が検出されたことから、潮干狩りやアカガイ出荷の自粛がなされました。テレビで麻痺性貝毒の検査実施シーンなどが何回も放映されましたが、当所が麻痺性貝毒の検査を担当しました。大阪湾における二枚貝の毒化の概要ほか、麻痺性貝毒の特徴、毒化原因、中毒症状、中毒防止対策などについて紹介します。

1.麻痺性貝毒(Paralytic Shellfish Poison)はどんな毒

1975年、Rapoportら、Schanzらによって、麻痺性貝毒の基本成分であるサキシトキシンの化学構造が決定されました。分子量約300の低分子化合物で、現在ではサキシトキシンのほか、ゴニオトキシン1〜6等約30種の同族体の存在が知られています。耐熱性で通常の調理加熱では失活しません。サキシトキシンは強い神経毒であるため、あのサリンのように化学兵器(特定物質)として使用・製造などが規制されています。

2.二枚貝などの毒化原因は

二枚貝やホヤなどはプランクトンを餌としているので、麻痺性貝毒を産生する渦鞭毛藻類が出現すると食物連鎖により毒化します。1975年、三重県尾鷲湾でAlexandrium catenellaによる赤潮の発生以来、日本各地で毒化原因プランクトンのA.tamarense、Gymnodinum catenatum、A.tamiyavanichiの発生が確認されています。これに伴い、ホタテガイ、ムラサキイガイ、アサリ、マガキ、アカザラガイ、ヒオウギガイ等の食用となる二枚貝がしばしば毒化し、水産・食品衛生両分野での重要な行政課題になっています。毒化は北海道や東北地方を中心に発生していましたが、最近では西日本においても例年のように毒化する傾向がみられます。二枚貝の他にも、その捕食者であるカニ(トゲグリガニ、イシガニ)、ヒトデやヒトデを捕食するフグなどに存在することも明らかになっています。

3.麻痺性貝毒による中毒症状

麻痺性貝毒の中毒症状はフグ中毒と区別がつきません。潜伏時間は30分〜4時間で、口唇、手足の痺れに始まり、重症のときは呼吸麻痺に陥り死亡します。
 日本における患者数が多かった事例としては、1977年に三重県(アサリ、患者数115名)、1979年に山口県(マガキ、患者数16名)、1997年には長崎県(カキ、患者数26名)で発生しています。死者については、1979年以降、ムラサキイガイの摂食により2名でています。
 国外では、ヨーロッパ、北米大陸、東南アジアなどで多数の中毒事件が発生しています。東南アジアでは1983年に、500名以上の中毒患者が発生し、約30名が死亡したとの報告があります。

4.大阪湾におけるアサリ等二枚貝の毒化

図1
図1 麻痺性貝毒の経時変化

アサリは二色浜、樽井浜、長松海岸の3定点で定期的に採取されたものについて測定しました(図1)。二色浜では3月23日から4月28日まで、樽井浜では3月28日から4月11日まで、長松海岸では3月30日から4月16日まで、それぞれ、規制値を超える麻痺性貝毒が検出されました。4月5日が3定点で最も高い測定値となりました。そのため、アサリの潮干狩りは3月27日から5月10日まで自粛されました。
 アカガイは4月1日から4月24日までは規制値を超え、5月17日まで出荷自主規制がなされました。
貝の種類によって生理・生態が異なるため、麻痺性貝毒の消長も種類によって異なる傾向があります。
 当所ではムラサキイガイについて貝毒モニタリングを実施していますが、アサリなどに比べ、高毒化し、過去5年間、毎年規制値を超える麻痺性貝毒が検出されています。今年は100MU/gを超える毒力のものがありました。この貝はムール貝とも呼ばれていますが、自分で採取して食べないよう注意しましょう。

5.中毒防止対策

生産地における毒化モニタリングが重要で効果的です。国内では、貝類の毒化予知等のため、毒化原因プランクトンの観察や毒性試験が実施されています。一定の密度の毒化原因プランクトンが観察された場合には、サンプリングの頻度や貝の種類を増やすなどして、貝毒検査がなされています。
 貝の毒化が例年のように発生していますが、生産地で出荷自主規制等の措置が講じられており、消費地においても安全性確認のためのモニタリング検査が実施されていますので、中毒事件の発生は非常に少なくなっています。

6.麻痺性貝毒の検査法

麻痺性貝毒の検査法はマウスを用いる試験が公定法となっています。貝の抽出液を腹腔内に注射し、死亡するまでの時間を測定して「致死時間−マウス単位換算表」をもとに算出します。試験に使用するマウスは系統、性、体重などが細かく決められていますので、必要なときに規格にあったマウスを必要数入手するのが困難であるという欠点があります。化学的検査法としては、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)があり、毒組成を解析する場合には有効です。しかし、多種類の標準品を確保しなければなりません。いずれも、高価な設備、専門的技術や熟練を要することから、簡便、迅速な検査手法の開発が望まれてきました。
 当所では、麻痺性貝毒の簡便検査法として、酵素免疫測定法(ELISA法)の開発に取り組み、キット化にも成功しました。本キットでは40分で40試料の測定が可能で、感度もよく、公定法では検出できない低レベルの麻痺性貝毒を検出できるなど、多くの利点があります。
 現在、先端技術を活用した農林水産研究高度化事業(研究課題名:現場即応型貝毒検出技術と安全な貝毒モニタリングシステムの開発)に参画し、全国各地から各種貝類を入手して、当所開発技術の有用性を実証しており、高い評価を得ています。

* MU(マウス単位)とは

痺性貝毒の検査は貝の抽出液をマウスの腹腔内に注射して死亡時間から毒量を求めます。毒量の単位はMUを用いますが、体重20gのddY系雄マウスを15分で殺す毒量を1MUとしています。
 なお、規制値は可食部1グラムあたり4MUとなっています。成人の最小致死量は3,000MUといわれています。

感染症部細菌課 濱野 米一
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