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アメーバに潜むレジオネラ属菌

2002年に宮崎県の大型入浴施設を感染源とするレジオネラ症が発生し、295名が感染(疑いを含む)うち7名が死亡するというわが国最大の集団感染事故が発生しました。レジオネラ症はレジオネラ属菌が原因で起こる感染症で、近年、入浴施設や大型クルーズ客船内の浴槽水を感染源とする集団感染などが発生し社会問題となっています。本誌では、レジオネラ属菌とその汚染の背景にあるアメーバについて紹介します。

1.レジオネラ属菌とは

図1 図1 レジオネラニューモフィラの電顕像

2005年3月までに、レジオネラ属菌は50菌種が正式に命名されていますが、レジオネラ症の患者から分離される菌種の大部分はレジオネラニューモフィラ(Legionella pneumophila)です。

 レジオネラ属菌は0.3〜0.9×2〜20μmの好気性グラム陰性桿菌(写真1)で、淡水や土壌中に広く生息しています。環境中では特に、循環式浴槽水、冷却塔水、加湿器、給湯水、噴水などの人工的な水環境から高率に検出されています。レジオネラ属菌は細菌検査用培地に含まれている脂肪酸により発育を阻害されるため、通常の培地では発育しません。この脂肪酸などの発育阻害物質を吸着除去するために活性炭末を添加したレジオネラ属菌用の培地を使用します。レジオネラ属菌は発育が非常に遅いため、環境水からの分離培養で独立集落を肉眼で確認するには5日以上の培養が必要です。

2.レジオネラ症とその発生状況

 レジオネラ症は、レジオネラ属菌に汚染されたエアロゾル(水の微粒子)を吸い込むことにより発症します。レジオネラ症には、劇症型のレジオネラ肺炎と、自然治癒型の風邪症状に似たポンティアック熱の2つの病型があります。レジオネラ肺炎には特有の症状がないため、症状のみで他の肺炎と鑑別することは困難です。米国では成人市中肺炎のうち少なくとも10%はレジオネラ属菌が関与していると推計されています。レジオネラ症は健康な成人が発症することはまれで、高齢者や乳幼児、基礎疾患を有する人など免疫機能が低下している人に発症がみられます。ヒトからヒトへの感染はありません。レジオネラ症は「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」の4類に分類され、診断したすべての医師に届け出が義務付けられています。レジオネラ症患者は、2002年から2004年の3年間で1年間に平均158例報告されていますが、2005年には280例、2006年はすでに303例(8/20現在)が報告され、患者報告数は年々増加傾向にあります。欧米では空調用冷却塔水からの感染報告が多く冷却塔稼動時期の夏に患者発生が多いのに対し、日本では浴槽水からの感染が多いのが特徴で季節性はみられません。また、特定の地域に患者が集中する傾向もみられません。
 浴槽水を感染源とするレジオネラ症の集団感染事例が相次いで発生していることから、厚生労働省では2002年に入浴施設等におけるレジオネラ症防止対策の実施状況の緊急一斉点検を行いました。その調査結果では、16.7%の施設の浴槽水からレジオネラ属菌を検出しています。

3.レジオネラ属菌汚染の背景にあるアメーバ

写真2-1 写真2-1 アカントアメーバ(栄養体)
写真2-2 写真2-2 レジオネラ属菌が寄生した
     アカントアメーバ
アメーバ内で増殖したレジオネラ属菌に埋め尽くされ膨らんでいます。やがてアメーバを破壊してレジオネラ属菌が大量に放出されます。

 入浴施設でさまざまなレジオネラ属菌対策が行われているにも関わらず、浴槽水中からレジオネラ属菌が検出されるのはなぜでしょうか? その理由として、レジオネラ属菌の宿主となるアメーバの存在が大きく関与しています。細胞内寄生性であるレジオネラ属菌は、環境水中でアメーバなどの原生動物に寄生して増殖します。アメーバ内で増殖したレジオネラ属菌は、最終的にはアメーバを破壊し大量の菌を環境水中に放出して汚染を拡大させます(写真2)。また、放出されたレジオネラ属菌は新たな宿主に寄生して増殖するため、適切な衛生管理を行わなければ爆発的に増殖する恐れがあります。
 レジオネラ属菌は浴槽水で通常使用する塩素濃度で死滅しますが、アメーバ内に寄生するレジオネラ属菌は外界から守られた状態にあるため、塩素などの薬剤は十分には効果を発揮することができません。さらに、宿主となるアメーバ自身は塩素などの消毒剤に強い耐性を持つため死滅しません。アメーバは浴槽環境中で、ぬめり(バイオフィルム)などに特に高率に存在しています。そのため、定期的な清掃、消毒によりバイオフィルムを除去し、レジオネラ属菌汚染の背景にある宿主となるアメーバを浴槽水中に定着させないことがレジオネラ属菌対策を行う上でとても重要となっています。
 アメーバにはレジオネラ属菌だけでなく結核菌、病原性大腸菌O157、抗酸菌なども寄生して増殖することが報告されています。従って、アメーバを除去することは、浴槽環境を原因とする感染症の総合的な発生予防にも効果があるのです。

4.レジオネラ属菌の新しい検査法

 現在、レジオネラ属菌検査は培養法によって行われていますが、検査結果を得るまでに1週間〜10日かかることから迅速な検査方法が求められています。当研究所では、遺伝子増幅を用いた迅速検査法であるLAMP法(Loop-mediated Isothermal Amplification)について浴槽水や冷却塔水を対象に検討を行っています。LAMP法は特異性が高く操作が簡便で半日で結果を得ることが可能です。
 ただし、一般的にLAMP法など遺伝子を標的とする検査では、培養法で検出できる生菌だけではなく死菌や遺伝子の断片が存在すると陽性となるため、培養法よりも陽性率が高くなります。LAMP法は定性試験であるため菌数を算出することは出来ませんが、培養法と同等以上の感度が得られています。LAMP法の活用により、レジオネラ属菌検出時の衛生対策として消毒や清掃などを迅速に行うことが可能となります。また、集団感染発生時に感染源を早期に特定することは、レジオネラ症感染拡大防止にもつながります。

5.おわりに

 大阪府では、公衆浴場及び旅館等の入浴施設の衛生水準確保向上のために、これら入浴施設の監視、指導を行い、レジオネラ症発生防止に努めています。
 当研究所では、レジオネラ属菌やアメーバに関する研究や分布実態調査を行っています。

生活環境部環境水質課 枝川 亜希子
ロゴマーク 公衛研ニュース第32号(2) 編集:公衛研ニュース編集委員会