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生薬中の残留農薬

 生薬とは動物や植物の薬用とする部分などで、主に漢方薬の原料として使用されています。例えば、風邪などに用いられる漢方薬の『葛根湯』には、生薬の『カッコン』などが原料として使用されています。植物由来の多くの生薬は栽培されており、病害虫の防除などを目的として農薬が使用される可能性があります。
 以前から食品中の残留農薬が、食に対する安全性の問題として取り上げられていますが、生薬中の残留農薬についても、医薬品の安全性確保のための課題として関心を集めています。
 大阪府は、我が国最大の生薬取引市場である道修町をかかえていることから、生薬の品質確保は行政的に重要な課題のひとつとなります。当所では、生薬の安全性の観点から、生薬中の残留農薬に関する研究を継続して行っています。

1.食品における規制

 食品中に残留する農薬等については食品衛生法により規制され、約800種類の農薬等が一定の量を超えて残留する食品の販売や流通は、禁止されています。

2.生薬における規制

 漢方薬は、各種疾患の予防及び治療に使用されており、長期にわたり連用される可能性が高いことから、漢方薬の原料である生薬は、食品と同様その安全性に関して十分な配慮が必要となります。我が国で使用される生薬の大部分は輸入品ですが、残留農薬に関する報告は少なく、その実態に関しては不明な部分が数多く残されています。
 生薬中の残留農薬は、食品衛生法による規制を受けず、薬事法に基づいた日本薬局方により規制されます。日本薬局方とは、国が重要とする医薬品の規格を定めた公定書であり、現在、約150 種類の生薬が収載されています。
 生薬中の残留農薬の規制としては、1998 年に初めて2種類の生薬(ニンジン及びセンナ)について2種類の農薬(BHC及びDDT)の残留基準*が設定されました。その後、2006年に行われた日本薬局方の改正において、新たに11 種類の生薬についてBHC 及びDDT の残留基準*が設定されました。
 法的に規制されている農薬は上記の2種類のみですが、生薬業界においては、法的に規制される上記の農薬以外についても自主的に検査が行われ、生薬の品質管理が行われています。

3.生薬中の残留農薬についての実態調査

 当所では、1990年代当初より現在まで、ニンジン及びセンナに残留するBHC及びDDTの実態調査を行っています(図1、図2)。残留基準の設定以前には、多くの試料から高濃度のBHC及びDDTが検出されていましたが、残留基準の設定以降は、ほとんどの試料からBHC 及びDDT が検出されなくなり、ニンジン及びセンナに残留するBHC及びDDTの量も減少してきました。
 しかし、近年、残留基準の定められているBHCやDDT以外の農薬が検出されたとの報告がなされており、生薬に使用されている農薬が、残留基準の定められている農薬から残留基準の定められていない農薬へと移行している可能性が考えられます。

図1-1 図1 ニンジン中に残留しているBHC,DDTの経年的な変化
図1-2 図2 センナ中に残留しているBHC,DDTの経年的な変化

4.今後の研究方針

 現在まで、生薬中の残留農薬の分析法や実態調査に関する多くの報告は、BHC やDDT に関するものでした。現在、BHC やDDT以外の農薬が生薬に残留していることが考えられることから、BHCやDDTを含め、できるだけ多くの農薬を測定することができる分析法を開発し、実態調査に努めていきたいと考えています。

▼2006年にBHC及びDDTの残留基準が設定された11種類の生薬
 オウギ、オンジ、カンゾウ、ケイヒ、サイシン、サンシュユ、ソヨウ、タイソウ、チンピ、ビワヨウ、ボタンピ
* BHCの残留基準
 BHC は、日本では毒性・残留性が強いことから1971 年に使用禁止となりました。日本薬局方における残留基準は、0.2ppm 以下です。
* DDTの残留基準
 DDT は、日本では毒性・残留性が強いことから1971 年に使用禁止となりました。1981年に特定化学物質に指定され、全ての用途で製造・販売・使用が禁止されています。日本薬局方における残留基準は、0.2ppm 以下です。

食品薬品部薬事指導課 田上 貴臣、梶村 計志
ロゴマーク 公衛研ニュース第33号(1) 編集:公衛研ニュース編集委員会