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動物用医薬品

 動物用医薬品は医薬品のうち専ら動物に使用する医薬品のことをいいます。また、治療・予防等が目的の動物用医薬品とは別に栄養補給と飼料の有効利用を図ることが目的の飼料添加物というものがあります。飼料添加物にも抗菌性物質(抗生物質、合成抗菌剤)が成長促進のために用いられています。
 これら動物用医薬品等は畜水産物の安定供給や人獣共通伝染病の防止等の一翼を担っていますが食品への残留による毒性、薬理作用、過敏症誘発、腸内細菌叢の変化や耐性菌出現、環境汚染等が懸念されています。

1.残留の問題

 大阪府では、1994年に豚肉が苦いという届け出があり、調査の結果、抗生物質が高濃度で残留していたことが判明しました。国内では、残留物質による直接的な健康被害は、このような「苦い肉事件」以外は見あたりません。
 一方、海外では、深刻な事例も報告されています。1970年代後半にプエルトリコで乳幼児の性的異常発育の多発が認められました。その当時、現地では畜産動物に合成女性ホルモン剤が使用されており、薬剤の残留した食肉の摂取が原因と強く疑われました。また、喘息治療薬が肉質改善の目的で不正使用されることもあり、残留した薬剤による食中毒が1990年にスペイン(牛肉)で、1998年に香港(豚)で起きています。
 過敏症誘発については、ペニシリン等がアレルギー反応を誘発することが知られており、各国の食品中の残留基準値はアレルギー反応を考慮して低く抑えられています。

2.耐性菌の出現と環境汚染の問題

 人のメチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA)感染症の重要な治療薬であるバンコマイシンに交差耐性を持つ腸球菌(VRE)が発見されて問題となっていますが、これは動物の成長促進のために用いられた抗生物質(アボパルシン)がその原因として強く疑われる事例となっています。そのため、薬剤耐性菌のモニタリングとして「JVARM」と呼ばれる畜産分野での耐性菌調査や医療分野での「薬剤耐性菌感染症発生動向調査」が強化実施され、両分野の連携が進められています。
 また、人間や動物に使用された医薬品が糞尿中に排泄され、一部が分解されずに環境に放出されています。これら医薬品等由来化学物質が河川水中に存在することが判ってきました。わが国での動物用と農業用を合わせた抗菌性物質の使用量は人間用の使用量のおよそ3倍と推計されていますが、抗菌性物質の使用による薬剤耐性の問題は人、動物、農業、環境に関わる複雑な問題です。

3.残留防止対策

 食品中の動物用医薬品は、従前、食品衛生法で「食品は抗生物質を含有してはならない。」「食肉、食鳥卵及び魚介類は抗生物質のほか、化学的合成品たる抗菌性物質を含有してはならない」と規定され、1996年に初めて科学的根拠に立脚した残留基準が設定され、これまで規制のなかったホルモン剤、寄生虫駆除剤等に残留基準が順次設定されてきました。しかし、残留基準が設定されていない物質については、残留があっても規制できない状態でした 。
 2003年の食品衛生法改定で、残留農薬や残留動物用医薬品等の規制はポジティブリスト制度に改められました(2006年5月29日施行)。このポジティブリスト制とは農薬や動物用医薬品等が残留する食品を原則的に流通させないようにするものです。
 その概要は、ミネラルや重曹等、ある程度残留したとしても人の健康を損なうおそれがないものを規制の対象から除外した上で、その他のものについて「一律基準(人の健康を損なうおそれのない量)」と成分規格としての残留基準を定めました(表1)。その成分規格は、
1) 抗菌性物質は、全ての食品で含有してはならない(不含有)。
2) 遺伝毒性、発ガン性を有する等、許容限度値が設定できない物質(現在16 種類)は検出されてはならない(不検出)。
3) 個別の食品について、農薬、動物用医薬品等ごとにおよそ800物質に残留基準が設定された(約240 物質が動物用医薬品等)。
これらの基準に適合しない食品は流通させることができなくなりました。
 国内では、「薬事法」、「飼料安全法」、「動物用医薬品の使用の規制に関する省令」等の動物用医薬品等の残留を防止する法令があり、動物用医薬品承認時の残留規制措置や飼料の安全確保や使用基準又は休薬期間が設定されています。基本的にこれらを遵守して適正な使用を行えば残留の問題は起きない仕組みになっています。

表1 ポジティブリスト制度の概要 写真2-1

4.ポジティブリスト制移行による変化

 厚生労働省の「輸入食品監視ホームページ」に「違反事例(速報)」が掲載されていますが、動物用医薬品の残留による違反数に注目してみますと、ポジティブリスト制施行後の6月〜11月の半年間に前年同時期の約4倍の違反数になっています。特にクロラムフェニコールやニトロフラン代謝物等の新たに「不検出」基準が適用されるようになった物質の検出が際だっています。このように薬剤の残留する食品を流通させないポジティブリスト制度が機能していると考えられます。

5.公衆衛生研究所のとりくみ

 大阪府では、1970年代に残留抗生物質の検査を開始しました。現在、大阪府食品衛生監視指導計画に基づき残留抗生物質の検査と薬剤耐性サルモネラの調査を当所の細菌課で、残留合成抗菌剤とその他の動物用医薬品(寄生虫駆除剤、ホルモン剤、抗生物質の一部)の検査を食品化学課で行っています。
 このような残留調査が生産者による動物用医薬品の不適切な使用を指摘することになり適正使用を促しているものと考えています。
 2006年5月からはポジティブリスト制度が施行され、残留基準が多く設定されました。残留動物用医薬品等は極めて低い濃度を測定(ppt 〜ppb)する必要があります。これらの残留物質をモニターすることは府民の健康を守る為に重要なことであり、今後も高感度で信頼性の高い液体クロマトグラフタンデム質量分析計などの分析機器を整備しつつ、より迅速な検査体制を確立する必要があると考えています。

食品医薬品部食品化学課 田口 修三
ロゴマーク 公衛研ニュース第33号(2) 編集:公衛研ニュース編集委員会