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結核菌の多剤耐性について

 2007年の5月にアメリカで超多剤耐性結核に罹患した男性が44年ぶりに強制隔離されたことなど、最近、多剤耐性結核菌や超多剤耐性結核菌についての報道が増えています。

1.多剤耐性結核菌、超多剤耐性結核菌とは

 現在の結核の標準的な治療は、抗結核薬のうち2〜4剤を使った6ヶ月間の多剤併用療法です。標準療法に使用される抗結核薬のうちリファンピシンとイソニアジドがもっとも強い抗結核作用を持っているので、これら二剤に耐性を持つ結核菌を多剤耐性結核菌と呼びます。多剤耐性結核に罹ると化学療法による治癒が非常に困難になります。日本の結核全体の治癒率は80%以上ですが、多剤耐性結核では外科療法した例を含めても治癒率は50%程度になります。また、多剤耐性結核菌のうち、その治療に用いられるニューキノロン系抗生剤(フルオロキノロン、レボフロキサシンなど)の1種類以上に耐性、かつ注射可能な抗結核薬(カナマイシン、アミカシン、カプレオマイシン)の1種類以上に耐性のある菌を超多剤耐性結核菌と呼びます。超多剤耐性結核は化学療法が事実上不可能となり、治癒率は30%程度になってしまいます。

2.多剤耐性結核や超多剤耐性結核はなぜ起こるのか

図1 図1 薬剤投与と多剤耐性結核菌の出現機構

 結核菌の薬剤耐性は、染色体遺伝子の突然変異により一定の率で発生します。結核を一剤だけで治療すると、図1のようにその薬剤に耐性な菌が増殖してしまいます。続けて他の薬剤を一剤だけ使って治療すると、さらに多くの薬剤に耐性な菌が発生してしまいます。このような不適切な治療が多剤耐性結核菌を作り出します。また、治療の方法が正しくても結核菌の薬剤感受性を無視した化学療法を行うと、多剤耐性菌が発生してしまいます。化学療法や使用薬剤の選択が適切でも、きちんと6ヶ月の服用をせずに投薬を中断してしまうと、生き残っている耐性菌が増殖し多剤耐性菌発生の元となります。

3.日本に多剤耐性結核菌や超多剤耐性結核菌はあるのか

表1 世界の多剤耐性結核菌、超多剤耐性結核菌の頻度(200〜2004) 表1

 2006年にCDC*とWHO**が発表した世界中の多剤耐性結核菌、超多剤耐性結核菌の調査結果が表1です。WHOは超多剤耐性結核菌が日本を含む28カ国で確認されたと報告しています。日本では、結核療法研究協議会が2002年に全国の結核治療施設から集めた3122株の結核菌について調査したところ、多剤耐性結核菌が51株(1.6%)、超多剤耐性結核菌が17株(0.5%)検出されました。この割合から計算すると、日本では年間に約70名の超多剤耐性結核患者が発生していることになります。当研究所で2000〜2006年に薬剤感受性試験を実施した638株中、22株(3.4%)が多剤耐性結核菌でした。

4.多剤耐性結核菌や超多剤耐性結核菌は感染するのか

 かつては、多剤耐性結核菌は薬剤感受性結核菌より増殖力が弱く、ヒトからヒトへ感染しないと考えられていました。しかし、近年、結核菌の遺伝子型別法が進歩し、多剤耐性結核菌も感染することが証明されています。日本では、ある結核療養所で一人の患者から5名に多剤耐性結核菌が感染した事例が報告されています。また、当研究所で調査した事例のなかにも多剤耐性結核の家族内集団発生が見られました。

5.多剤耐性結核菌や超多剤耐性結核菌を増やさないために

 多剤耐性結核や超多剤耐性結核は不適切な治療や治療の中断によって発生しますので、直接服薬支援などにより、治療の中断をなくして耐性菌の発生を防ぐことが重要な対策となります。また、薬剤感受性試験に基づいた適切な化学療法を徹底することが大切です。さらに、サーベイランス調査、遺伝子型別による感染源調査など新たな対策による多剤耐性結核菌・超多剤耐性結核菌の監視や感染拡大の防止が必要です。個人レベルの対策としては、薬剤感受性結核も多剤耐性結核も早期発見・早期治療が治癒に繋がりますので、咳や微熱が二週間以上続く場合は、医療機関を受診するようにしてください。現在、多剤耐性結核・超多剤耐性結核にも有効と思われる新しい抗結核薬が臨床試験段階に入っています。今後、多剤耐性結核や超多剤耐性結核の有効な化学療法も可能になるかもしれません。

* CDC(Centers for Disease Control and Prevention)疾病予防管理センター
 ジョージア州アトランタにある米国保健社会福祉省所管の感染症対策の総合研究所。本センターより勧告される文書は、大きな影響力をもつ。

** WHO(World Health Organization)世界保健機関
 健康を人間の基本的人権の一つと捉え、その達成を目的として設立された国連の専門機関で、現在192ヶ国が加盟。

感染症部細菌課 田丸 亜貴
ロゴマーク 公衛研ニュース第34号(1) 編集:公衛研ニュース編集委員会