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生活排水処理系汚泥のコンポスト化について

近年、生活排水処理の最終的な産物である汚泥の発生量は、核家族化の進行、生活水準の向上、排水処理の高度化の推進に伴い著しく増加しています。  これらの汚泥の処分方法としては、再資源として緑農地へ還元する堆肥(コンポスト)化が以前より行われてきました。しかし、現在、主として行われている焼却、埋立て処分について、排水処理施設の多くはエネルギー消費、環境負荷等の面において不満があるにもかかわらず、コンポスト化に対し慎重に臨んでいるのが現状です。これは、製造されたコンポストに対する重金属・病原微生物汚染による安全性への懸念と需給バランス維持への不安が主な要因であると考えられています。今後、コンポストの需要量を増大させ、コンポスト化をスムーズに実施していくためには、これらの課題に対処することが重要と考えられます。

1.重金属汚染への対応

 排水処理系汚泥コンポストの品質については、肥料取締法において普通肥料として重金属等の規格が定められています(表1)。そのうち、水銀について大阪府内の8ヶ所のし尿処理場より排出される汚泥中の平均濃度1.97mg/kgと基準値(2mg/kg)に近い値になっています。これは、海産物を多く摂取する国民性に由来しているものと考えられています。また、汚泥中の水銀濃度と排水処理量当りの汚泥発生量との相関をみると(図1)、嫌気性消化等の汚泥発生量を減少させる処理方法を採用している施設において、水銀濃度が高くなる傾向がみられました。これは、汚泥発生量は減少するものの水銀が有機性のイオウ化合物等と結合し、汚泥内に蓄積していくためと考えられます。そのため、最近でも排水処理系汚泥で製造されたコンポスト中の水銀濃度が基準値を超え、肥料取締法に基づき摘発がなされ問題となっています。
 汚泥中の水銀濃度の低減化策としては、
(1)汚泥の発生量は少々増加するが汚泥滞留時間が短く、水銀が汚泥に蓄積しにくい処理方法へ変更する
(2)水銀濃度の低いウッドチップ等の副資材を添加してコンポストを製造する
のが実用的な方法であると考えられます。

表1 肥料取締法による普通肥料の
重金属類の公定規格 表1
図1 汚泥発生量と水銀濃度の関係 図1

2.病原微生物汚染への対応

表2 病原微生物の不活化条件 表2

 昨今、わが国ではO157やクリプトスポリジウムのような新興の消化器系感染症が各地で集団発生し、社会的に大きな問題となっています。しかし、前述の普通肥料の規格において、コンポスト中の微生物に対してなんら規制がないのが現状です。寄生原虫であるクリプトスポリジウムはオーシストの形態で存在し、各種消毒剤等に対し強い抵抗性を示すうえに、通常の土壌中では約6ヶ月間生存するとされています。クリプトスポリジウムによる汚染は、近年、畜産系のみならず生活系排水による可能性も指摘されています。そのため、これらに汚染された汚泥が未処理のまま緑農地へ施用されると、土壌を介して栽培作物や環境水等を汚染するだけでなく、高齢者の多い農業従事者の安全性確保の面からも重大な問題になりかねません。しかし、クリプトスポリジウムをはじめとする一般的な病原微生物は、熱に対して比較的感受性が高く、60℃、1時間程度でほとんど不活化されます(表2)。そのため、コンポストの安全性を確保するためには、処理温度を60℃以上に保つことが必須条件になるものと考えられます。
 しかし、近年のし尿処理施設においては、一度排水処理を経て発酵エネルギーの低下した浄化槽汚泥の投入割合が年々上昇する傾向にあり、汚泥を発酵させるだけで60℃に達することが困難な状況になっています。そのため、安全性を確保するためには、強制的に加熱を行ってでも処理温度の条件を満すことが重要になると考えられます。

3.需給バランス確保への取組み

 コンポストの大量需要が期待される農業においては、近年、化学肥料や農薬の投入量増加により、地力低下や環境汚染が深刻な問題となっており、環境負荷に配慮した環境保全型農業の確立を目指し行政指導が行われています。そのため、以前とは異なり、社会的にも排水処理系汚泥コンポストを受け入れるための体制が整いつつあります。しかし、農家において肥料等の購入は、農協等の確立されたルートを通じて行われているのがほとんどで、いくら有用性が認識されても、流通ルートが形成されていなければ需要量の増加は望めません。さらに、高齢化社会をむかえるにあたり、施用量の多いコンポストを利用してもらうためには、直接、緑農地まで搬入するシステムの構築が必要になるものと考えられます。
 また、最近では家庭菜園・園芸が盛んに行われるようになり、一般家庭での需要もかなり見込まれるため、近隣地域での広報・啓発活動が重要となっています。
 コンポスト施設をスムーズに運営するためには、前述のようにコンポストの品質保証、安全性確保により信頼性を向上させることが重要なことはいうまでもありません。しかし、このようなハード面に関する課題より、上記の供給方法・ルートの開拓・確保等を含めたソフト面に関する課題の解決には、多方向性が求められ大きな労力を必要とします。
 現在、わが国の食糧自給率等を考慮すると、特に緑農地の少ない都市圏では、排水処理施設から排出される汚泥の全量を施用することが不可能なのは明白です。しかし、近隣地域だけで十分に利用可能な汚泥発生量であるにもかかわらず、安全性への懸念を方便としてコンポスト化に消極的な施設においては、ソフト面に対する労力を惜しむ姿勢が多く見受けられるのが現状です。今後、このような地域の施設においては、排水処理系汚泥の処理・処分の現況や農業の抱える諸問題を念頭にいれ、「汚泥再生資源センター」としてコンポスト化も可能な施設の設立とスムーズな運営を目指し、関連する行政担当者も含め一層の尽力が切望されます。

企画総務部企画調整課 足立 伸一
ロゴマーク 公衛研ニュース第34号(2) 編集:公衛研ニュース編集委員会