HOMEページ公衛研ニュース > 医薬品類による水環境汚染

医薬品類による水環境汚染

 私達が普段服用している医薬品が体外に排泄された後、どうなるか考えたことはありますか?  医薬品はヒトが服用した後、すべてが代謝され体外に排泄されるわけではなく、中には代謝されず薬の活性をもったまま(未変化体)で排泄されることもあります。未変化体のまま排泄される割合は医薬品の種類によって異なりますが、これらの医薬品が下水処理過程において完全には除去されないまま排出され、水環境を汚染するという問題を起こしています。また畜産分野においても、人畜共通の医薬品や家畜専用の抗菌薬等*1 が大量に使用され、畜産排水を通して同様に水環境を汚染しています。
 近年、欧米において、ヒトおよび畜産用医薬品、日焼け止め等の身体ケア製品を起源とする化学物質(Pharmaceuticals and Personal Care Products : PPCPs)が、河川や下水処理水等の水環境中で広範囲に存在することが明らかにされ、新たな環境汚染物質として世界的に関心が持たれてきています。
 そこで今回は医薬品類による水環境汚染について紹介します。

1. 日本における環境水中医薬品の存在実態

 現在日本では、環境水中の医薬品に関する実態調査がいくつか行われており、汚染状況が徐々に明らかになってきています。調査の対象とされている環境水は、主に河川水、下水処理水および畜産排水等です。これまでに東京都健康安全研究センターが東京都内の都市河川水および下水処理水から、また横浜国立大学は神奈川県下の都市河川水と下水処理水から解熱・鎮痛剤、抗生物質等の検出を報告していま す。その濃度は数〜数百ng/L*2と非常に低濃度で、通常、下水処理水中濃度の方が河川水よりやや高い傾向にあります。この様に、汚染状況などの一部が明らかになってきましたが、調査対象の医薬品の種類や地域は限られており、環境水の医薬品汚染の全容を知るのはこれからというのが現状です。
 当所においても、河川水を対象に一部の医薬品の濃度測定を行いました。対象としたのは日本において比較的長期間使用されてきた医薬品で環境水中からの検出頻度が高い、解熱・鎮痛剤のイブプロフェン(IP)、メフェナム酸(MA)、ジクロフェナクナトリウム(DF)、抗てんかん剤のカルバマゼピン(CBZ)の計4種(図1)です。今回検出された濃度は数〜数十ng/L(図2)と微量であり、国内における他の実態調査と比較すると同程度あるいは低い濃度でした。
 汚泥中の水銀濃度の低減化策としては、
 (1)汚泥の発生量は少々増加するが汚泥滞留時間が短く、水銀が汚泥に蓄積しにくい処理方法へ変更する
 (2)水銀濃度の低いウッドチップ等の副資材を添加してコンポストを製造する
のが実用的な方法であると考えられます。

表1
図1 当所で河川水を対象に濃度測定した医薬品
表1
図2 AおよびB河川における濃度分布

2.環境水中の医薬品がもたらす影響は?

  これらの環境水中に存在する医薬品がどの様な影響を何に及ぼすかを考えてみましょう。環境水中に検出された医薬品のレベルは、一般的にヒトが治療で摂取する量の約10 万〜 100万分の1でありヒトへの健康影響はないと考えられます。また、ごく最近、厚生労働省の調査では、国内ではじめて浄水から一部の医薬品がごく微量検出されましたが、厚生労働省は、現時点では「直ちに対応が必要な濃度ではない」と報告しています。
 今、最も関心を集めているのは、環境水中に存在する極微量の医薬品が生態系に与える影響です。医薬品の中でも、特に細菌などの微生物に作用する薬が、ヒトや畜産動物を介して環境中に排出されると、これらの薬剤に耐性を持つ細菌(薬剤耐性菌)が出現し*3、その薬剤耐性菌の遺伝子が環境中に存在する他の細菌に次々と伝達され、薬剤耐性菌が環境中に広がっていくことが指摘されています。環境省は環境中に排出された医薬品が生態系に影響を及ぼす可能性があるとして、河川や大気中の化学物質を調べる「化学物質環境実態調査」の対象に、H18 年度より新たに医薬品成分を加える方針を明らかにしています。しかし現在のところ、国内では環境水中に存在する 医薬品の危険性を表す評価指標等は示されてはいません。
 このように医薬品における水環境汚染は、実態が徐々に明らかになっているものの、影響等についてはまだ詳しくはわかっていません。従って、河川や湖沼を水道水源としているわが国では、水環境中の医薬品汚染の監視は公衆衛生上必要です。汚染の監視のほかに、水処理技術の分野においても、環境水中の医薬品類の低減化に向けて、下水処理過程における除去率の向上等の研究が行われており、その成果が 期待されているところです。
 当所においても、今後とも水環境中の医薬品に関する情報を収集していく予定です。

*1 抗菌薬:抗生物質および合成抗菌薬の総称。合成抗菌薬は完全に人工的に合成された抗菌性物質で、微生物の産生物に由来する抗生物質と区別される。

*2 1ng = 10-9g

*3 環境中での薬剤耐性菌の出現については、ペットや農薬を介したルートも考えられています。

生活環境部環境水質課 安達 史恵