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生薬・漢方薬の品質

 中国及び西欧文化圏において薬用植物がおよそ5千年前から使用されていたことが記録に残っており、中国では本草学として発展してきました。薬用植物の薬効成分の解明は20世紀以降ですが、化学合成技術が発達した現在でも、人類の利用している医薬品の実に30%が天然物です。
 生薬は、主に動植物(一部には鉱物、菌類)由来天然物の薬用部位を乾燥あるいは簡単な加工を施したものです。生薬の用途は幅広く、漢方薬の原料、あるいは、かぜ薬や胃腸薬のような一般用医薬品への配合薬となるものが多いものの、一部はスパイスなどの食品分野(いわゆる健康食品を含む)にも使用されています。
 日本では、江戸時代から大阪道修町が生薬の集散地であって、国内外の和漢薬が道修町の薬種問屋を経由して全国に送られました。

1.生薬・漢方薬の品質評価とその問題点

 生薬は天産品であり、同一生薬であっても産地、採取年度・時期、加工調製方法によって品質が影響されます。生薬の品質は、形態学的手法と種々の理化学的手法(特に有効成分の含有量測定)で評価されます。さらに、残留農薬と微生物汚染についての検討も重要です。特に高価な動物生薬の牛黄(ゴオウ)や麝香(ジャコウ)、熊胆(ユウタン)では偽物、異物の混入した物が出回ることがあり、注意が必要です。
 また、漢方薬(中国では中成葯 (チュウセイヤク))に用いる生薬には、同一名であっても日本と中国でその基原(原植物)が異なるものが多く(当帰(トウキ)、川キュウ(センキュウ)、朮(ジュツ) 等)あり、薬理活性の差も懸念されています。

2.生薬・漢方薬による健康被害

 生薬や漢方薬は作用が緩和で安全であるという訳ではありません。日本では慢性病の治療に長期間同一の漢方薬を投与することもあり、柴胡(サイコ)製剤などによる間質性肺炎が大きく報道されました。また、中国では科・属の全く異なる植物のものに同一名をあてることがあり(“同名異物”という)、中国の製薬工場でアリストロキア酸を含む生薬を原料とした製剤が日本の病院で投薬され、腎障害を引き起こしました。また、漢方薬でも牛黄清心丸のように高濃度のヒ素や水銀が処方されている場合などがあり、中国・台湾旅行の土産として購入することは注意が必要です。
(表1)

表1 生薬・漢方薬による健康被害 表1

3.生薬資源の確保

 生薬や漢方薬の材料となる資源の確保は困難になりつつあります。
 近年、貴重な動植物が乱獲や違法採取によって絶滅に瀕しているものがあり、1973年、商業取引によって種の存続が脅かされることがないよう、国際的な取引を規制する目的でワシントン条約が定められました。日本も1987年に批准しています。その中には薬用動植物も含まれています(表2)。

表2 ワシントン条約掲載種で生薬として利用される主な植物 表2

 また、最近では地球環境の変化も生薬の確保に影響を及ぼしています。
 日本では、薬用植物の約90%を輸入に依存しており、そのほとんどが中国産です。しかし、中国では急速な経済発展に伴って生薬の需要も大幅に上昇し、乾燥地帯に自生している甘草(カンゾウ:漢方薬の約70%に処方されています。主成分はグリチルリチン酸で、肝障害治療薬、抗アレルギー薬、また、甘味料として醤油、味噌、漬物、各種飲料等にも多く用いられています)や麻黄(マオウ:主成分はエフェドリンで、かぜ薬等に配合されています)の採集によって砂漠化が進行するため、中国政府はこれらの乱獲と自生地の乱掘を禁止し、さらに1999年以降、甘草、麻黄の輸出を厳しく制限するようになりました。
 多くの漢方処方に使用されているこれらの重要な生薬が入手できなくなると、医療への影響が懸念されます。そのため薬用植物の供給確保のため、優良な品種の栽培が必須になるものと思われます。

食品医薬品部薬事指導課 山崎 勝弘