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食品への農薬混入事件について

 昨年末の中国製冷凍餃子中に混入した有機リン系農薬による中毒事件 (以下、中国製冷凍餃子による中毒事件)発生以降、緑茶飲料中への除草剤混入事件 等が続発し、食品中への農薬混入事件に関する報道を耳にする機会が増えました。本稿では、「中国製冷凍餃子による中毒事件」の発生から現在までの大阪府立公衆衛生 研究所の対応等について説明したいと思います。

1.「中国製冷凍餃子による中毒事件」のあらまし

 昨年12月および今年1月に千葉県と兵庫県において、中国製輸入冷凍餃子を食べた家族が有機リン系農薬*1)(警察の鑑定によりメタミドホスと判明)による中毒症状を呈し、一時重体におちいる極めて重大な健康危機事例が発生しました。さらに回収された別の当該冷凍餃子から、同じく有機リン系農薬のジクロルボス、パラチオンおよびパラチオンメチルが検出され、加工食品の安全性に対する不安が国内に広がりました。その後の千葉県警の調査によって、千葉県の被害者方から回収された餃子の皮にはおよそ40〜30,000 ppm*2)、具にはおよそ30〜16,000 ppmという極めて高濃度のメタミドホスが付着していたことが分かりました。
 有機リン系農薬は、その優れた殺虫効果により農薬として多用されています。適正な使用では、人体に有害な量の農薬が食品中に残留することはありません。しかし、ヒトに対する毒性の懸念があることから、メタミドホスは国内や中国で使用が禁止されています。今回の事件は、原料の野菜に残留しうる量を著しく超えるメタミドホスが冷凍餃子に付着していたために発生したと考えられます。

2.大阪府の対応

 大阪府では、事件の発生後直ちにホームページ等で府民の方々に注意喚起を行うと共に、相談窓口を保健所に設置しました。窓口には回収対象の製品を食べて健康不安を訴える方々から多数の相談が寄せられ、嘔吐や下痢などの症状を伴う方もおられました。
 当研究所においては、保健所に持ち込まれた製品について、食品および包装材中のメタミドホスおよびジクロルボスの緊急検査を実施しました。その結果、全ての検査対象品についていずれも検出されず、当該農薬による健康被害は確認されませんでした。

3.加工食品を対象とした農薬分析法の開発

図2
 図1 加工食品中の農薬分析法の概要

 農産物中に残留する農薬については、食品衛生法に残留基準(基準値)が明記されており、基準値を超える農薬が残留した農産物が流通しないよう、検疫所および各都道府県の衛生研究所などにおいて検査が実施されています。
 しかし、一部の食品を除いて、餃子などの加工食品自体には基準値が設定されておらず、また、複数の食材から加工されるため、農薬が検出されてもどの食材に残留していたかは簡単に分かりません。このため、加工食品中の残留農薬はほとんど検査されていないのが実状でした。さらに、加工食品は脂肪など農薬の分析を妨害する成分を多く含むため、従来の残留農薬の分析法では対応が困難な例が多いと予測されます。
 当研究所では、新たに脂肪を多く含む加工食品に適した残留農薬の分析法を開発しました。この分析法では、脂肪除去操作(アセトニトリル/ヘキサン分配法:アセトニトリルとヘキサンを加えると、農薬はアセトニトリル層に、脂肪はヘキサン層に抽出され、アセトニトリル層を回収することで農薬だけを分取することができます。)を組み込んでおり、多種類の農薬について短時間に精度よく分析することが可能です(図1)。
 現在、主な加工食品への適応可否について検討し、大阪府が検査を実施するうえで十分な精度を有するか確認作業をしています。さらに、市場流通品を対象に実験的運用を開始し、モニタリングデータを取ることにより分析方法に不備がないか検証しています。 本分析法は、加工食品中の残留農薬の検査および食品への農薬混入事件の緊急対応に役立つものと期待されます。

4.まとめ

 今回の中毒事件のように、緊急性の高い健康危機事例に的確に対応するためには、分析法や分析機器の整備のみならず人的訓練の実施も不可欠です。
 近畿の地方衛生研究所では、化学物質または病原性微生物によって発生した健康危機事例を想定し、危機管理訓練を実施しています。今回の事件ではその訓練の経験がとても役立ちました。
 さらに事件で得た教訓や反省点を活かし、今後発生するかもしれない健康危機事例に迅速かつ的確に対応できるよう、引続き取り組んでいきたいと考えています。

食品医薬品部食品化学課 高取 聡
図1図2 メタミドホス等の構造式

*1) メタミドホス等の有機リン系農薬(図2参照)は、神経伝達に不可欠なコリンエステラーゼを阻害し、殺虫作用を発揮します。この酵素が薬物等によって強く阻害されると、ヒトは、嘔吐、下痢、脱力、意識消失、発汗、流涎、流涙、縮瞳、痙攣および呼吸不全等の中毒症状を呈します。ちなみにサリンは、有機リン系農薬と類似する化学構造をもち、この酵素を極めて強く阻害するため、テロ等に使用された不幸な例があります。

*2) ppm は百万分率を表す単位。
1 ppmは、食品1gあたり、1/1,000,000 gの薬物が存在することを意味します。