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サルモネラの薬剤耐性動向

 サルモネラは食中毒の原因菌として古くから知られている重要な細菌です。近年、サルモネラをはじめ食中毒の原因となる病原菌のなかに、ヒトの治療に用いる薬剤に耐性を示す菌が出現しています。耐性化が認められる原因の一つとして、家畜の治療もしくは発育促進を目的とした抗菌薬投与が指摘されており、公衆衛生上の大きな問題として取り上げられています。

1.サルモネラ症の現状

表2
図1 年次別食中毒事件件数 (厚労省食中毒統計資料より作成)

 サルモネラ症はサルモネラによる感染症で、多くの場合サルモネラに汚染された食品を食べることにより腹痛、下痢、発熱、嘔吐などの胃腸炎症状の食中毒を引き起こします。
 わが国のサルモネラ食中毒事件数は1989年以降増加していましたが、1999年の825件をピークにその後は減少しています。2007年は126件の発生でカンピロバクター、ノロウイルスに次いで第3位でしたが、患者数は第2位の3,603人でした(図1)。死亡例は1996年から2006年の11年間に14人が報告されています。
 サルモネラ症の原因となったサルモネラの血清型(注)S. Enteritidisによるものが圧倒的に多く、ほぼ過半数を占めています。次いでS. Typhimurium、S. Infantisなどです。

2.薬剤耐性菌問題

 サルモネラ症の治療では対症療法が優先されますが、場合によってはフルオロキノロン系、ホスホマイシン、アンピシリン等の薬剤が投与されます。
 サルモネラでは複数の抗菌剤に耐性の「多剤耐性化」が問題となっており、その代表的なものとして、アンピシリン、クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、サルファ剤、テトラサイクリンの5剤に耐性を示すS. Typhimuriumファージ型definitive type 104(DT104)があります。この菌は1984年に英国ではじめて分離され、その後急速に増加し1990年代初頭には世界各地で広がりが確認されています。わが国では1986年頃から散発下痢症事例や、小規模な集団事例、家畜などで確認されていましたが、2004年には大阪で患者数358人の大規模集団事例が発生しました。
 近年、治療上の重要な問題として危惧されているものに、細菌感染症の切り札的抗菌剤であるフルオロキノロンに耐性のサルモネラの出現があります。国内のヒトからは2000年に大阪府内の医療機関で初めて見つかり、その後毎年確認されるようになっています。
   また、薬剤感受性試験でフルオロキノロンに耐性と判定されないものの、フルオロキノロン開発の基になったキノロン系抗菌剤のナリジクス酸に耐性を獲得したサルモネラも増加しています。このような菌はフルオロキノロンでの治療が困難な事や、治療後再発する症例があったことから問題となっています。
 さらに、フルオロキノロンと同様にヒトの医療で重要なセフェム系薬剤に耐性のサルモネラの増加が海外で報告されています。わが国でもヒトの散発下痢症事例のほか家畜、食肉、ペットなどからの分離例があります。それらの菌は基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)やプラスミド性AmpC型β-ラクタマーゼ(AmpC)といった酵素を産生し、アンピシリンのようなペニシリン系薬剤のほか、多くのセフェム系薬剤に耐性を示します。ESBLおよびAmpC産生遺伝子はプラスミド上にあることから、菌種を超えて他のグラム陰性菌等に伝達されることによる、耐性菌の拡がりが懸念されています。

3.国内外の対策

 世界保健機関(WHO)、国際獣疫事務局(OIE)、国際連合食糧農業機関(FAO)などの国際機関が共同で食中毒由来細菌の薬剤耐性問題を討議しています。また各国でもモニタリングによる薬剤耐性菌の動向調査が行われ、対策が検討されています。
 わが国では、家畜衛生分野の薬剤耐性モニタリング(JVARM)が1999年から全国規模で稼働し、農場レベルでの耐性菌の動向把握・解析が行われています。さらに、2003年から厚生労働省、農林水産省関係の機関が共同で行う厚生労働科学研究「食の安心安全確保推進研究」において家畜、食肉を中心とする食品およびヒトの食中毒菌の薬剤耐性の動向調査が行われています。

4.当所の調査成績

 2006〜2007年に調査したヒトおよび食肉の薬剤感受性試験の成績について説明します。
薬剤感受性試験を行った薬剤はアンピシリン、クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、テトラサイクリン、カナマイシン、ゲンタマイシン、ST合剤、ホスホマイシン、ナリジクス酸、オフロキサシン、シプロフロキサシン、セフォタキシムの12剤です。
 ヒト由来株は国内発生の225株を調べました。最も多い血清型はS. Enteritidisで125株でした。225株中27株(12.0%)がいずれかの薬剤に耐性であり、そのなかでフルオロキノロン系薬剤のオフロキサシンに耐性のS. Enteritidisが1株認められました。
 食肉は国産のものを714検体検査して195検体(27.3%)からサルモネラを211株分離し、最も多い血清型はS. Infantisで156株でした。薬剤感受性試験結果は205株 (97.2%) が耐性菌でした。フルオロキノロン耐性は認められませんでしたが、鶏肉からESBL産生が5株とAmpC産生が7株検出されました。その関連遺伝子の分類を表1に示しました。

表1 鶏肉から検出されたセファム系薬剤耐性サルモネラの
血清型と薬剤耐性関連因子 表1

5.今後の取り組み

 薬剤耐性菌の伝播の問題は、ヒトや家畜に使用される抗菌薬の問題以外にも、さまざまな要因が複雑に関与しています。当所ではヒトおよび食品の薬剤耐性菌のモニタリングを継続し、分離株を詳しく解析して、薬剤耐性菌の広がりを阻止する取り組みにつなげていく予定です。

(注)
 血清型とは血清に対する凝集反応による分類法です。 サルモネラの疫学的な解析は血清型別に行われており、現在までに2,500種あまりが報告されています。
 代表的な食中毒起因菌であるサルモネラ・エンテリ ティディス(S. Enteritidis)やサルモネラ・チフィムリウム(S. Typhimurium)も血清型の名前です。

感染症部細菌課 田口 真澄