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大阪府内の麻しんの流行状況

麻しんとは、麻しんウイルスによって引き起こされる急性疾患で、ウイルス感染後10〜12日の潜伏期間を経て発症します。38℃前後の高熱とカタル症状(上気道炎、結膜炎症状)、全身にひろがる発疹を主徴とします。感染後に免疫抑制状態が続くために二次感染も多く、肺炎や脳炎などの重篤な合併症を引き起こす場合もあることから小児では特に注意する必要があります。

1.感染経路

 麻しんウイルスは感染性が非常に強く、感受性のある人(抗体を持たない人)が曝露をうけると、90%以上の人が感染します。麻しんウイルスは空気感染(飛沫核感染)、飛沫感染および接触感染など様々な経路で感染し、マスクでは感染を防ぐことはできません。

2.治療と予防

 麻しんに特異的な治療法はありません。対症療法が中心となるため、ワクチン接種による予防が最も重要になります。麻しんワクチンは1978年に定期接種が開始され、生後12ヵ月〜90ヵ月の児を対象とした1回の接種が行われてきましたが、2006年からは1歳児(第1期)と小学校就学前の1年間にあたる児(第2期)を対象に、麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)を用いた2回の定期接種がおこなわれています。2008年からはさらに5年間の期限付きで中学1年生相当年齢(第3期)、高校3年生相当年齢(第4期)にも接種対象が拡大されており、麻しんの感染予防のために幅広い年齢層への確実な免疫の賦与が試みられています。

3.2007-2008年の大阪府内の流行状況

図2 
 図1 2008年大阪府麻疹報告数(41週現在)

 2007年は麻しんが全国的に流行し、大阪府内でも5月〜6月をピークとして年末まで発生が続き、患者数は府内全体で少なくとも900名程度はいたものと考えられています。特に15歳以上の成人麻しん患者が多くみられ、高等学校や大学の休校が相次ぎました。
 2008年は前年の流行に引き続き、2月から患者数の増加が見られましたが、7月末からは患者数は大幅に減少し、現在は府内でほとんど患者発生がみられません。2008年の1月〜10月(第1〜41週)までの大阪府内の麻しん患者数は382名で、15歳以上の患者数が高い割合を占めていました(図1)。2008年の流行規模は2007年よりも小さいものの、患者の年齢分布は昨年と同様の傾向を示していたと考えられます。また、典型的な臨床症状を示さない修飾麻しんの患者数も増加しており、それらの症例では臨床診断が非常に難しくなっています。臨床診断が困難な麻しん疑い症例は、培養細胞を用いたウイルスの分離とRT- nested PCR法によるウイルス核酸の検出を行うことで、感染の有無が調べられています。

4.麻しんウイルスの遺伝子解析

図2
 図2 大阪府内で検出された麻疹ウイルスの系統樹解析(NJ法)

 臨床検体から検出された麻しんウイルスのN遺伝子の解析により、全国で流行しているウイルスと大阪府内で流行しているウイルスの遺伝子型や塩基配列の比較などを行うことができます。
 2007年1月から2008年10月までの間に大阪府内で発生した麻しん疑い症例のうち、検査依頼があった71事例について患者の咽頭拭い液およびEDTA全血(PBMC分画)を材料とし、それぞれから抽出したRNAのRT-nested PCRとB95a細胞を用いたウイルス分離を試みました。PCRは麻しんウイルスのHおよびN遺伝子を標的に行い、得られたN遺伝子の3'末端配列に基づく系統樹解析を行って、遺伝子型を決定しました。
 検査した71例のうち29例(40.8%)でPCR陽性、そのうち14例(48.2%)でウイルス分離陽性でした。N遺伝子の3'末端領域に基づく系統樹解析の結果、PCR陽性であった29例のうち25例はD5型(86.2%)、3例はH1型(10.3%)、1例はD4型(3.4%)でした(図2)。
 2007年に検出された21例ではその遺伝子型は全てD5型でしたが、2008年1月から5月の間に検出された8例の遺伝子型は、D5型が4例、H1型が3例、D4型が1例でした。2007年から2008年にかけて全国的にD5型の流行が報告されており、大阪府内での流行も同様の傾向だったことが考えられます。2008年に検出されたD5型ウイルスの配列は2007年に流行したものとほぼ一致しており、同じ型のウイルスが今年も流行していると考えられます。
 H1型は2002〜2003年に全国で散発的な流行がみられましたが、それ以降は国内で数例の報告しかありませんでした。現在は中国や韓国での流行が知られており、2006年〜2007年には日本への輸入症例も報告されています。今回検出されたH1型ウイルスのN遺伝子は3例とも同一の配列で、BLAST検索の結果では2007年に香港で検出されたH1型ウイルスの配列[EU368828](MVs/Hong Kong. CHN/36.07/1[H1])と完全に一致していました。しかし、いずれの患者にも渡航歴がなかったことから、ごく最近国外から大阪府内に持ち込まれたH1型麻しんウイルスに国内で感染した可能性が高いと考えられます。
  D4型は、東地中海沿岸諸国(エジプトやイラク、シリアなど)やインド、ネパールなどで流行がみられていますが、日本国内では報告されていません。今回D4型ウイルスが検出された患者には、発症直前にイスラエルへの渡航歴があり、その遺伝子配列は2008年にアメリカで検出されたイスラエルからの輸入症例の配列[EU715977] (Measles virus strain MVi/New York.USA/7.08)と完全に一致していました。これらのことから、本症例はD4型麻しんウイルスの輸入症例であることが示唆されました。

5.今後の取り組み

 2012年の日本国内からの麻しん排除の目標にむかって、ワクチンの2回接種や全数把握などの国と自治体による取り組みが始まっていますが、国内では依然として患者の発生が続いています。これまでに大阪府が行ってきた疫学調査と遺伝子型の解析を継続し、府内の流行状況の把握に努めることで、麻しんの予防と啓発につなげていく予定です。

感染症部ウイルス課 倉田 貴子

麻しんウイルスの遺伝子検出には、ウイルス表面の糖蛋白質であるヘマグルチニン(H)遺伝子と核蛋白質であるヌクレオプロテイン(N)遺伝子が用いられます。これらのうち、N遺伝子の配列によって型別が行われており、現在A〜Hまでの23の遺伝子型に分類されています。