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中国産の牛乳を用いた加工食品のメラミン混入について

中国で発生したメラミン混入粉ミルクによる乳幼児の健康被害事件をきっかけに、日本国内でも中国産の牛乳を原料に使用した様々な加工食品でメラミンの混入が明らかとなり、食の安全に対する混乱を招きました。この問題に対する当所の対応をまとめたいと思います。

1.問題の概要

2008年9月に中国で特定の粉ミルクを飲んだ乳幼児が腎臓結石等の腎疾患を発症している事が明らかになりました。調査の結果、大規模な健康被害の原因は、本来食品に添加されることの無いメラミンが粉ミルクの原料である牛乳に添加されたことによるものでした。メラミンとその副生成物であるシアヌル酸は体内で一定の条件で化学結合し、結晶を作ります。この結晶が腎機能を阻害し、腎疾患を引き起こしたと考えられました。

図1 
 図1 メラミンとその副生成物

メラミンは食器や化粧板などに使われるメラミン樹脂の原料であり、工業生産されている物質です。工業製品に用いられるメラミンが食品である牛乳に混ぜられた意図は、牛乳のタンパク質含量の偽装だと考えられています。図1に示したように、メラミンは分子中に多くの窒素を含みます。一般に食品のタンパク質含量は食品中の窒素量に食品ごとの換算係数を乗じて計算しています。例えば、牛乳を水で薄めた場合、薄めたために減少したタンパク質含量をメラミンの添加で見かけ上補うことが出来ます。

このメラミン汚染牛乳が粉ミルクだけではなく、様々な加工食品にも使われ流通していた疑いが強まり各国で混乱を招きました。日本国内でも大阪府内の企業が輸入、販売していた加工食品でメラミン汚染牛乳を製造していた業者の牛乳を原料として使用していたことがわかりました。そこで当所で、依頼を受けた食品及び任意で提出された食品についてメラミン混入の有無を検査することになりました。

2.メラミン分析法の開発

食品中のメラミン分析法については、2007年に北米で発生したペットフードへのメラミン混入事件の際にアメリカ食品医薬品局(FDA)が提示した方法がありましたが、この手法は検査対象が食肉や粉ミルクなどの比較的構成の単純な食品を対象としたものでメラミンが直接添加された食品でした。

一方、今回の検査対象食品は、メラミンに汚染された牛乳を原料に用いた加工食品であったため、FDAの検査法よりも低い濃度を検出できる必要がありました。複数の原料を混合、調理した高度な加工食品であったため夾雑物が多く、FDAの分析法では十分な検出感度が得られませんでした。

図2 
 図2 メラミンの分析フロー

そこで、当所では加工食品の分析にも耐えうる高感度なメラミン分析法の検討を行いました。使用する分析機器には、前処理の煩雑さを考慮して液体クロマトグラフィータンデム質量分析計(LC-MS/MS)を選択しました。先述の通り、メラミンは副生成物であるシアヌル酸と化学結合することで毒性を発揮しますが、LC-MS/MSによるシアヌル酸の検出感度がメラミンと比較して著しく悪いことが知られていました。今回のケースでは迅速な検査が求められていましたので、分析対象をメラミンのみとしました。

加工食品の粗抽出物は脂質やタンパク質などの夾雑物質を多く含んでいます。そこでこれらの成分を除去するために順相のアミン系固相抽出カラム(PSA)を第1段階目の精製に用い、更に塩基性物質であるメラミンを効率よく精製するために強陽イオン交換固相抽出カラム(SCX)を第2段階目の精製に用いることで定量下限値が0.5 mg/kgという高感度な分析法を確立できました(図2)。

この分析法を用いて6つの食品のメラミン濃度を測定したところ、牛乳含有量の高い4製品から0.8〜37 mg/kgのメラミンを検出しました。この濃度は健康を害するレベルではありませんでしたが、中国で起こった粉ミルクの偽装問題が日本国内にも波及していることを初めて示した例となりました。その後、当所で開発したメラミン分析法が厚生労働省のメラミン検査命令における通知試験法として採用され、現在も輸入段階での検査が続いています。

3.まとめ

当所では、通常の検査で農薬や動物用医薬品、食品添加物など食品への使用が想定されている物質を取り扱っています。一方、メラミンは工業原料であり食品への混入が想定されていない物質でした。更に、分析対象が加工食品であったことで、迅速な分析を行うにあたり、いくつものハードルを越える必要がありました。2008年は中国産餃子のメタミドホス混入に始まり、様々な場面で加工食品の安全性が取りざたされた一年でもありました。

今後も起こりうるこのような事案に対し、危機管理体制の整備に引き続き取り組んでいきたいと考えています。

食品医薬品部食品化学課 永吉 晴奈

LC-MS/MSとは

LC-MS/MSは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)とタンデム質量分析計(MS/MS)を連結した分析機器です。

試料はHPLC部で分離されたのち、イオン化を経てMS/MS部に導入され、第1MSで質量電荷比によって分離されます(プリカーサイオン)。プリカーサイオンは第1MSと第2MSの間に設置された衝突室内で不活性ガスの衝突によって解離し、プロダクトイオンとなり第2MSで検出されます。

MS/MSは1つの物質を2種類のイオンで検出するため、選択性が高く高感度の定量を行うことができます。