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土や水の中に棲む肺炎原因菌

−レジオネラ属菌− 

1996年1月、慶応大学病院で新生児13人が発熱などの症状を呈し、うち女児一人が肺炎で死亡した事件が報道されました。調査の結果、給湯設備に混入した レジオネラ属菌が適度な水温で増殖し、この給湯水を使用していた加湿器あるいは浴槽水からの、エアロゾール(水の微粒子)を吸い込むことにより感染した可能性が示唆されました。

1.集団発生、発見

 レジオネラ属菌が病原体として登場したのは1976年7月のことです。米国のフィラデルフィア市のホテルで開かれた在郷軍人大会の参加者4,403人中182人が肺炎に罹り、29人が死亡しました。その後の疫学調査で、ホテル前を通行していた39人も肺炎に罹り、うち5人が死亡していたことが判りました。ホテル内の患者と通行人の肺炎発生状況が全く同じパターンを示していることから、両者は同一の感染源に起因する病原菌曝露によるものと推定されました。懸命な調査の結果、その年の暮れCDC(米国防疫センター)のMcDade博士は、死亡患者の肺切片から桿状の細菌を発見、分離に成功しました。そして、分離菌と肺炎患者血清の反応性を蛍光抗体法で調べ、分離菌が肺炎の原因菌であると決定しました。後に、その菌はLegionella pneumophilaと名付けられました。

細菌名Legionellaの由来

Legionellaは米国在郷軍人会the Legionに由来し、pneumophilaのpneumoはギリシャ語の肺、philaは親和性を意味するギリシャ語の形容詞philosによるものです。現在、Legionella属は40菌種が発見、分離されています。

2.分布、共生

 1978年3月から翌年8月にかけて、インディアナ大学記念館の宿泊者のうち39名に肺炎が発症し、4名が死亡した事件により、レジオネラ属菌の生態が明らかになりました。発生原因究明のための精緻な疫学調査の結果、土壌中や冷却塔水、河川水などからL.pneumophilaが検出され、本菌は自然界に広く分布する“土壌性の細菌”であるということがわかりました。最近の研究では、レジオネラ属菌は寄生性で単独では増殖できず、自然環境中ではアメーバ類や細菌補食性原生動物に寄生し、食胞内で増殖することが判ってきました。これらは共生関係にあり、アメーバが検出されるところからはレジオネラ属菌が高い率で検出されます。我が国では、厚生省の研究班が1979年〜1992年までのレジオネラ属菌肺炎調査で89例の発生を確認しています。
 最近、いつでも入浴できることを謳い文句とした24時間風呂の調査で、レジオネラ属菌が検出されました。この風呂は常時42℃に保温した浴槽水を循環濾過し浄化するのが特徴ですが、レジオネラ属菌はこの濾材に付着した生物膜に繁殖していました。

3.感染症

 Legionella属によって引き起こされる感染症をレジオネラ症と呼び、それには肺炎型(レジオネラ肺炎)と発熱を主徴とする非肺炎型(ポンティアック熱)があります。
 肺炎型は、一般的に言われるレジオネラ症で、初期に発熱、倦怠感、筋肉痛、下痢などの全身症状がみられます。潜伏期は2〜8日位で、その後、数日内に39~41℃の高熱、乾いた咳、少量の痰、胸痛、呼吸困難といった呼吸器疾患特有の症状が現れます。人によっては、脈が遅くなる徐脈症状がみられ、更に、不審な言動をしたり、正常な歩行ができないといった精神、神経症状が現れることがあります。一方、ポンティアック熱は咳は殆どなく、発熱、悪寒、倦怠感、頭痛など風邪と似た症状が現れますが、3〜5日以内に自然回復します。レジオネラ肺炎は、糖尿病のような慢性基礎疾患を有する人、高齢者、乳幼児あるいは免疫機能が低下している人に発症率が高いことが判っています。

4.感染予防

 レジオネラ属菌は土壌性の細菌ですので、普段の生活において特別な感染予防法といったものはありません。強いていえば、水の滞留を避け、適切な殺菌処理をして菌の増殖を抑制すること、レジオネラ属菌を含んだエアロゾルを吸い込まないようにすることが大切です。24時間風呂や付設のジェットバスを利用する場合は、浴槽水の交換や、濾材の交換と洗浄をこまめに行う必要があります。
 水温の上昇する夏季は、この細菌が増殖する時期ですので、充分な休養、睡眠、食事をとって免疫力が低下しないよう心がけましょう。
 当研究所でも、レジオネラ属菌の試験、研究と予防対策に積極的に取り組んでいます。

環境衛生課 山吉 孝雄


魚介類の自然毒による食中毒


中毒は、細菌その他の微生物による食中毒、化学物質による食中毒、自然毒による食中毒、この3つに大きく分類されます。
 厚生省全国食中毒事件録(1986〜1995年)によると、この10年間に病因物質が判明した食中毒事件の発生総数は6,522件(患者数:278,966名、死者:63名)で、このうち細菌によるものが、発生件数の87.2%、患者数の98.7%を占めています。 一方、自然毒による食中毒事件の発生は802件(患者数:2,763名、死者:56名)で、発生件数や患者数は全体の1割程度ですが、全死者数の88.9%を占めており、致死性の高い食中毒として、食品衛生上、重要な課題となっています。
 本稿では、このような食中毒の原因となる魚介類の自然毒(マリントキシン)について概説します。

1.マリントキシンの特徴

 マリントキシンに関する主な特徴を、よく知られたフグ毒や貝毒を例に挙げてみました。

(1)魚種、棲息地域により毒性が異なる

 日本近海には約30種のフグが棲息してますが、フグの種類や棲息場所によって毒力に差があります。例えば、岩手県越喜来湾、釜石湾及び宮城県雄勝湾のコモンフグ、ヒガンフグは、他の地域のものと異なり筋肉の毒力が強く、食用が禁止されています。

(2)筋肉、肝臓、卵巣等器官ごとに毒力が異なる

 フグは同一種でも、器官ごとに毒力に差があります。肝臓、卵巣等内蔵は毒性が強く、すべての種にわたって食用が禁じられています。食用できるのは、筋肉については22種、皮は11種、精巣は18種のフグに限定されています。

(3)毒は耐熱性であるものが多い

 フグ毒、下痢性貝毒、麻痺性貝毒、最近新聞紙上を賑わせたアオブダイの毒等は耐熱性で、通常の加熱調理では毒は失活しません。また、フグ毒は非水溶性であるにもかかわらず、「大量の水で洗うと毒が消える」とか、「秘伝の調理法が有る」とかいう料理人がいますが、とんでもない誤りです。

(4)食物連鎖により毒化するものが多い

 魚介類の毒化原因は、有毒鞭毛藻類のプランクトンであることが多く、シガテラや下痢性貝毒、麻痺性貝毒はこれにあたります。巻貝のバイの毒は細菌(Coryneform)が毒化の原因となっています。フグ毒についても、細菌が毒の第一次生産者とする報告も数多くなされています。

2.マリントキシンによる食中毒事件の解明

 中毒の原因解明には、患者の臨床症状、喫食調査(魚介類の種およびその部位)、流通経路調査(産地)並びに摂食残品からのマリントキシンの検出が重要になります。摂食残品が得られない場合は、流通経路調査により、同一ロットの入手に努め、毒を検出する必要があります。摂食残品や調理残品が得られない場合もありますが、フグ中毒では、患者の吐物、尿からの毒の検出が有効となります。ちなみに、尿からフグ毒を検出したのは当研究所がはじめてです。

3.診断、治療

 マリントキシンの種類によって臨床症状は異なりますが、胃腸障害、神経症状、皮膚症状等が主で、シガテラのように、複数の毒が存在する場合は症状も複雑です。下痢、嘔吐を臨床所見とするものについては鑑別診断が困難なため、喫食調査や調理・摂食残品等からの毒の検出が重要となります。
 治療法としては胃の洗浄が効果的ですが、フグ中毒の場合には、胃の洗浄に加えて、利尿薬の投与や人工呼吸が有効とされています。その他のものについても、症状に合わせた治療法が行われています。
 マリントキシンは魚介類の特定の器官に存在しますので、当該部位をターゲットとして、検査を実施することが重要です。マリントキシンの検査法は、表に示したように、毒抽出液をマウス腹腔内に接種し、定量する方法(マウス試験法)、抽出試料の精製後、蛍光検出器や紫外分光光度計を装着した高速液体クロマトグラフ装置を用いて定量する方法(HPLC法)、HPLCと質量分析計との組合せによる定量法(LC-MS法)があります。しかし、このような検査法では、煩雑な操作と熟練を要し、結果が出るまでかなりの時間と費用がかかります。このため、当研究所では上記の検査業務の他に、科学技術振興事業団のプロジェクト等に参画し、高感度で迅速簡便な検査法の開発に精力的に取り組んできました。実用化されたものとして、下痢性貝毒の成分であるオカダ酸群化合物のELISA法(米国特許取得)、テトロドトキシンのELISA法などがあります。また、ユネスコの研修、水産庁事業への参画等、新検査法の普及も積極的に行っています。

4.予防対策

 フグ中毒は、素人調理による有毒部位の摂食や、魚介類販売店・飲食店が客の求めに応じて肝臓等を提供することが原因になることが多く、一層の指導とPRが必要です。貝類については、生産地において毒化モニタリング等の実施により、毒化したものが出荷されることのないよう十分な対策が必要です。また、輸入魚介類の種類と量が共に増加する傾向にあり、当該食品の監視強化が望まれます。
 当研究所は大阪府食品衛生課、中央卸売市場食品衛生検査所、府下各保健所と協力して、有毒魚介類の流通防止、市販食品の安全性の確保に努めています。

食品細菌課 濱野 米一


お知らせ

週、公衛研のホームページに大阪府・大阪市感染症発生動向調査週報が掲載されることになりました。ぜひ1度アクセスしてみて下さい。

http://www.iph.pref.osaka.jp/infection/


発行日:平成10年6月25日

編 集:大石、中村、山吉、桑原、東、味村

事務局:薬師寺 、渋谷(内線297)