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新型インフルエンザの現状と課題(緊急情報:H21.5.18作成)

本年4月15日、アメリカCDC(米国疾病予防管理センター)はカリフォルニア州在住の風邪様症状を呈する10歳の気管支喘息を患う男児患者から、豚インフルエンザウイルスを検出しました。続いて17日には9歳女児の2例目を同定しWHO (世界保健機関)に報告しました。4月24日WHOは、メキシコ市とその周辺でインフルエンザ様患者が約800名と異常に増加し、3月末以降57名が死亡したと発表しました。

その後、アメリカ国内、カナダへ感染は広がり、27日、複数の国でヒト-ヒト感染と集団発生を認め、WHOはパンデミックフェーズ4への移行を宣言しました。ま もなくスペイン、イギリスへ拡大し、29日WHOはさらにフェーズ5への移行を宣言しました。その後も感染はヨーロッパ、アジア、中米へ拡大し、5月18日現在、39カ国で感染者8,480人(アメリカで3,000人超え)死者72人が報告されています。

日本では5月8日カナダから帰国した大阪府の高校生と教員の4名が水際で感染が確認され治癒していますが、5月16日に国内初の神戸の高校生3名の感染例が確認され、続いて大阪府茨木市の高校生9名の集団感染が確認されました。17日現在、他高校、感染者の家族へ感染が広がり、また、同高校の感染とはリンクしないと考えられ る他市の小学生の感染が確認され、府内へ感染が蔓延しつつあると危惧されています。

1.新型インフルエンザと季節性インフルエンザの違いは何か?

アメリカにおける新型インフルエンザ患者642名についての研究論文が5月7日に発行されました。その報告によると患者の40%は年齢が10歳から18歳で、5%が51歳以上でした。臨床症状は頻度の高い順に、発熱(38℃以上)94%、咳92%、咽頭痛66%で、季節性インフルエンザには少ない下痢と嘔吐が25%となっています。重症化し入院した症例は9%(36/399)で季節性より高い頻度となっています。

入院例22例のうち4例(18%)は5歳以下の小児で、1例(4%)は妊婦でした。9例(41%)は慢性疾患を持ち、気管支喘息6例(27% 妊婦1例を含む)、自己免疫疾患、先天性疾患などです。7例(32%)は発症7日以内にメキシコへ旅行にでかけていました。11例(50%)に肺炎が認められ、8例(36%)はICUで治療を受け、4例(18%)は呼吸不全を認め人工呼吸器で治療されました。14例(74%)はオセルタミビル(タミフル)で治療されました。18例(82%)は快復し、2例は治療中で、2例(9%)は死亡しました。死亡例は1歳10か月の新生児重症筋無力症の幼児と33歳の妊婦です。季節性インフルエンザと同様に肺や心臓に疾患のある人はハイリスク群であるといえます。また、アメリカでは発症した妊婦20名のうち3名が入院し、1名が死亡しており、症例数は少ないですが、重症化率、致死率ともに高くなっています。

5月11日に発行されたサイエンスの論文によると、新型インフルエンザの1人の患者から他の人へ感染させる感染力は1.4〜1.6人と推定され、季節性インフルエンザよりやや強く、アジア風邪に近いとされています。また、致死率も0.4%と推定され、アジア風邪の0.5%と類似しています。

新型インフルエンザ

ヒトで流行を起こすインフルエンザウイルスは、抗原性の違いからA型とB型、および大きな流行を起こさないと考えられているC型の3種に分けられています。A 型はさらにウイルス表面の2種類の糖タンパク質であるヘマグルチニン(HA)とノイラミニ ダーゼ(NA)の抗原性の違いから144 種類の組み合わせ(これを亜型と言います)に分けられます。

過去ヒト社会で流行が見られたのは、B型と、Aソ連型(H1N1亜型)、A香港型(H3N2亜型)でした。今回の新型インフルエンザは、H1N1亜型ですがAソ連型とは異なります。また“高病原性鳥インフルエンザ(H5N1亜型)が変異して発生すると考えられている新型インフルエンザ”とも異なります。

2.新型インフルエンザウイルスはどこから来たのか?

ウイルスの遺伝子配列が決定され、その由来がある程度判明しました。インフルエンザウイルスの遺伝子RNAは8本の分節に分かれており、新型ウイルスの亜型を決定するヘマグルチニン(HA)遺伝子と他の2本の遺伝子は北アメリカの豚インフルエンザウイルスに由来するH1N1型のウイルスでした。他の2本は北アメリカの鳥のウイルスに由来し、別の2本はユーラシア大陸の豚ウイルスで、残りの1本はヒトのウイルスに由来することが判明しました。少なくとも4種類のウイルスのハイブリッドウイルスであると考えられます。

このウイルスがどこで、どのように発生してきたのかはさらに調査が必要ですが、今までに報告されていないウイルスであり、ほとんどの人は免疫を持っていないと考えられ、感染は拡大する可能性があります。

3.治療と今後の対策は?

新型ウイルスに対してタミフルやリレンザが有効なので、48時間以内に診断し治療を開始すれば、健常人の場合はほとんど治癒すると考えられます。今後は耐性ウイルスの出現に対する監視、ワクチン対策が重要です。ワクチンの供給に関して、ワクチンを作製するふ化鶏卵の量に限界があるため、季節性インフルエンザワクチンとの割合をどうするかが焦点となっています。私見ですが、現行のH1N1ソ連型ウイルスの替わりに、新しいワクチンの作製を考慮することも必要になってくるのではと考えています。

5月18日朝現在、大阪府内(大阪市、堺市は検討中)の中高校、大学は7日間の休校となり、感染者が認められた地域は幼稚園、小学校が休校となりました。濃厚な感染機会があるような集会などは自粛しながら感染拡大を抑える必要があります。一方、発熱外来の開設を同時に進め、発症者に対応することが焦眉の急となっています。

基本的な感染防止対策(マスク、手洗い、うがい、環境の消毒等)を各個人が十分励行し、一定期間内の患者発生数をできるだけ押さえ、社会機能が持続できるような状況で新型インフルエンザに対処していくことが重要であると考えます。

副所長兼感染症部長 高橋和郎

新型インフルエンザ検査の流れ

感染を疑われる場合は、発熱外来等で市販の簡易診断キットでまずA型インフルエンザかどうかを確認します。そこで陽性であれば、次に咽頭あるいは鼻腔拭い液を採取して、公衆衛生研究所で遺伝子検査を実施します。遺伝子検査は、検体からRNAを抽出し、A型インフルエンザ共通および新型インフルエンザ特異的プライマー・プローブセットを用いたリアルタイムPCR法を実施し、新型インフルエンザの特異的遺伝子の増幅の有無で感染を判定します。