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大気中に存在する亜硝酸の生体影響

大気中に存在する二酸化窒素(NO2)は、疫学調査や動物曝露実験などの研究により喘息影響を持つと考えられ、日本では1973年に大気汚染防止法で規制されました。
 1980年に二酸化窒素と化学構造が類似する亜硝酸(HNO2)が大気中に存在することが明らかになり(科学雑誌Natureでの発表)、同論文中では、大気中の亜硝酸の生体影響に対する懸念が示唆されています。二酸化窒素の測定では亜硝酸も二酸化窒素として検出している事から、喘息と大気中の亜硝酸の関係が注目されています。

1.亜硝酸(ガス状の亜硝酸に限定)の生体影響に関する報告

亜硝酸の生体影響に関する論文には、人体吸入実験と疫学調査の報告があります。人体吸入実験では、室内環境中の亜硝酸の10倍程度の濃度の亜硝酸(0.65ppm)を軽度の喘息患者に3時間吸入させ、呼吸器の軽度の刺激性症状を報告した論文と、健常人に0.395ppm亜硝酸を3.5時間吸入させ、気道の空気の流れやすさが約10%低下したことを報告した論文があります(共に1995年)。

疫学調査の論文では、2005年に室内の亜硝酸は肺機能の低下や呼吸器症状と関連することが示され、従来の研究で示されている二酸化窒素と喘息との関連は、実は亜硝酸によるものだったと考察されています。

しかし、亜硝酸の生体影響を明らかにするにはさらに多くの研究が必要だと思われます。

2.亜硝酸の動物曝露実験

私たち注1は亜硝酸が呼吸器に対してどのような生体影響を与えるか調べるため、亜硝酸の動物曝露実験を実施しました。動物曝露実験は人体吸入実験より大がかりな設備が必要ですが、人体吸入実験より高濃度で長期間の曝露が可能なため生体影響を明確に示すことができます。

亜硝酸は不安定で市販されていないため、私たちは、先ず、動物曝露実験に使用可能な大用量の亜硝酸ガス発生装置を開発しました注2。次に、環境中の亜硝酸濃度の1,000倍程度で、室内中亜硝酸濃度の100倍程度に相当する3.6ppmの亜硝酸(但し、0.3ppmの二酸化窒素などの副生成を含む)をモルモットに4週間連続曝露し、肺の組織的な変化や呼吸機能への影響などを調べました注3。曝露実験の結果の概略は以下の通りです。

1) 動物外観

モルモットの白い毛は曝露群で黄橙色に着色しました。この着色は同じ濃度の二酸化窒素の曝露による着色より濃く、亜硝酸の反応性の強さが窺えます。

2) 気管支・肺胞

曝露群で気管支腔や肺胞腔が拡張しました。これらの変化は、呼吸機能を低下させる可能性があります。

気管支肺胞写真

3) 肺胞道

対照群の肺胞道(気管支の末梢から肺胞につながる空間)は直線的ですが、曝露群の肺胞道は湾曲し、平滑筋細胞を伴って気管支上皮細胞が肺胞道へ伸展(増生)しています。平滑筋が発達するような状態は喘息と関連する可能性があります。

肺気道写真

4) 呼吸機能

動物実験において呼吸機能や喘息の指標となっている気道抵抗を測定した結果、対照群の1.33cmH2O/secに対し曝露群で1.61cmH2O/secと若干増加したものの、有意確率は0.06で有意な差ではありませんでした(有意確率0.05未満で有意な差)。今回は、曝露を終えてから約8時間後に測定したので、その間に気道抵抗が回復した可能性があります。亜硝酸の気道抵抗への影響は今後の検討課題であると思います。

3.私たちの今後の研究計画

環境中の濃度の亜硝酸ではどの程度の生体影響が起きるのかを、動物曝露実験や疫学調査で検討します。また、喫煙により自動車内に付着したニコチン残留物に空気中の亜硝酸が反応して発がん物質に変化するという論文が発表されました(2010年)。環境中の亜硝酸の直接的な影響だけでなく間接的な影響についても検討する予定です。

衛生化学部生活環境課 大山 正幸

注1

大阪府立公衆衛生研究所 大山正幸、大阪府環境農林水産総合研究所 岡憲司、大阪府立大学 竹中規訓、相模女子大学 安達修一

注2

大気環境学会誌(2010年発表)

注2

Inhalation Toxicology誌(2010年発表)