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1.チクングニア熱とは?

感染症法*1並びに検疫法が2011年2月に改正され、チクングニア熱が4類感染症*2として新しく記載されました。「チクングニアchikungunya」とは、アフリカのマコンデ語で「前かがみになって歩く」という意味で、関節痛が強くて体を曲げている患者の症状を表しています。チクングニア熱はデング熱やウエストナイル熱、日本脳炎と同じく蚊が媒介するウイルス性の感染症です。

1.チクングニア熱の病原体、症状

気管支肺胞写真

チクングニア熱の病原体は、トガウイルス科アルファウイルス属のチクングニアウイルスです。このウイルスは直径約70nmのエンベロープを有する球状の粒子です。チクングニア熱の潜伏期間は3〜7日、症状は発熱と関節炎が特徴的で、約8割に発疹がみられます。その他の症状として、頭痛、筋肉痛、リンパ節腫脹、悪心、嘔吐、出血傾向などがあります。関節痛は四肢(遠位)に強く対称性で、手首、足首、指趾、膝、肘、肩の順に多く、関節の炎症や腫脹を伴う場合や、長期に持続する場合があります。これらの症状は同じ4類感染症に分類されているデング熱と類似しているため、流行地域からの帰国後の熱性患者ではデング熱とチクングニア熱の鑑別診断のための検査が必要です。

2.発生状況

チクングニア熱に感染する危険がある地域の分布(WHOホームページより改変)

チクングニアウイルスは、1953年にタンザニアで初めて分離されました。従来、アフリカやアジアの一部で流行が認められていましたが、2005年コモロ諸島などで大規模な流行が発生し、2006年にかけてインド洋諸島国(モーリシャス、レユニオン、セイシェル、マヨット)、インド、スリランカに流行が拡大しました。特に、レユニオン島では26万4千人の疑い患者が発生し、このうち237人の死亡が報告され、インドでも約140万人の患者が報告されました。その後、タイ、マレーシア、インドネシアなど東南アジア各国で大きな流行がみられており、これらの流行地に渡航し帰国後発症するいわゆるチクングニア熱の輸入症例患者も増加しています。(患者情報は国立感染症研究所の収集したものによる)

3.感染経路

チクングニア熱はウイルスを保有する蚊に刺されることにより感染します。蚊は感染している動物やヒトを吸血したときにウイルスを保有します。主な媒介蚊はヤブカ属のネッタイシマカとヒトスジシマカです。2005年以降のチクングニア熱の流行は、ヒトスジシマカが主要な媒介蚊とされており、この蚊は日本でも沖縄から東北地方まで広く分布しています。そのため、もしヒトスジシマカの活動が活発な夏期にチクングニア熱患者が確認された場合には、デング熱やウエストナイル熱などと同様に蚊対策を考慮する必要があります。イタリアでは2007年7月に感染した帰国者の周囲でヒトスジシマカによる国内流行が発生し、204名が確定診断され、1名が死亡しました。また、2010年9月にはフランス南部のヒトスジシマカが分布する地域で、海外渡航歴のないチクングニア熱の患者が発生しました。感染した帰国者から現地の蚊がウイルスを保有し、2次感染が起きたと考えられています。この感染症は、現在のところ国内での感染や流行はありませんが、海外における発症者数の増加や、海外からの輸入症例の増加をみると、今後警戒が必要になると考えられます。

4.大阪府における輸入症例

患者は30代男性、2008年7月16日にインドに渡航し、7月26日に39℃の発熱、頭痛、関節痛で発症しました。渡航先の医療機関でチクングニア熱であると診断されましたが、血清診断は陰性でした。軽快後8月8日に帰国しましたが、関節痛が持続するため大阪府内の医療機関を受診し、当所においてウイルス学的検査を実施しました。その結果デングウイルス感染は否定され、チクングニアウイルスに対する特異的なIgM抗体、IgG抗体、中和抗体が陽性であったため、チクングニア熱と確定診断しました。この症例ではIgM抗体が発症後2〜3か月間検出可能であり、実験室診断として、急性期を過ぎた検体でもウイルス特異的IgM抗体の検出は有用であると思われます。(http://www.nih.go.jp/niid/JJID/63/65.pdf)

5.チクングニア熱の侵入に備えて

チクングニア熱は、実用化されたワクチンはなく、特別な抗ウイルス薬もありません。治療は熱や痛みを和らげる対症療法です。予防対策としては蚊に刺されないことが重要です。海外の流行地に行く場合は、長袖・長ズボンの着用、虫除け剤や蚊帳の使用など、蚊に刺されないようにご注意ください。海外からの帰国後に感染が疑われる場合は、適切な治療を受けるとともに、周囲の蚊にウイルスが広がらないように、少なくとも症状のある最初の数日は、蚊に刺されないようにしましょう。

大阪府では、蚊媒介性感染症のウエストナイルウイルスの侵入を監視する目的で、2003年度より蚊の捕集調査を行い、蚊のウイルス保有状況について検査しています。大阪府内で毎年捕集される蚊の約半数はヒトスジシマカで、チクングニア熱が侵入した場合、容易に感染拡大が起きることが想定されます。そのため、当研究所ではチクングニア熱についても蚊の検査を実施しています。

感染症部ウイルス課 青山 幾子

注1

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律

注2

患者を診断した場合、直ちに医師の届出が義務づけられている。全数把握疾患で、主に動物由来感染症が含まれる。