HOMEページ公衛研ニュース > 生食用ヒラメで食中毒

1.クドアとは?

クドアは、主に海産魚に寄生する粘液胞子虫の一種で、平成22年に輸入養殖ヒラメから新種として発見されました。粘液胞子虫の胞子は、胞子原形質細胞と内部にコイル状に巻かれた極糸を納める極嚢細胞、これらを包含する胞子殻細胞から形成され、クドアには通常、極嚢が6〜7個認められます(写真1)。1つの胞子の大きさは約10μmで、ヒラメ筋肉内では多数の胞子からなる偽シスト(pseudocyst)を形成して存在します(写真2)。この偽シストは肉眼的には観察できないので、一見しただけではクドアが寄生したヒラメと寄生していないヒラメを区別することはできません。一方、クドアが属する粘液胞子虫には、宿主魚の死後に筋肉融解(ジェリーミート)を起こしたり、肉眼的に識別可能な米粒状のシストを形成して宿主魚の商品価値を損なう種が存在します。もし、クドアがこのような特徴を持っていれば、クドアが寄生したヒラメは流通せず、食中毒は発生しなかったと考えられます。

写真1 クドア胞子の微分干渉顕微鏡像写真1 クドア胞子の微分干渉顕微鏡像
写真2 ヒラメ筋繊維中のクドアの偽シスト写真2 ヒラメ筋繊維中のクドアの偽シスト

2.クドアによる食中毒

クドアが寄生したヒラメを喫食すると、食後数時間程度で一過性の嘔気、嘔吐、腹痛や下痢を発症します(表1)。幸いにも、予後は良好で発症後24時間程度で回復します。厚生労働省の調査によると、平成23年6月から12月までの間にクドアによる食中毒は全国で33件発生し、患者数は473人にのぼりました(図1 2012年3月19日薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会 食中毒部会【2012年3月19日】試料3-1より引用)。中でも9月に最も多くの食中毒が発生し、理由は不明ですが、クドアによる食中毒の発生には季節性があるようです。

表1 大阪府内で発生したクドアによる食中毒の一例表1 大阪府内で発生したクドアによる食中毒の一例

図1 Kudoa septempunctata食中毒発生状況図1 Kudoa septempunctata 食中毒発生状

平成22年に愛媛県で発生した食中毒事件の疫学解析の結果、ヒトの最少発症クドア胞子数は7.2×107個、つまり7,200万個と推定されました。クドアが寄生したヒラメでは、多いものになると1gあたり7.2×107個もの胞子が検出されますので、この場合、ヒラメの刺身を一切れ程度食べるだけで食中毒になると考えられます。しかし、同じ養殖場で飼育されたヒラメであっても、7.2×107個以上のクドア胞子が寄生した個体がいたり、逆にクドア胞子が全く検出されない個体がいたりとクドアの寄生数にはかなりの個体差があるため、すべてのヒラメがヒトに危害を及ぼすというわけではありません。

3.クドアの病原性

食中毒の主症状から、クドアはヒトに対する病原性として嘔吐活性と下痢原性を持つと考えられます。下痢原性を調べるために行った乳のみマウス試験では、クドア胞子を投与したマウスは腸管内に液体が貯留し、その後に水様下痢を発症することがわかりました。さらに、嘔吐発症モデル動物のスンクスを使った実験でも、クドア胞子を投与されたスンクスは嘔吐を発症することが報告されました。クドアが実験動物に対してこのような病原性を示すには、ヒトの場合と同様に一定量以上の胞子数が必要であることもわかりました。さらに、加熱や凍結処理によってクドアは病原性を失うこともわかりましたので、クドアによる食中毒を予防するには、アニサキスなどの寄生虫性食中毒と同様に、ヒラメを食す前に加熱や凍結処理を行うことが効果的だと言えます。しかし、ヒラメは生食することが多く、加熱や凍結処理を加えることはほとんどないと考えられます。そうすると、食中毒予防対策としては、ヒラメ養殖場においてクドア寄生ヒラメを排除して流通させない管理が重要となります。現在、農林水産省が主導的に生産現場でのクドアの制御法について研究を進めています。

4.おわりに

クドアは嘔吐活性や下痢原性を持つことがわかりましたが、なぜこのような病原性を示すのかはまだ十分にわかっていません。当所では厚生労働科学研究班※2に加わりクドアの病原性について研究を行っており、本年度からは科学研究費補助金基盤研究(C)の研究課題※3に採択され、流通現場でのクドア寄生ヒラメの排除を目的とした簡易検出法の開発について研究を行っています。

感染症部細菌課 河合 高生

※1

厚生労働省通知
平成23年6月17日付け食安発0617第3号「生食用生鮮食品による病因物質不明有症事例への対応について」

※2

厚生労働科学研究費補助金(食品の安全確保推進研究事業)
生鮮食品を共通食とする原因不明食中毒の発症機構の解明

※3

クドア属粘液胞子虫による新規寄生虫性食中毒の防止に向けた現場即応型検出法の開発