HOMEページ公衛研ニュース > 臭素系難燃剤ヘキサブロモシクロドデカンによる環境汚染

1.HBCDとは

図2 HBCDの構造
図1 HBCDの構造

HBCDは化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)による監視化学物質(難分解性を有しかつ高濃縮性があると判明し、人又は高次捕食動物への長期毒性の有無が不明である化学物質)に指定され、 国が製造・輸入数量の実績等を把握し、合計数量を公表することになっています。それによると2010年度におけるHBCD製造・輸入数量の実績は3,019tで、2004年以降3,000t前後で推移しています。それまで臭素系難燃剤と言えば、ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDE)が主に使用されていました。しかしながら、PBDEは環境中で分解されにくく(難分解性)生物に蓄積すること(高濃縮性)、また甲状腺ホルモンとの化学構造の類似性から、甲状腺ホルモンに由来する生体内反応を阻害すること(内分泌かく乱作用)が判明し、209年に「ストックホルム条約における新規残留性有機汚染物質(POPs)」に指定されました。我が国においても2010年、化審法による第一種特定化学物質に指定され(4〜7臭素化物)、その使用が規制されました。

一方、HBCDは2011年の「ストックホルム条約検討委員会」において条約の規制対象物質とする提案がなされるなど、その環境汚染の影響が国際的に審議されているものの、現在も主要難燃剤として使用されています。

環境省が行ったHBCDの6週間投与による鳥類繁殖毒性試験報告(2010)では、『HBCDは、無影響濃度が5ppmで第一種特定化学物質であるトリブチルスズオキシド(TBTO)と同等であり、20週鳥類繁殖毒性試験の結果が同様になると仮定した場合、HBCDは鳥類に対する長期毒性について、第一種特定化学物質相当と疑うに足りる理由がある』と公表されています。

2.大阪府におけるHBCD汚染調査

図2 大阪府及びスウェーデンにおける母乳中のHBCD濃度の経年変化
図2 大阪府及びスウェーデンにおける母乳中の
HBCD濃度の経年変化
* B.FängstrÖm et al.Mol.Nutr.Food Res.(2008)
より引用

私たちがHBCDを体内に取り込む経路は、食事、水、大気、ハウスダスト等が考えられます。当所では、食品中のHBCDレベルと、ヒト曝露の指標として母乳を試料として、調査・研究を行いました。

食品:HBCDの食事からの一日摂取量調査を行いました。調査は「マーケットバスケット方式」と呼ばれる手法を用いました。厚生労働省による「国民健康・栄養調査」に基づき、府内の一般的なスーパーマーケットから100種類以上の食品材料を購入して13群に分類し、調理した後、それぞれを混合調製します。この試料を群毎に分析し、HBCDの摂取量を算出しました。分析の結果、13群のうち魚介類群のみにHBCDが検出されました。この事は、ポリ塩化ビフェニル(PCBs)やPBDEs等他の環境汚染物質にもみられる傾向です。食事からのHBCDの一日摂取量は300ngで、イギリスの調査報告値(270ng)とほぼ同レベルでした。この摂取量は無毒であるとされる参照値(体重50kgあたり500mg)の約160万分の1以下であることから、現時点では食事を介したHBCDの摂取による健康へのリスクは十分に小さいと判断されます。

母乳:当所では1970年代から母乳中のPCBs等POPsについて調査研究を行ってきました。母乳はヒトがどれだけ残留性有機汚染物質に曝露しているかを知る重要な指標となります。冷凍保存した母乳脂肪中のHBCDを分析し、汚染の経年変化を調査しました。府内の初産婦の母乳中HBCD濃度は2000年以降乳脂肪1gあたり約1〜2 ngで推移しており乳児への健康影響が問題となるような残留レベルではありませんでした。その濃度はカナダのデータ(2002年)に比べると低く、スウェーデンのデータに比べると高い値です(図2)。スウェーデンの汚染レベルが低い理由は、HBCDが製造されておらず、輸入量も1990年代時点で100 t前後と、我が国よりも需要が少ないことが考えられます。

HBCDには、現段階で未だ使用規制は無く、今後の使用量の推移は不明ですが、最近、日本沿岸で水揚げされた魚介類や河川の底質からHBCDの検出が報告されています。従って、府民の安全を守るため定期的なHBCD 汚染調査が必要であり、今後も調査研究を進めて行く必要があります。

衛生化学部食品化学課 柿本 健作