HOMEページ公衛研ニュース > アニサキス症とアレルギー

1. アニサキス症にはアレルギー反応が関与する

アニサキス症には強い腹痛をともなう劇症型と、軽症かしばしば自覚症状を欠く緩和型が知られています。この差異は、過去に感染して感作されているヒト(感作個体)は再感染で強い即時型過敏反応を起こして劇症型となり、初感染の場合は異物反応にとどまるため軽症に経過することによると考えられています。

図1. サバの内臓に寄生するアニサキス (矢頭)
図1. サバの内臓に寄生するアニサキス (矢頭)

図2. 内臓から取出したアニサキス幼虫
図2. 内臓から取出したアニサキス幼虫

   ※図2の解説

白い長方形の構造物はアニサキス幼虫の胃(矢印)。
 それより先端の短い部分が頭部。
 アニサキスにはたくさんの種類があり、食中毒の原因となることが多いアニサキスは、このような形をしたアニサキス(Anisakis simplex)です。



2. 患者は蕁麻疹(じんましん)などのアレルギー症状を合併することもある

患者の一部には、腹痛以外に蕁麻疹などのアレルギー症状を合併することがあります。このようなアレルギー症状も感作個体で引き起こされると考えられています。すなわち、生きたアニサキスの分泌・排泄抗原が感染局所の血管から循環血中に入り込み、皮下に分布する肥満細胞の受容体に結合した抗原特異IgE抗体がその抗原により架橋されることで、肥満細胞からヒスタミンなどのケミカルメディエーターが遊離され蕁麻疹が引き起こされるというものです。したがって、アレルギー症状の発症にも生きたアニサキスの感染が必要と考えられています。



3. アレルギー症状の発症は死滅したアニサキスの摂取でも起こるのだろうか?

アニサキスの抗原の中で、分泌・排泄抗原であるAni s 1は強い耐熱性を有しアニサキス症患者の85%がこの抗原に陽性を示すことから、アニサキスの主要抗原として知られています。さらに、本抗原はアニサキスに関連した慢性蕁麻疹症例の42%で陽性が認められています。また、アニサキス症患者の27%が陽性を示すAni s 4も分泌・排泄抗原で、加熱やペプシン処理でアレルゲン活性が失われず、呼吸不全、血圧下降などアナフィラキシーの発症に重要な抗原と考えられています。アニサキスは耐熱性の抗原を分泌、排泄することから、魚の調理中に生きたアニサキスが死滅することで感染による急性腹痛を免れたとしても、食品中に残った抗原を摂取することでアレルギー症状が引き起こされる可能性があります。しかし、海外でのボランティア実験などによると、アニサキスに関連したアレルギーの既往歴を有するヒトにアニサキスの抗原を経口的に投与しても、アレルギー症状は認められていません。最近の報告では、消化管粘膜の損傷部位から抗原が粘膜内の血管に入り込み、アレルギー症状が引き起こされるものと推測されています。このように、死滅アニサキスの摂取とアレルギー発症との関連性は未だ明らかではなく、今後の課題として残されています。


4. アニサキスの感染とアレルギーのリスクを軽減するために

アニサキスは日常摂食する機会が多いサバ、イワシ、サケ、タラなど海産魚介類の主に腹腔内(内臓表面を含む)に寄生しています。一部のアニサキスは筋肉にも寄生していますが、サバやサケでの調査によると、そのほとんどは内臓周辺の筋肉です。魚を室温に近い温度(20℃)で保存した場合、アニサキスは腹腔内から内臓周辺の筋肉へ移行するものと考えられており、天然の海産魚介類を生食する場合は、より新鮮なものを選び早期に内臓を除去し低温(4℃以下)で保存することが重要です。



大阪市立環境科学研究所
 微生物保健グループ 阿部仁一郎