HOMEページ公衛研ニュース > 違法ドラッグ分析の現場から

1. 違法ドラッグについて

「違法ドラッグ」─── 法律による明確な定義はありませんが、「麻薬または向精神薬等と類似の有害性をもつことが疑われるが、法律による規制・取り締まりの対象となっていない物質」が総じてそう呼ばれています。2年ほど前から、使用者の健康被害による救急搬送事例とともに、使用者が原因となった交通事故の事例等がマスコミに取り上げられるなど、注目を集めるようになってきました。

違法ドラッグ製品は乾燥植物片や液体、粉末状、シート状のものなど様々な形態のものがあり、ハーブ・アロマリキッド・バスソルト・防虫シートなどと称し、身体に摂取しないように注意書きをして販売されています。しかし、実際にはほとんどの製品から麻薬・指定薬物等の規制薬物やその類似化合物が検出されることから、摂取により多幸感や快感等を高めることを目的として製造されていると考えられます。こういった製品中に含まれる「違法ドラッグ」は医薬品等とは異なり、人体への有効性・副作用評価や厳密な製造工程管理が行われていないため、その使用は常に健康を害するリスクを伴っていると言えるでしょう。



2. 指定薬物制度について

違法ドラッグ製品の流通を規制するため、我が国では指定薬物制度が導入されました。平成17年4月から東京都では「東京都薬物の濫用防止に関する条例」が施行され、知事指定薬物制度による取り締まりが、厚生労働省も薬事法一部改正により平成19年4月から指定薬物制度による違法ドラッグの取り締まりが行われるようになりました。その後、違法ドラッグ問題の深刻化と共に、平成24年度には大阪府、愛知県、和歌山県、徳島県、鳥取県で相次いで「薬物の濫用の防止に関する条例」が制定され、取り締まり強化が進められています。

大阪府では、平成25年6月に府独自の調査結果をもとに、1−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−2−(ピロリジン−1−イル)プロパン−1−オン(通称名 MDPPP)、1−(3−フルオロフェニル)−N−メチルプロパン−2−アミン(通称名 3-FMA、N-メチル-3-FMP)の2種類の化合物(図1)を、知事指定薬物に指定しました(両化合物ともに現在は国の指定薬物)。

図1. 平成25年6月に指定した府知事指定薬物の名称と構造
図1. 平成25年6月に指定した府知事指定薬物の名称と構造(ともに現在は国の指定薬物)


平成24年度からは国の指定薬物制度に「包括指定」が導入され、これまでのような薬物ごとの個別の指定ではなく「ある一定の構造をもった化合物群」を対象とした規制が始まりました。厚生労働省は薬事法の省令の一部改正により、平成25年3月からはナフトイルインドール誘導体、平成26年1月にはカチノン誘導体の規制(図2)が実施されるなど、規制の網掛けが広がっています(文献1)。また、平成23年度までは年間1〜2回、薬事法の省令の一部改正により指定薬物が追加されていましたが、平成24年度には4回(うち1回はナフトイルインドール包括指定)、平成25年度は平成26年1月末現在ですでに4回指定薬物が追加されており(うち1回はカチノン包括指定)、年度内にさらに10化合物が追加される予定となっているなど、流通から規制までの時間も短縮されているものと考えられます。

図2. 包括指定対象物質群の基本骨格
図2. 包括指定対象物質群の基本骨格
(@〜Dは特定の置換基が入る。詳細については文献1をご参照ください。)


3. 違法ドラッグの分析

先ほど触れましたように、近年法律や条例によって違法ドラッグの規制強化が急速に進められています。しかし、規制対象化合物は速やかに市場からなくなる一方で、法をかいくぐった新たな化合物が次々と流通するようになります。違法ドラッグ分析では、構造の類似した多くの化合物が検出されるため、その識別・同定は非常に困難です。そのため、当所では質量分析装置や核磁気共鳴装置等の高度分析機器の分析結果を組み合わせることで、化合物の特定を実施しています。

通常、化学物質の同定・定量は標準品と呼ばれる高純度の化合物と検体とを同じ条件で分析し、その結果の比較によって行います(図3)。しかし、違法ドラッグ成分はまだ世に出ていない未知物質である場合もあり、標準品を入手できない事例が多くあります。そのため、公衆衛生研究所では製品中に含まれる物質を化学合成して標準品として用いたり、製品から対象化合物を単離精製して構造決定を行ったりしています。

図3. 標準品を用いた化合物の同定・定量
図3. 標準品を用いた化合物の同定・定量


法規制にかかわる物質の分析では、一般的に対象化合物を定めた法律が改正される頻度は高くないことから、分析する化合物が大きく変わることはあまりありません。しかし、違法ドラッグは法規制のスパンが短く、検出される化合物の種類もそれに伴って変わっていくため、常に新しい情報を収集することが重要となっています。新たな化合物の国内外での検出事例や、分析方法、化合物の合成からその薬理活性にいたるまで、幅広い領域にわたって高い専門性をもって情報を収集する必要がありますが、これを一つの組織だけで行うことは非常に難しいことです。当所では府警科学捜査研究所や他自治体の衛生研究所等、部署や自治体の枠組みにとらわれず他機関との情報交換や共有を積極的に進め、めまぐるしく変化する違法ドラッグ問題に対応しています。


参考文献

1) 厚生労働省HP 指定薬物一覧
   http://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakubuturanyou/dl/meisho.pdf (last accessed on Jan 23, 2014)


大阪府立公衆衛生研究所
衛生化学部薬事指導課

※この内容は、2014年2月1日時点のものです。規制などに関する情報は、最新のものをご確認ください。