HOMEページ公衛研ニュース > 亜硝酸ガスと喘息症状の関連性に関する疫学的事例調査

1.亜硝酸の生体影響に関する報告

亜硝酸の生体影響に関する報告には、人体吸入実験・疫学調査・私たちが行った動物曝露実験があります。人体吸入実験では、亜硝酸0.65ppmを軽度の喘息患者に3時間吸入させ、呼吸器の軽度の刺激性症状を示した報告と、健常人に亜硝酸0.395ppmを3.5時間吸入させ、気道の空気の流れやすさの約10%の低下を認めた報告があります(共に1995年)。疫学調査では、室内の亜硝酸は肺機能の低下や呼吸器症状と関連することが示されています(2005年)。動物曝露実験では、3.6ppmの亜硝酸をモルモットに4週間連続曝露し、肺気腫様変化などを観察しました(公衛研ニュースNo.43(2010年10月)に掲載)。

2.私たちが実施した亜硝酸の疫学的事例調査

私たちは、亜硝酸と喘息発作との見かけの関連注)を検討する目的で、年間5名の小児喘息患者を対象に9月から約3か月間の調査を3年間実施しました。調査項目は、毎日の喘息発作状況などや、1週間毎の被験者宅での亜硝酸・二酸化窒素・オゾンなどの濃度や環境測定局の大気汚染物質濃度などです。
 調査の結果、喘息発作が起き検定対象とした被験者は延べ7名で、保護者の判断による小発作が計10回、中発作が計4回でした。中発作は回数が少なく、小発作とは症状が異なることから検定に用いませんでした。小発作が起きた週の亜硝酸濃度はその前の週の亜硝酸濃度より全て高かったため(平均1.6倍)、小発作と大気汚染物質との見かけの関連を物質濃度だけでなく物質濃度の変化率(ある週の平均濃度を前の週の平均濃度で割った値)でも検定しました。なお、中発作は11月にも起きましたが、二酸化窒素と喘息との関連を調べる疫学調査は一般的に9〜10月だけ実施・解析されるので、既存の二酸化窒素に関する調査結果と比較するため、9〜10月のデータだけでも検定しました。       
 物質濃度変化率と喘息小発作との関連をMann-Whitney の U検定で調べた結果を表1に示します。全データでの検定では亜硝酸の濃度変化率と喘息小発作とに有意な関連が認められました。9〜10月のデータでは亜硝酸以外にも環境測定局の二酸化窒素(亜硝酸も二酸化窒素として測定された混合物)と被験者宅の一酸化窒素の濃度変化率も喘息小発作と有意な関連が認められました。今回の二酸化窒素(混合物)の結果が既存の二酸化窒素(混合物)の疫学調査結果と矛盾しない結果は、私たちの調査データは特殊なものではなく、二酸化窒素(混合物)の喘息影響が認められる状況で亜硝酸単独での喘息影響を検討できることを示します。また、今回の亜硝酸と喘息小発作の結果は、二酸化窒素と亜硝酸のどちらの喘息影響が強いのかを明らかにする必要性を示しています。       
 次に、物質濃度と喘息小発作との関連をMann-Whitney の U検定で調べた結果を表2に示します。全データの検定ではオゾンや一酸化窒素の濃度と喘息小発作とに有意な関係が認められましたが、一酸化窒素は濃度が低いときに小発作が多いという負の関連でした。その原因は不明で、今後の検討課題です。また、9〜10月のデータでは環境測定局の二酸化窒素(混合物)濃度と喘息小発作とに有意な関連が認められ、濃度で検定した結果においても今回の調査は二酸化窒素(混合物)の喘息影響が認められる状況で亜硝酸単独での喘息影響を検討できることを示します。       
 室内亜硝酸と環境測定局の大気中一酸化窒素の濃度推移が類似したことから、室内亜硝酸は大気中の一酸化窒素に起因している可能性があります。また、亜硝酸は家庭用の器具・機械から発生する例もあります。亜硝酸による健康影響を抑制するには、亜硝酸規制は必要だと思われます。今後さらに亜硝酸に関する研究を実施予定です。       
                                               

   ※注)「見かけ」の説明

喘息発作には様々な要因が関連するため、本来の疫学調査では、解析によりそれらの要因の影響を除いた状態で目的物質と喘息発作との関連性を検討します。今回の調査は関連要因の影響を除かず、目的物質と喘息小発作との関連性を検定しただけですので、見かけの関連となります。



衛生化学部生活環境課 大山 正幸