HOMEページ公衛研ニュース > 百日咳、大人もかかる感染症

1.患者発生状況

百日咳は感染症法で5類感染症に規定され、その患者数は感染症発生動向調査における小児科定点から毎週報告されています。図1に大阪府内の小児科定点約200ヵ所の医療機関で百日咳と診断され報告された患者を年次別、年齢層別に示しました。現在のところ百日咳の全患者数を把握するシステムがないため、患者の正確な数は不明ですが実際にはこの10倍程度の患者が大阪府内で発生していると推測されています。百日咳は他の多くの感染症と違い、お母さんから赤ちゃんに与えられる免疫が十分にありませんので生後まもなくから感染し、この場合は重篤化しやすく死にいたる場合もあります。また最近では15歳以上の患者数の増加が顕著ですが、これはこれまで典型的な症状を示さず見逃されてきた年長の患者が診断技術の進歩により発見される様になったことが原因とされています。

百日咳患者報告数(年次別、年齢層別)、感染症発生動向調査(大阪府内約200定点からの報告)
図1.百日咳患者報告数(年次別、年齢層別)、
感染症発生動向調査(大阪府内約200定点からの報告)


2.成人の集団感染事例

百日咳は乳幼児、小児などの子供の病気と考えられがちですがこの病気に対して免疫をもたない人であれば年齢に関係なく感染します。学校や職場などでの集団感染も多く報告されており、表に4事例を示しました。成人の感染例では乳幼児と比べて軽症で痙攣性の咳発作はほとんどなく、血液検査でも小児に見られる白血球数の増加、リンパ球の異常増多を示すことは稀なため、医療機関を受診しても診断されない事例が多いと推測されます。また、無症状または軽い咳のみで病気と気づかずに経過してしまう人も多くいます。その人たちは本人も知らないうちに周囲の人たちへの感染源となっています。


3.病原診断

百日咳の確定診断のためには患者からの百日咳菌の検出が必要となりますが、培養検査法は菌の発育が遅いため検査に日数がかかり、また検出感度も低いためほとんど利用されていません。現在は数時間で検査が可能な百日咳菌特異遺伝子の検出のための核酸増幅のキット(LAMP法)が市販されており、その有用性も確認されています。同検査の保険適用が待たれます。

   
   

      表.わが国で発生した成人集団感染事例
百日咳患者報告数(年次別、年齢層別)、感染症発生動向調査(大阪府内約200定点からの報告)
(引用文献) *:病原微生物検出情報, Vol.29, No.3, 2008. **:病原微生物検出情報, Vol.33, No.12, 2012.
   


4.治療・予防

百日咳菌の除菌にはマクロライド系抗菌薬が使用されます。百日咳の特有な症状は百日咳毒素によるものと考えられており、抗菌薬はすでに菌が産生した毒素には効果が期待できないことからできるだけ早期に抗菌薬を投与することが必要になります。それによって、症状の悪化を防ぎ、周囲への感染も防ぐことができます。       
 百日咳はワクチンで予防できる感染症(VPD:Vaccine Preventable Diseases)とされています。図1の年次別の患者発生数を見ても15歳以上の患者増加は見られますが、乳幼児の患者発生は低く抑えられており、ワクチン接種の効果が認められています。図2に現行の百日咳を含む沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオ混合ワクチン(DPT-IPV:diphtheria, acellular pertussis, tetanus and inactivated polio vaccine)の接種スケジュールを示しました。生後3ヵ月から2歳前後までの計4回の接種により感染防御に必要な免疫は獲得できるとされています。しかし百日咳ワクチンの免疫効果は4〜12年で減弱し、ワクチン既接種者も感染することが近年明らかとなっており、その結果「乳児を持つ両親や親戚が気づかないうちに百日咳に感染し、ワクチン未接種の赤ちゃんに感染させてしまう」という事例が多くみられています。赤ちゃんを守ってあげるためにはまず、生後3ヵ月になったらできるだけ早く予防接種を受けさせてあげることが大切です。そして免疫を得るまでの間は赤ちゃんと接する大人は健康に注意して、長引く咳などがあれば早めに医療機関を受診するよう心がけてください。     

沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオ混合ワクチン接種スケジュール
図2. 沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオ混合ワクチン接種スケジュール


感染症部細菌課 勝川千尋