HOMEページ公衛研ニュース > 食品への放射線照射について


照射食品の国際的ロゴ
マーク " Radura "

1.放射線照射の効果

放射線照射は、対象の食品あるいは目的によって必要な線量[放射線が食品に吸収される量;キログレイ(kGy)]が異なります。全ての食品に対して放射線照射が有効というわけではなく、他の処理法では弊害が大きい、あるいは無駄なエネルギーや多額の費用が必要な場合に照射が選択されています。世界における照射食品の品目を目的で分類してみると、香辛料類の殺菌が最も多く(46%)、次いで馬鈴薯またはニンニク等の発芽防止(22%)、穀物・果実の殺虫(20%)、肉・魚介類の殺菌(8%)、その他(4%)の順になっています1)。       
 香辛料類は主に熱帯、亜熱帯等で生産されるため、微生物による汚染を受けやすく、保存状態によっては、発がん性物質であるカビ毒(アフラトキシン等)を産生するカビが増殖する危険性があります。香辛料類の殺菌は、主に気流式過熱蒸気殺菌、エチレンオキサイド殺菌および放射線照射による方法で行われています。香辛料類は熱に弱く、気流式過熱蒸気殺菌では色調や香味に変化が生じ、商品価値が下がることもあります。また、エチレンオキサイドによる殺菌法では毒性のあるエチレンオキサイドガスが残存することが懸念され、多くの国で禁止されています。一方、照射による殺菌法は非加熱処理であることから、色調や香味に変化が生じることはなく、有害な物質の残存もありません。これは他の殺菌法にない照射による殺菌法の長所であり、中国、米国、ヨーロッパ諸国等多くの国で実用化が進んでいます。



2.照射食品の検査

現在、我が国で放射線照射が認められているのは発芽防止を目的とした馬鈴薯のみであり、他の食品への放射線照射は原則禁止されています。このため検疫所等の検査機関では、照射食品が国内に流通しないよう輸入食品を中心に照射食品の検査を行っています。厚生労働省が定めた照射履歴の検知法には、熱ルミネッセンス法、アルキルシクロブタノン法、電子スピン共鳴法があります(表1)。これらの方法は、適用可能な食品の種類が決まっており、対象となる食品に応じて選択します。       
 当所では、脂肪を抽出可能な食品に適用可能なアルキルシクロブタノン法について、研究を行っています。食品中の脂肪(脂肪酸)に放射線が照射されると、ラジカル反応によりアルキルシクロブタノンが生成します。アルキルシクロブタノンは照射でしか生成しないため、アルキルシクロブタノンを検出する方法は特異性が高く、照射食品の有用な検査法と考えられます。厚生労働省が定めている方法では、抽出や精製に時間を要するため、試験液の調製に約2日以上必要であり、薬品の使用量も多い等の課題があります。当所が開発した分析法は、抽出および精製工程を改良し、試験液の調製時間を約8時間に短縮しました。また、使用する薬品も厚生労働省が定める方法の約1/10となり、迅速性および簡便性に優れています。今後、幅広い食品への適用性について検討を行う予定です。



表1. 厚生労働省が通知する食品の照射履歴の検知法2)


3.最近の話題

      

2011年4月に発生した食肉の生食を原因とした腸管出血性大腸菌による食中毒事件を契機に生食用牛レバーの販売・提供が禁止されました。牛レバーでは、表面のみならず内部まで病原菌に汚染されている可能性があり、加熱以外の有効な殺菌法が見当たらないのが現状です。現在、「(加熱することなく)生のまま殺菌できる」という放射線照射の特性を生かし、新たな殺菌法として、牛レバーへの放射線照射について国による研究が始められられたところです。

      
                                              

参考文献   
  1) 久米民和, 食品照射, 43, 46-54(2008)
  2) 厚生労働省, 食安発0910第2号


衛生化学部食品化学課 北川陽子