HOMEページ公衛研ニュース > 男性同性愛者向けHIV検査事業の取り組み

日本では、1987年以降現在まで各自治体の保健所においてHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の無料匿名検査と相談事業が行われています。しかし、国内のHIV感染者・エイズ患者の報告数は減少することなく推移し、特に男性同性間の性的接触による感染のみが増え続けています(図)。その理由の一つとして、保健所のHIV検査が主に平日の昼間に実施されるなど、同性愛者の男性が利用しにくいもので有ったからだと考えられており、近年では平日夜間や週末に受検可能な特設検査場を設置した自治体もあります。



国のエイズ予防指針に定められている個別施策層(注1)の一つにMSM(Men who have Sex with Men:男性間で性行為を行う者)があります。国内のHIV感染者の多くがMSMとされています。大阪府においても2015年のHIV感染者・エイズ患者の届出の97.7%を男性が占め、感染経路では男性同性間の性的接触が約7割(70.6%)を占めています(注2)。この傾向は過去10年以上続いています。現在、多くの種類の抗HIV薬が開発されており、適切な治療を受ければエイズを発症することなく、これまで同様の生活を送ることが可能になりました。また、適切な治療を受けていれば他者にHIVを感染させることもかなりの確率で抑えられる事も明らかになっています。したがって府内のHIV感染拡大を阻止するには、男性同性間のHIV感染を早期に発見し、治療へ結びつけることが非常に重要です。
 そこで当研究所では、「エイズ予防のための戦略研究」(研究代表者:エイズ予防財団理事長・木村哲)に参画するなど、2008年よりMSM向けにHIV検査相談機会の拡大に努めています。大阪府ではその研究成果を評価し、府内診療所医師と男性同性愛者のCBO(community-based organization:地域社会に根ざした組織)の協力を得て、他県に先駆け2015年度よりMSM向けにHIV検査相談事業(検査キャンペーン)を府の経常事業で実施しています。
 現在のMSM向け検査キャンペーンの概要は、次のようになっています。
  ・少額の自己負担金で協力診療所の診療時間内にHIV/STI(sexually transmitted infections:性感染症)の検査を受検可能。
  ・陽性判明後のHIV陽性者支援に対応。
  ・協力CBOがMSM向けの広報を担当。
  ・一年間に夏期と冬期の二期に分けて実施。
 研究成果を含めたこれまでの実績をに示します。過去8年間で受検者2633名のうち90名近い方がこの検査によりHIV陽性と判明し、ほとんどの方がエイズ治療拠点病院に紹介され抗HIV治療を開始しました。保健所等で行っている無料匿名検査と比較して、この検査キャンペーンはHIV陽性率が5?20倍と高いことも特徴で、小額の予算で多くの新規HIV陽性者を発見し治療に結びつけている本事業は費用対効果の面でも優れた保健事業となっています。(注3)
 本検査キャンペーンにおいては、HIVが陰性であれば当日に検査結果が判明する「即日検査」を実施しています。一方、HIV検査ではより感度が高い検査法を使用して一週間後に検査結果が判明する「通常検査」のニーズも無視できません。これを考慮し、著者が研究代表を務める厚生労働科学研究エイズ対策政策研究の一環として検査キャンペーンにおいても通常検査が受検可能なように配慮しています。
 本事業モデルは他の自治体からも注目を集めており、ノウハウの提供を求められる機会も増えてきました。今後も本検査事業に貢献し、府内のHIV感染症の拡大阻止に向け取り組んでいきます。



注1:
エイズ予防指針において個別施策層とは「(HIV)感染の可能性が疫学的に懸念されながらも、感染に関する正しい知識の入手が困難であったり、偏見や差別が存在している社会的背景等から、適切な保健医療サービスを受けていないと考えられるために施策の実施において特別な配慮を必要とする人々」と定義されており、MSMの他に「性に関する意思決定や行動選択に係る能力について形成過程にある青少年」「言語的障壁や文化的障壁のある外国人」「性風俗産業の従事者及び利用者」「薬物乱用者」が挙げられている。
注2:2015年大阪府エイズ発生動向表1
   http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/6327/00000000/27de-ta.pdf
注3:大阪府におけるHIV/AIDSの現状と対策について(IASR Vol. 35 p. 205-206: 2014年9月号)
   http://www.nih.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2299-related-articles/related-articles-415/4966-dj4151.html


感染症部ウイルス課 川畑拓也