ウイルス性食中毒

中毒といえば、大抵のひとは細菌やフグ毒などを想像されると思いますが、ウイルスも食中毒を起こすことが知られるようになりました。食中毒の原因となるウイルスはいろいろありますが、最近とくに注目されているのがヒトカリシウイルスです。これらのウイルスは一般的には小型球形ウイルス=SRSVと呼ばれていますが、現在ではカリシウイルスに分類されています(写真参照)。冬季に発生する食中毒の大部分はウイルスを原因としていますが、その中でも90%以上がヒトカリシウイルスによって起きています。そしてその多くは生カキ(牡蛎)の喫食と関連していることが判ってきました。このような事情から、平成9年5月に食品衛生法が一部改正され、食中毒の原因として小型球形ウイルスなどが追加されました。

1.ヒトカリシウイルスによる食中毒とは

 原因食物を摂取して24〜48(平均40)時間あとに突然吐き気に襲われます。風邪様症状が伴う場合もあります。そのあと嘔吐(子供に多い)や下痢(大人に多い)が1日ぐらい続きますが、このとき糞便中にウイルスが排泄されていますので、家族などに経口的に二次感染する恐れがあります。

2.カキなどの魚介類とウイルス

 ヒトカリシウイルスは晩秋から初冬に流行期があり、ヒトからヒトへと感染していきます。小腸で増殖したウイルスは糞便中に排泄され、下水から海域へと流出してゆきます。この時期海に生息する生物はこのウイルスに暴露されます。このため、海水中にごく微量含まれるウイルスが貝の中腸腺に蓄積されてゆき、出荷された未加熱のカキなどを食べることにより感染を受けてしまいます。これが冬季にウイルス性の食中毒が多い理由です。ちなみに、沿岸部で養殖されているカキ、ホタテ貝、はまぐりなどの二枚貝は、1日に120〜600リットルもの海水を体内に循環させているといいますから、驚きです。

3.カリシウイルスの検査法

 歴史は比較的新しく、アメリカで電子顕微鏡(EM)によってノルウォークウイルス(Norwalk virus)が発見されたのが1972年のことでした。当所でも20年ほど前から全国に先駆けて、EMによるウイルスの検出に努め、大阪府内でKY89、OTH25株といったウイルスを発見しました。

 最近では遺伝子診断法が発達し、食中毒の検査にも高感度で迅速なRT-PCR法が応用されています。当所では、昨年度に食中毒菌が検出されなかった22の集団発生事例のうち17例からSRSVを検出しました。このウイルスは非常に微量で感染を起こすと考えられていますが、培養ができないため、食品からの検出は現在でも難しいことに変わりはありません。ともあれ、このような高感度の検出法の採用によって、ウイルス性食中毒に素早く対応できるようになり、保健所や食品衛生監視員の方々のニーズに少しは役立てるようになったと思っています。

カリシウイルス(SRSV)の電子顕微鏡写真

 

 ウイルス性食中毒は国内では、ボツリヌス、フグ毒やO157のように死者が出るような重篤な疾患ではありませんが、発展途上国ではカリシウイルスやロタウイルスなどのウイルス性下痢症で死亡する子供が毎年100万人以上あることも事実です。今のところカキが悪者扱いされていますが、カキも汚染される被害者なのです。公共下水道などウイルスに対する対策もあわせて、環境を整備してゆくことが、これからの課題であると思われます。

ウイルス課 山崎 謙治