HOMEページ公衛研ニュース > ウェルシュ菌による食中毒と新型エンテロトキシンBEC

1.ウェルシュ菌による食中毒について

 ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)はヒトや動物(魚類を含む)の腸管内に常在するほか、土壌、海・湖泥や食品など広く環境中に分布している菌です。これらの多くは食中毒の原因となりませんが、その一部(一般的に5%以下)はウェルシュ菌エンテロトキシンCPE(C. perfringens Enterotoxin)を産生し、食中毒の原因となることが知られています1)
 ウェルシュ菌による食中毒は原因食品として、カレー、シチュー、芋煮や鶏肉のトマト煮などの煮込み料理、ローストビーフや中華丼などがあげられ、その発生には芽胞の形成が重要な役割を果たしています。加熱調理の過程で多くの菌は死滅しますが、耐熱性の芽胞を形成するウェルシュ菌は生存します。食品が冷めて発育可能な温度まで低下すると、他の菌がいない環境で生き残ったウェルシュ菌は旺盛に増殖します。この菌がCPEを産生するウェルシュ菌であると、食品の喫食後、腸管内に到達してCPEが産生され、下痢症が発生します1)

2.新型エンテロトキシンBECとBEC産生性ウェルシュ菌

 これまで食中毒の原因となるウェルシュ菌はCPEを産生すると考えられていました。ところが、当所では2009年と2010年にCPEが陰性であるにもかかわらず、発生状況や分子疫学的情報からウェルシュ菌が原因菌と強く疑われる食中毒事例を経験しました。これらの事例から分離したウェルシュ菌の菌株について、当所と大阪大学微生物病研究所が共同研究を進めた結果、下痢症を起こす新規毒素BEC(Binary Enterotoxin of C. perfringens)の同定に成功しました2)
 BECはBECa(a成分)とBECb(b成分)の独立した2つのタンパク質で構成されており、ADPリボシル化2成分毒素という毒素ファミリーに分類されます。このファミリーに属する毒素はADPリボシル化活性を有するa成分(酵素活性成分)と細胞膜に結合するb成分(膜結合成分)で構成され、一般的に2成分が協同して生物活性を発現するとされています。当所は大阪大学大学院薬学研究科との共同研究で、BECのa成分であるBECaの結晶化に成功し、その立体構造を解析しました3)(図1)。その結果、BECaはアクチンに対するADPリボシル化活性を示し、立体構造もADPリボシル化2成分毒素のa成分と非常によく似ていることがわかりました。一方で、BECbは単独で下痢症を起こし、BECaはBECbの働きを強めることがわかり、BECはADPリボシル化2成分毒素ファミリー の他の毒素と異なる性質も持っていました2)。BECが下痢症を起こす機序についてはさらに詳細な解析が必要です。

図1. BECaの結晶構造

当所が経験した2事例のBEC産生性ウェルシュ菌による食中毒は、分子疫学的解析から異なる系統のウェルシュ菌によって発生したことがわかっています。一方、それぞれの原因菌はほとんど同一なプラスミドにBEC遺伝子を保有していました2)(図2)。プラスミドは菌と菌の間で受けわたしされることが知られています。系統の異なるウェルシュ菌が同様なプラスミドを保有していたことはBEC遺伝子がプラスミドの受けわたしによって広がる可能性を示しており、今後の調査が望まれます。

図2. BEC遺伝子をコードするプラスミドの比較

3.BEC遺伝子の検出法

 当所ではCPE遺伝子、BECa遺伝子、BECb遺伝子およびコントロールとしてすべてのウェルシュ菌が保有するPLC遺伝子を同時に検出できる簡便なPCR法を構築し、食中毒検査や汚染実態調査に応用しています(図3)。このPCR法はサーマルサイクラーと電気泳動装置を備える施設であればどこでも実施できます。詳細は当所のホームページ5)や文献4で紹介しておりますのでご参照下さい。


M, 分子量マーカー; 1, マルチプレックスPCR; 2〜5, シングルPCR,
2, becA(499 bp) ; 3, becB(416 bp); 4, (324 bp); 5, (233 bp)

図3. マルチプレックスPCR法の電気泳動像

4.ウェルシュ菌による食中毒の予防法
 これまでの研究からBEC産生性ウェルシュ菌による食中毒もCPE産生性ウェルシュ菌による食中毒と同様に、過熱調理の過程を生き残ったウェルシュ菌が保存中に増殖し、この食品が喫食されることで食中毒が発生すると考えられます。ウェルシュ菌による食中毒を予防するためには以下のことを継続して実施することが必要です。

  • 加熱調理した食品は室温で放置せず、すぐに食べる。
  • 加熱調理した食品を保存する場合は、ウェルシュ菌の急速な増殖を防ぐために、小分け、急冷して保存する。
  • 保存していた食品は中心までしっかり再加熱して、すぐに食べる。

参考文献
 1) 食中毒予防必携 第3版 107-114 社団法人 日本食品衛生協会
 2) Yonogi S. et al. : Infect. Immun., 82, 2390-2399 (2014)
 3) Kawahara K. et al. : Biochem Biophys Res Commun., 480, 261-267 (2016)
 4) Yonogi S. et al. : J Microbiol Methods., 127,172-175 (2016)
 5) 大阪府立公衆衛生研究所ホームページ http://www.iph.pref.osaka.jp/food/welchii.html


感染症部細菌課 余野木伸哉