住居内空気の汚染

居内空気の汚染が、近年、世界的にクローズアップされています。これは、さまざまな化学製品が室内で使用されるようになったこと、1970年代の「石油ショック」以後、冷暖房に必要なエネルギーを節約する観点から建物の気密性が向上してきたこと等が原因です。そのため、室内空気中の化学物質濃度が、屋外大気中濃度に比べ、はるかに高くなり問題となっています。

 室内空気中の汚染物質として生体影響などが指摘されているものとして、ホルムアルデヒドや揮発性有機化合物(VOC)、農薬とその類似物質などがあります。さらに、ペット、ダニ、カビなども汚染物質やその発生源になっています。これらの汚染はアレルギーや化学物質過敏症の原因になるともいわれています。

1.ホルムアルデヒド

 昨今、話題となっているホルムアルデヒドは沸点が -19.5℃と低く、揮発しやすく、常温では無色で刺激臭のある気体で、尿素樹脂などプラスチックの合成に広く利用されています。尿素樹脂の主な用途は、家具などの木工製品に用いる接着剤や断熱材などの成形品で、その生産量の約9割が接着剤として使われています。さらに、衣類の防しわ加工や紙製品の耐水加工にも利用されています。また、ホルムアルデヒドには強い防腐作用があるため、塗料、洗浄剤、糊などに加えられています。

 ホルムアルデヒドは粘膜を刺激する作用があり、アレルギーの原因物質ともなっており、平成9年6月に、厚生省の「快適で健康的な住宅に関する検討会議/健康住宅関連基準策定専門部会/化学物質小委員会」において、「30分平均値で0.08ppm(0.1mg/m3 )以下」という住居内の濃度の指針値が示されています。一般住宅の室内空気中の濃度はこの指針値以下と見られますが、建築後の年数が短い住宅では、一般に汚染が強く、このため新築から一年間ぐらいは室内の風通しを良くし、ホルムアルデヒド濃度を下げる工夫が必要です。

 ホルムアルデヒドは、主として床、壁などの内装材や家具に使われている合板や集成材の接着剤が主要発生源であるため、ホルムアルデヒドの発生量の少ない合板が開発され、JAS規格となっています。住宅用にはこの合板を使用することが望まれます。

2.揮発性有機化合物(VOC)*

 室内で検出される揮発性有機化合物は、のべ数百種類もあるといわれており、その多くは化粧合板、畳、壁紙、床材、断熱材、接着剤、塗料、防蟻・防虫剤などから揮発しています。さらに、日常使っている家庭用品にも揮発成分が多数含まれています。

 新築直後に特に多いものとして、シンナーをはじめとした有機溶剤があります。それらは接着剤、塗料、ワックスなど液状の建築材料に多く含まれており、施工時に大部分は揮発しますが、施工後もその残留成分がゆっくりと室内に放散されます。また、床下は防蟻剤、殺虫剤などで処理されており、これらの成分も徐々に室内に放出されています。さらに、新建材等に利用されている合成樹脂には可塑剤が使われており、これらの可塑剤は蒸気圧も低く、非常にわずかですが住居内で検出されています。

 一方、日常生活で使っている家庭用品にも多くの化学物質が使用されており、室内空気汚染の発生源となっています。世界保健機関(WHO)では、これら化学物質を分類し、一般室内環境に対して、その濃度の目標値を示しています。(表1)

 一般住居で特に高濃度に測定される化合物の一つに、衣類の防虫剤やトイレの芳香剤として使われている パラジクロロベンゼンがあります。パラジクロロベンゼンは発ガン性が疑われており、厚生省は家庭用品専門家会議(毒性部門)で、そのリスク評価を行い、平成9年8月に、人が一生涯吸引し続けても毒作用が発現しないであろう濃度、つまり耐容平均気中濃度を0.1ppm(0.59mg/m3 )に設定しています。

 一般室内のパラジクロロベンゼン濃度は0.1ppm以下ではありますが、トイレ内や洋服ダンス周辺ではこれ以上の濃度になっている場合も多く、換気に十分気をつける必要があります。

3.化学物質過敏症

 厚生省長期慢性疾患総合研究事業アレルギー班の「化学物質過敏症」に関する啓発パンフレットには、次のように書かれています。

・・・・・・・化学物質過敏症は過敏という名が示すように、ごく少量の物質にでも過敏に反応する点ではアレルギー疾患に似ています。最初にある程度の量の物質に曝露されると、アレルギー疾患でいう"感作"と同じ様な状態となり、二度目に同じ物質に少量でも曝露されると過敏症状をきたします。時には最初に曝露された物質と二度目に曝露された物質が異なる場合もあり、これは多種化学物質過敏症と呼ばれます。・・ (中略)・・

さらに化学物質過敏症はこのようなアレルギー疾患様の性格だけでなく、低濃度の化学物質に反復曝露されていると体内に蓄積し慢性的な症状を来すという中毒性疾患に近い性格も兼ね備えています。化学物質過敏症は未解明の部分が多い疾患です。・・・・・・・

 化学物質過敏症の症状は、頭痛、全身倦怠、不眠、便秘、動悸などとりたてて特徴のない症状が多いため、病院で受診しても、化学物質過敏症を念頭に置かない限り、通常の診察では見落とされてしまいます。

 この疾患の対症治療法としては、換気を良くするなどして、できるだけ原因物質やその関連物質への曝露を少なくすると同時に、適切な食事、休息、睡眠をとり、運動を心がけ、精神的なストレスを解消して健康状態をベストに保つことが重要であるといわれています。

 大阪府では府民のより良い住居環境を確保、整備、創造するために、すでに、府下の一部の保健所では「住まいの衛生診断」を実施しています。これに対応し、当公衆衛生研究所では住居衛生に関わる調査、研究を進めており、保健所活動を科学的、技術的に支援しています。

労働衛生部 吉田 俊明、安藤 剛(元)