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目次


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高齢化社会と就労

活水準の向上、医学・医療技術の進歩などによって平均寿命が著しく伸長したことと出生率の低下が相まって、我が国は世界でも類をみない速さで高齢化が進んでいます。65歳以上の高齢者が総人口に占める比率は、1920年の第1回国勢調査以降1950年までは5%程度でした。その後次第に上昇し、1998年には16.2%に達しています。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2015年25.2%、2025年27.4%と予測されています。また、75歳以上の後期高齢者も2010年には10.5%、2025年には15.6%に増加し、「総人口の4人に1人以上が高齢者」という社会が一世紀近く続くと予想されています。 このような高齢化社会を迎えるにあたって、
^健康の確保  _収入の確保  `生きがいの確保
が重要となってきます。そのため、各人の自立的な準備・対応が大切ですが、同時に諸制度の拡大・充実が望まれます。以下、当所及び総理府の調査をもとに高齢者の生活実態と意識をまとめてみました。

1.高齢者の生活満足感、不安点

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当研究所で行った『自治体退職者を対象とした質問紙調査』(1997年10月実施、回収数1611、回答率65.0%、平均年齢68.1歳)をみると、多くの人は現状の生活に満足感・充実感をもっています(あると回答した人91.7%、ないと回答した人7.5%)。しかし一方では、本人および家族の健康問題と将来の健康不安、経済上の問題と今後の収入の不安、要介護者の面倒など種々の問題や不安を抱えています。(表1)

2.対策の要望

1999年に実施された総務庁の『高齢者の日常生活に関する意識調査』では、60歳以上の63.6%が将来の生活に不安を抱いており、表2に示された様々な対策を要望しています。

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3.退職後の就労実態

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前述の「自治体退職者を対象とした質問紙調査」では、定年退職後も多くの人々は就労しており(表3)、特に60歳代前半は男女とも高い比率になっています。しかし、女性の就労比率は男性に較べて低く、高齢になるほど一段と低下しています。男性では退職前管理職の就労比率は非管理職を上回っていました。また、優れた専門性や特別な資格を取得している人ほど、高齢まで就労を続ける傾向が見られました。

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一方、非就労理由(図1)に関しては、男性非就労者の「働きたいが適当な仕事がみつからない」の訴え率が、60-64歳で53.7%、65-69歳で24.9%とかなり高い比率になっています。「定年後,何歳まで働くのがよいか」では、男性は65歳迄と70歳迄、女性は65歳迄が多数を占めています。

  高齢者の就労は、収入を目的としたものから、経験などを活用しての生きがい就労、ボランティア的就労、社会参加、健康維持目的、就労の必要なしなど様々でした。しかし、就労の場は必ずしも確保されていません。

4.高齢者の就労確保対策

 高齢者の就労確保対策への要望として、以下のような意見が自由記述であげられています。

【自立支援に関する意見】

・就労に関する情報提供や仲介機関(シルバーセンターなど)の拡大、充実

・高齢者の研修や再教育機会提供と、自立のための啓発活動(若い時から専門的知識・技術を習得しておく等)

【高齢者雇用の拡大・創出に関する意見】

・高齢者就労を普及させるための啓発活動

・助成金による就労確保

・定年延長や65歳までの再雇用制度

・労働の分かち合い(通常の意味に加え、数人の高齢者がそれぞれ短時間働き若年・中年1人分の仕事を)と棲み分け(高齢者と若年者の労働分担の明確化)

・高齢者による高齢者サービス(例えば介護・給食など)

・高齢者の経験・知識・技術を活用したサービスなどの企画・起業

・高齢者に適した労働と雇用機会の創出を公的機関で検討・実施

【高齢者向きの仕事の条件に関する意見】

・高齢者の経験や知識・技術を活用し、体力・気力に応じた就労

・職場は自宅近くで、就労は週に数日で午前10時から午後4〜5時までの勤務

・収入は二の次、健康管理やコミュニケーションにも配慮

【その他の意見】

・定年前と同様のフルタイム就労を希望

・生きがい・社会参加としての就労や、ボランティア活動のための情報提供、活動支援システムの充実

労働衛生部 田井中 秀嗣

title2高齢化と免疫 - 漢方薬の効果 -

たちの身体には病原体からの感染防御をつかさどる免疫系が備わっています。この免疫系の働きは、他の諸生理機能と同様に加齢とともに次第に衰退していきます。高齢期を健やかで、快適に過ごすためには、衰退・低下した免疫系の活性を高め、維持することが特に重要です。

1.加齢と免疫系

 ヒトでは、免疫機能は10歳代の後半にほぼピークに達し、その後徐々に低下してゆきます。40歳代ではピーク時の約半分に、70歳代では10分の1以下になるともいわれています。

 実際に高齢者の死因を調べてみると、年齢とともに肺炎が増えていることからも、高齢期には免疫機能が低下していることがうかがえます。この高齢期の感染症の問題は平均寿命が飛躍的に伸びはじめてから、誰もが直面しなければならない問題として私達の前に大きく立ちはだかってきました。若い時期にはよく効く薬が、免疫機能の低下した高齢者の場合には十分な効果が期待できないことも多いのです。このような背景から、老化に伴う免疫機能の低下のしくみを調べることや、機能低下を防いだり遅らせたりする方法を探すことが、大切な課題となっています。

2.免疫機能を回復させる試み

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 衰退した免疫機能を活性化する様々な試みがなされていますが、私達は生薬・漢方薬を用いた方法を研究しています。細菌などが侵入してくると、体内には侵入してきた細菌に対する抗体が産生されてきます。その抗体産生能の推移をマウスを用いて調べたものが図2のグラフです。マウスの一生はほぼ2年であり、このグラフから抗体産生能が一生を通じて年齢(週齢)と共にどのように変化するかがわかります。マウスの生後10〜12週齢はヒトの10代の後半から20代の前半に相当し、この時期以後、ヒトの場合と同じように抗体産生能は次第に低下していきます。

 高齢者によく使われている生薬・漢方薬を、若い元気なマウスと老齢マウスに飲ませて、抗体産生能にどのような効果が見られるかを比較したものが、図3のグラフです。

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この実験では3グループ(@水だけを飲ませたグループ、A生薬・漢方薬を1匹あたり0.5mgを飲ませたグループ、B1匹あたり5mgを飲ませたグループ)で抗体産生能を比べました。10週齢では、生薬・漢方薬を飲ませたグループは水だけのグループの約1.2倍に抗体産生能が増えていました。18ヵ月齢(ヒトの60〜70歳代位)では、水だけのグループの抗体産生能は若い10週齢マウスの60%程度しかありませんでした。しかし,0.5mgを飲ませると、抗体産生能は水だけのグループの約1.8倍に、5mgを飲ませると、約2.3倍に増えることがわかりました。この生薬・漢方薬には、18ヵ月齢のマウスの抗体産生能を、10週齢のマウスの能力に匹敵するほどに高める薬効があると考えられます。

 このようなことから、高齢期になって免疫機能が衰えても回復させることができると考えられます。ここに示した成績はマウスでの結果であり、ヒトにはそのままあてはめられませんが、ヒトでも同様の回復効果があると考えています。現在、マウスでみられた成績を十分に確かめるために、さまざまな角度から証拠固めの実験を続けているところです。

病理課 高木 康博

title3原虫症とは - その分類と感染様式 -

成11年4月1日「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」が施行されました。いわゆる感染症新法です。この新法では、従来のように感染症を法定伝染病、届け出伝染病といった区別ではなく、73種類の感染症を、疾患の重症度や危険度に応じて一類から四類までに分類しています(公衞研ニュース第7号参照)。このうちの四類感染症には、インフルエンザ等の61疾患が指定されており、アメーバ赤痢(赤痢アメーバ症)、クリプトスポリジウム症、ジアルジア症(ランブル鞭毛虫症)、マラリア症及びエキノコックス症の5種類の寄生虫症もこれに含まれています。このうち前4症を原虫症、エキノコックス症を蠕虫症と呼びます。

 原虫症とは単細胞の真核生物である原虫により、また蠕虫症とは回虫症や、条虫症(サナダムシ)の様な多細胞生物により引き起こされる寄生虫症のことです。

1.原虫症を分類すると

 人体に寄生する原虫類を形態学的に分類すると、

@ 根足虫類:赤痢アメーバ等

A 鞭毛虫類:トリパノソーマ、リーシュマニア、ランブル鞭毛虫、膣トリコモナス等

B 胞子虫類:マラリア、トキソプラズマ、クリプトスポリジウム等

C 繊毛虫類:大腸バランチジウム

の4種類になります。また、形態学的分類とは別に人への寄生部位で見れば、以下の4種類に分類されます。

@ 腸管寄生原虫:赤痢アメーバ、ランブル鞭毛虫、クリプトスポリジウム等

A 血液・組織寄生原虫:マラリア、トキソプラズマ、トリパノソーマ、リーシュマニア等

B 泌尿器寄生原虫:膣トリコモナス

C 元来は自由生活のアメーバが角膜や脳に寄生するアカントアメーバやネグレリアフォーレイ

2.原虫と感染様式

 原虫の生活史は様々ですが、人への感染に昆虫やダニ等のVector(媒介者)を必要とするものと、必要としないものがあります。原虫で汚染された水や食品を介して直接感染するものとしては、赤痢アメーバ、ランブル鞭毛虫、クリプトスポリジウム、トキソプラズマが挙げられます。媒介者を通じて感染する代表的な原虫はマラリア、トリパノソーマ、リーシュマニアです。表4に代表的な原虫の分類とその寄生部位、感染様式、症状を示しました。

 原虫症は、アフリカや東南アジアの発展途上国を中心に感染率及び死亡率が高い感染症です。また、先進国においても、水系感染の原虫症としてジアルジア症、クリプトスポリジウム症が注目を集めています。当研究所では、これの原虫症のうち特に腸管寄生原虫に関する調査研究を進めています。

ウイルス課 木村 明生


発行日:平成11年10月29日
編 集:大石、中村、山吉、桑原、片岡、野上
事務局:薬師寺 、渋谷(内線297)