薬剤耐性結核菌の迅速診断法 - DNAチップの開発-

核菌が再興感染症における重要な病原体となっている理由の一つとして、薬剤耐性菌の存在があります。化学療法開始前に薬剤耐性に関する情報があれば、耐性薬剤を除いた他の複数の薬剤を選択することで、治療の失敗や新たな耐性菌の出現を考えなくてすみます。そのため、薬剤耐性の迅速な判別は、結核治療の上で最も重要な課題の一つとなっています。

1.結核菌の薬剤耐性獲得機構

 感受性菌の中には、すでに自然に起こる変異によって耐性を獲得したものが一定の頻度で存在しています。薬剤投与により感受性菌は死滅しますが、耐性菌は生存し再び増殖します。仮に一億の菌を持っている患者が抗結核剤の一つであるイソニアジド(INH)のみを服用したとすると、約400個の菌がINH耐性菌として生き残ることになり、生き残ったINH耐性菌は再び増殖します。このINH耐性菌にリファンピシン(RFP)を用いれば、同様な機序によってRFPに対する耐性も獲得(2剤に対して耐性)し、この繰り返しにより多剤耐性結核菌ができ上がるわけです。

 理論的には、2剤を同時に併用した場合に菌が生き残る確率は掛算で求められ、その結果は非常に小さな値になるので、耐性菌の出現をほとんど考える必要はありません。しかし、耐性菌により発病している患者に対して薬剤を投与した場合には、感受性のある薬剤に対しても耐性を獲得する可能性があります。

2.結核菌の薬剤耐性獲得に関係する遺伝子とは

 結核菌の薬剤耐性のメカニズムについては、早くから生化学的、遺伝子工学的手法等を用いて研究がすすめられて来ました。その結果、耐性はそれぞれの薬剤が結核菌に作用する点に変異が起こる事により獲得される事が判明しました。以下にその例をあげます。

・INH耐性と菌細胞壁上の脂肪酸合成に関わる遺伝子の変異

・RFP耐性とRNA合成酵素遺伝子上の変異

・ストレプトマイシン(SM)耐性及びカナマイシン(KM)耐性と蛋白質合成に関わる遺伝子上の変異

3.結核菌の薬剤耐性遺伝子の迅速診断法

 これまでに、主な抗結核剤であるINH、RFP、PZA、EB、SM、KMの耐性に関与する遺伝子が同定され、遺伝子変異を検出する様々な方法が開発されましたが、必ずしも満足できる決定的なものはありませんでした。

 最近私たちは、薬剤耐性結核菌を検出するための新しい検査法「DNAチップ」の開発に成功しました。このDNAチップとは、ガラス板上に薬剤耐性に関与する遺伝子と互いに結合できる短い合成DNAを固定したものです(図1)。

図1 DNAチップによる結核菌の薬剤耐性鑑別法と検出例

PCR法により増幅させた薬剤耐性に関与する遺伝子と反応させて、変異遺伝子を検出します。図1には検出例も示しました。チップの左端に感受性型、その横に耐性型(複数)の遺伝子を検出できる合成DNAの断片を固定してあります。感受性菌では左端1列に最も強い反応スポットが検出できますが、耐性菌ではスポットのどれか一つが右側に移動します。検出例の(a)は感受性菌、(b)(c)は耐性菌です。この方法により、従来の培養検査法で6〜8週間を要していた薬剤耐性結核菌の鑑別が、6〜8時間で可能となりました。当所では大変有望な迅速診断法であると考えています。

病理課 鈴木定彦