平成8年度

『勤労者の生活活性化の推進事業』

報告書



概 要 目 次  


I. 健康評価指標としての免疫機能
免疫機能測定による中高年女子の健康度評価
慢性的ストレス負荷マウスの免疫系の経時的変化
II. 女性の健康診断結果と骨密度
某地域住民(女性)の健康診断結果と骨密度結果
幼稚園教諭および保育所保母の健康診断結果と骨密度結果
某製造業の女性事務系職員の骨密度と医学的検査
自治体事務職員と幼稚園教諭・保育所保母の比較
III. 質問紙調査の解析
中高齢者の社会的交流(つきあい)の実態および
社会的交流と精神健康度(GHQ)との関連
阪神淡路大震災の被害とストレス


概 要

 大阪府における長寿社会対策長期ビジョン推進の一環として、働く府民の健康維持・増進対策を探ることを目的として調査研究を実施した。本調査では労働衛生部を中心にプロジェクト研究班を編成し、大阪府立成人病センターの協力を得ながら進められた。 従来の様な経済の拡大が期待できない現状では、企業はリストラや合理化を進めており、そのために、労働の変則化、職種の変更や高密度化などが進み、その結果、日常生活が圧迫され健康に影響を及ぼす例がみられる。これまでの調査でもワークスタイルが日常の生活習慣に大きく影響することを把握しており、本年も引き続き、地方公務員、製造業、自営業者や専業主婦などの従業者を対照に調査解析を実施した。調査項目としては健康診断(身体計測、血圧、血液生化学的検査など)と質問紙調査(日常生活、健康状態、付き合いなど)の他に、新たな健康指標の開発と導入のために免疫機能、骨量と骨代謝指標などを測定した。主な結果は以下の通りである。

文頭

I.健康度評価指標としての免疫機能

1)免疫機能測定による中高年女子の健康度評価
 中高年女子を対照に健康に関わる諸事項に関する聞き取り調査を行うとともに、免疫機能の指標として、末梢血リンパ球のPHAに対する増殖性、PHA刺激によるIL-2(インターロイキン2、Th1型サイトカイン)、IL-4およびIL-10(Th-2型サイトカイン)の生産量を測定し、関連性を解析した結果を以下に示す。
(1) 専業主婦と自営業者は他の職業と比べPHA反応の平均値が極めて低く、免疫機能が低下している。PHA反応の高い人ほど仕事のストレスが少なく、ストレス関連性症状・疾患も少なく、リスクファクター指数も小さい傾向がみられた。
(2) IL-2産生とIL-10産生は誘導されたがIL-4産生はほとんどみられなかった。このことは、主婦および自営業者では免疫機能が低いにもかかわらず、Th2型へ移行していないことをことを示している。
(3) IL-2量とPHA反応との間には強い相関性がみられ、IL-2量が高い人では喫煙量、生活のストレス・ライフイベントが少なく、リスクファクター指数が小さい傾向がみられた。
(4) 自宅で老人介護を行っている人は、PHA反応およびIL-2産生量が顕著に低く、老人の介護が大きな負担になっていることが判明した。
 以上の結果から、専業主婦および自営業者では、免疫機能が低く、ストレスが解消されていないことが明らかになった。また、IL-2産生量はPHA反応とともに健康度評価のパラメータとしての有用性が示された。

2)慢性的ストレス負荷マウスの免疫系の経時的変化
 慢性的ストレスの免疫系への影響を実験動物で検討するため、マウスに単独隔離ストレスを2〜90日間負荷した。末梢血、脾臓および腸間膜のリンパ球の細胞性免疫機能、サイトカイン産性能および細胞構成比におよぼす影響を経時的に調べた結果を以下に示す。
(1)ストレス負荷マウスの体重は隔離後に低下し、その後対照に近づくが実験期間の後期には再び低下し、肉眼的にも顕著な疲弊が見られた。
(2)コンカナバリンA(ConA)に対するTリンパ球の増殖性(細胞性免疫)は、末梢血、脾臓では、隔離直後に低下し、その後増大し、回復した。これに対して、腸間膜では、隔離直後に増大し、その後顕著な低下を示した。
(3)ConA刺激によるリンパ球のIL-2産生能は、すべての臓器でConAに対するリンパ球の増殖性と同様なパターンを示した。末梢血および脾臓リンパ球のIL-4産生は隔離直後に低下し、その後回復した。これに対して腸間膜リンパ球では、隔離2〜30日に顕著に増加した。
(4)各臓器のTリンパ球/Bリンパ球比は、末梢血では隔離初期に増大したが、その後正常に戻った。腸間膜リンパ節では30日以降に顕著に低下した。Tリンパ球のCD4/CD8比は各臓器とも隔離開始直後に増大したが、その後低下した。
 以上の結果から単独隔離ストレスは初期にはすべての臓器に変化およぼしたが、慢性的には、特に腸間膜リンパ節では、Tリンパ球の分裂刺激剤に対する増殖性およびIL-2産生が顕著に低下し、細胞の構成比に変化が見られるなど、ストレス影響を観察する臓器として有用であることが判明した。また、腸間膜リンパ節では一時的にTh2型への移行がみられる事が判明した。


文頭

II.女性の健康診断結果と骨密度

1)某地域住民(女性)の健康診断結果と骨密度結果
 大阪府下某地域の40〜70歳の女性地域住民の骨密度を中心に調査した。前年も同様な調査を行ったが、調査対象者は異なっている。骨密度、各種臨床検査値、身体計測値などは昨年度の対象とほぼ同じであった。 1骨密度は45〜49歳から60〜64歳まで直線的に低下していた。このため、骨密度を各年齢の平均的骨密度で補正し、日常の歩数と比較すると、日常歩数の多い者は少ない者に比べ有意に骨密度の年齢補正値が高く、現時点での運動が骨密度に好影響を与えることが示唆された。 2骨密度は骨型アルカリフォスファターゼ、酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼおよび尿中ピリジノリンとの間に有意な相関が認められた。一方、総アルカリフォスファターゼ、総酸性フォスファターゼは、骨密度との相関は高いが、肝機能障害など他の要因により影響される事例が散見された。 3ダイエットの経験者は骨密度が有意に低かった。

2)幼稚園教諭および保育所保母の健康診断結果と骨密度結果
 地方自治体の女性従業員の中では比較的日常運動量が多いと思われる幼稚園教諭と保育園保母の、骨密度と関連項目を比較した。臨床検査値からは、幼稚園教諭の血糖値と中性脂肪の異常率は保育園保母に比べ多かった。骨密度の異常値者は両職種とも40〜50代であった。また、一日の歩数はともに10,000歩を超え、勤務中の歩数でも6,000歩を超え運動量の多い職種であった。問診票からも、一日15分以上の運動や休日の屋外にいる時間数などが高骨密度と相関の高い因子であることが示唆された。

3)某製造業の女性事務職員の骨密度と医学的検査
 対象者の大半が20歳代であり、肥満度の異常者率も8%と低率であった。骨密度は要医療機関受診者4%、要生活指導者42%、正常者54%であった。全般的には、骨密度は加齢とともに減少がみられ、一方、総アルカリフォスファターゼ、骨型アルカリフォスファターゼおよび尿中ピリジノリンなど骨代謝指標は増加していた。
 握力は骨密度と有意に相関しており、加齢とともに低下がみられた。歩数については、年とともに良く歩いている者が多い傾向であり、見かけの上では、骨密度の低い者の方が良く歩いている傾向が現れた。
 低密度群(骨密度指数72未満)の特徴は、「子宮、卵巣の手術をした」、「閉経している」、「現在、腰痛がある」および「普段、インスタント食品をよく食べる」者の割合が有意に多く、「足関節痛がある」、「膝関節痛がある」、「食事を抜く事がある」者の割合も多い傾向があった。一方、「学生時代に運動をしていた」および「子供時代によく乳製品を摂った」者の割合は低い傾向であった。20歳代のみでは、高密度群(骨密度指数72以上)には、学生時代の週当たりのスポーツ時間が有意に長かった。

4)自治体事務職員と幼稚園教諭・保育所保母の比較
 骨密度と日常歩数について、大阪府下某衛星都市の公立幼稚園教諭・保育園保母154名(平均年齢40歳)と一般事系公務員135名(平均年齢41歳)について比較調査を行った。
骨密度指数は両群とも82であり、年齢階層別に見ても両群に差は無かった。しかし、50歳代では、事務系職員では骨密度60〜70が、幼稚・保育園職員では80〜90が最も多く、骨密度分布に差が認められた。日常歩行量、勤務時間中歩行量を比べると、20歳代から40歳代までは幼稚・保育園職員は多いが、50歳代では差は認められなかった。日常の生活習慣では屋外に居る時間は幼稚・保育園職員の方が有意に長く、日光に当たる機会が多いことが伺われた。
 50歳代で骨密度の高い群では、両群とも、現在も定期的に運動をしている、子供のころ乳製品をよく取った、ダイエットや欠食経験の無いという特徴を持っていた。


文頭

III.質問紙調査の解析

1)中高齢者の社会的交流(つきあい)の実態と一般精神健康(GHQ)指標との関連
30〜70歳代(男性610名、女性1,453名)について、面接を含む質問紙調査を行い、つきあいや家族交流と一般精神健康(GHQ)指標との関連を探った。
近所づきあいでは、男性は「なし」が、女性は「まあまあ」が最も多く4割ほどを占め、女性は男性よりも近所づきあいがよく、近所づきあいがよいほどGHQ指標はよかった。また、友人の多寡では、男性は「どちらかといえば少ない」が、女性では「どちらかといえば多い」 が最も多く約4割を占めていた。仕事以外で友人や仲間と過ごす時間は、男女とも、週1〜4時間が多く、1/3を占めており、「無し」も男性で28%、女性で18%いた。友人や仲間と過ごす時間が多い者ほどGHQ指標がよかった。地域社会活動やボランティア活動は、「行っていない」が、男女とも半数を占め、参加している者では、男女とも年1〜数回が最も多く、2割前後であった。男女とも60歳以上で社会活動への参加が増加している。この活動もGHQ指標と関係した。家族交流では、一緒に摂る夕食頻度、一緒に過ごす時間、夫婦・家族共通の趣味・スポーツなどいずれもGHQ指標と密接な関連を示した。

2)阪神淡路大震災の被害とストレス
 阪神淡路大震災(1995/1/17)被災地区の勤労者を対象に、震災1年半後に、被災の実態とストレス関連諸症状に関する質問紙調査をタクシー従業員(1,216名)に対して実施した。
 家屋被害が大きく元の家に住めないが約1割、修理を要したが住めたが約4割、家屋が軽微・無事は約半数にとどまった。避難所・テント生活や友人宅・親戚宅などで避難生活を送った者は約3割ほどいた。職業生活では、乗務数減、道路の麻痺、乗客数減等のため運賃収入が大幅に減った者が6割にも達し、一年半後でも1/4が大幅な運賃収入の減少を訴えていた。また、通勤不便、危険を危ぶみながらの仕事、家庭が心配であったが仕事に出た、職場との連絡がとれなかった等の問題があった。
 各種のストレス症状の訴えは家屋被害が大きいほど訴えが多く、時間経過による減少が少ない。外傷的な出来事の再体験をあらわす症状の一つ「ちょっとしたゆれでも心臓がドキドキ」の訴えは家屋被害のあった群では震災直後8割にものぼり、元の家に住めなかった群では1年半後でも約半数が訴えていた。


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