平成9年度

中高齢者の健康と生きがい
に関する調査


報 告 書



概 要 目 次  

I.
地方自治体退職者の仕事・生活・健康
同居者、健康、仕事、自由時間、生活の満足度・充実感
II.
健康評価指標としての免疫機能
女子高齢者のライフスタイルと免疫機能の関連性
老化指標の開発
慢性的ストレス負荷マウスの皮膚免疫系の変化
III.
女性の骨密度と骨代謝指標
健康教室一年間の評価
骨代謝指標のサンプリングと保存性の検討
某地方自治体研究員の骨密度



概    要


先頭
I. 地方自治体退職者の仕事・生活・健康

 某地方自治体退職者を対象とした質間紙調査(1997年実施)により、就労、生活・健康の実態を調べた。調査票の配布と回収は郵送によった。回収した調査票1611通(回収率65%)のうち、55〜89歳の1587(男性1416、女性171)通を集計した。以下にその概要を示す。

同居者: 一人暮らしは全体の8%で加齢とともに増加した。子供夫婦と同居する者は全体では12%であるが65歳を境に大きく増加した。また独身の子供と同居する者も25%おり、特に65歳未満で多い。親と同居する者は7%、孫と同居する者が10%いた。同居家族に要介護者をかかえているのは、9.4%(男性9%、女性11%)であり、そのうち4割は父母・養父母で、4割は配偶者であり、高齢者が高齢者の面倒をみている実態がうかがえた。

健 康: 健康状態は非常に不調・療養中が、60歳までは2.6%にすぎないが加齢に伴い増加し、85-89歳では30%にまで増加した。まあまあを含めた健康者は、60歳まで93%と大半であるが、加齢に伴い減少し、85-89歳54%となる。過去1年内の健康診断の受診率は74%であり、加齢に伴い減少した。
 男女とも健康保持への関心は高く、運動には6割、食事・栄養には7割、睡眠・休養には半数強が注意を払っていた。特に、運動・ウォーキングなどでは男性は70代前半までは6割が行うが、75-84歳では半数弱になった。女性は60代前半は7割と多いが、60代後半以降急激に減少した。

仕 事: 就業希望年齢については、最も多いのは男性では70歳まで(34%)、女性では65歳まで(16%)と70歳まで(16%)で、それ以降も、かなりの高齢まで就業希望があった。就労している者では、より高齢まで就労を希望していた。一方、働いていない理由としては、働きたいが適当な仕事が見つからないが60-64歳で未就労者の半数を超し、65-69歳でも1/4を占めた。働く必要なしは、男性では2.5%に過ぎないが、女性では16%あった。
 就業比率は、パート労働、自営を含め加齢に伴い減少した。常雇用比率は60代前半は男性で退職前管理職3/4、非管理職1/4、女性1/5、60代後半は男性退職前管理職1/3、非管理職1/4、女性1/5、70歳前半は男性で退職前管理職1/5、非管理職1/8、女性は皆無であった。75歳以上の常雇用比率はわずかであった。
 その仕事内容は、男性では、経営・管理・折衝、事務、専門技術、営業・販売が多く、経営・管理・折衝と専門技術的な職業はかなり高齢まで仕事を続けていた。女性は事務、医療・福祉・介護、専門技術、教育、輕作業が多く、医療・福祉・介護および専門技術はかなり高齢でも仕事を続けていた。
 労働日数は、男女とも3割以上が週4日までであり、労働時間をみると、1日5時間迄の者が男女共2割を占めた。
 収入、仕事内容とも「十分満足」は15〜20%、「まあまあ」を含めると収入では75%、仕事内容では85%が満足していた。不満を感じている者は、収入では男性の1/4、女性の1/3、仕事内容では男女共1/7であった。

自由時間: 自由時間の過ごし方の第7位までをあげると、男性では、テレビ、旅行、趣味、家族との会話・食事など、友人との会話・食事・酒など、運動・スポーツ、買い物であり、女性では、旅行、友人との会話・食事・酒など、テレビ、買い物、趣味、家族との会話・食事など、運動・スポーツであった。
 自治会活動やボランティア活動などを行っているのは男女共約1/4で、どの年齢階層も低調であった。老人クラブ、運動クラブ、趣味の会、学習サークルなどに、男性は4割、女性は半数が加入していた。男性で65歳以降、女性で60歳以降で多くなることから、リタイア後の加入と推測された。趣味などは年齢に関係なく男女共約6割が行っていた。

生活の満足度・充実感: 全体の9割以上と多くは満足感・充実感を感じているが、それでも否定的な者が1割弱おり、女牲の訴えは男性よりも多かった。
 「打ち込んでいるものなし」は全体では3割であるが、60代後半で若干増加し、80代以降は大きく増加した。「仕事」に打ち込んでいる者は50代は4割と高いが、60代以降のリタイアの増加に伴い減少した。「運動」も加齢に伴い50代後半の1/5から70代後半の1/20まで次第に減少した。趣味は年齢に関係なく打ち込んでいる比率(3〜4割)が高い。社会的活動は全体では7.2%で60代以降がそれ以前より若干高い。信仰は全体では3.7%とそう多くはないが、加齢に伴い若干増加していた。
 困っていること・今後の不安などについては、男性では、健康不安、家族の健康間題、収入不安、健康問題、経済間題、要介護者の面倒などで、女性では、健康不安、収入不安、健康間題、家族の健康間題、経済間題、要介護者の面倒が上位に上がってきた。そのほかには生きがいのなさが、男性で5.4%、女性で9.9%訴えられていることが注目された。


先頭
II. 健康評価指標としての免疫機能

 (1)女子高齢者のライフスタイルと免疫機能の関連性
 今回は、61-80才の専業主婦を対象に健康に関わる諸項目に関する聞き取り調査を行うとともに、末梢血リンパ球の免疫機能を測定し、関連性を解析した。聞き取り調査は、ライフスタイル、ストレス、生活出来事、経済的余裕、健康状態などの項目を含み、個人の総合的な健康情報を得ることを目指した。個々の回答の中に健康を害するリスクファクターがあるかどうか当所で作成した基準で判定し、点数化し、合計してリスクファクター指数とした。一方、末梢血リンパ球を分離培養し、分裂刺激因子フィトヘムアグルチニン(PHA)やスーパー抗原(Streptoccocal enterotoxin A; SEA)に対するTリンパ球の増殖能、インターロイキン2(IL-2; Th1型サイトカイン)およぴIL-4(Th2型サイトカイン)の産生能を測定した。その結果、次のことが判明した。
1) 61才以上の専業主婦は中年(41-60才)に比べ趣味やスポーヅなど余暇の時間が有意に長かったが、リスクファクター指数そのものに有意差はなかった。Tリンパ球の増殖活性、IL-2産生能は両群ともに低いが、有意な差はみられなかった。中年のIL-4産生量は低いが、今回の高齢層より有意に高かった。すなわち、今回の年齢範囲の高齢者では免疫機能の低下はほとんどみられないが、ややTh2型に傾いていることが判明した。
2) PHA反応とSEA反応およびPHA反応とIL-2産生はそれぞれ高い相関性を示し、3つのパラ メーターを同時にみることによってTリンパ球機能測定結果に高い信頼性が得られた。
3) 同居家族数、趣味の時間および家事労働の時間などのライフスタイルと免疫機能は有意な正の相関性を示し、不健康なライフスタイルと免疫機能は有意な逆相関性を示した。
4) PHA反応、SEA反応、IL-2産生量はリスクファクター指数と有意な逆相関性を示し、健康度測定のパラメーターとして有用であることが判明した。
以上、高齢専業主婦のライフスタイルや総合的な健康度は免疫機能と密接に関連しており、健康な老後を過ごすための新たなライフスタイルの指針作り行う上で、免疫機能による解析がきわめて有用であることが判明した。

 (2)老化指標の開発
 生体が老化するとアポトーシス(細胞自滅)が起こり、体細胞数の減小や臓器の萎縮、硬化などにいたる。アポトーシスは能動的な死であるために人為的に制御することが可能であると考えられている。ライフスタイルの改善によってアポトーシスの進行を遅らせることができるかどうかフィールド調査での測定系の確立を目指した。
今回の予備テストで、末梢血単核球を48時間培養すると、非付着性細胞群に高い比率でTリンパ球が見出され、このシステムでTリンパ球のアポトーシスの程度が測定可能であることがわかつた。PHA刺激でTリンパ球のアポトーシス関連蛋白分子Bc1-2およびFas発現の増大がみられたが、Tリンパ球のDNAの断片化(アポトーシスの終末過程)を促進するといわれているコーチゾン系のホルモンの添加でこれらの発現はむしろ低下した。今回の対象者は人数も少なく、年齢の幅も小さかったが、加齢によりTリンパ球の比率やBc1-2発現が減少し、Fas発現が増大する傾向がみられた。

 (3)慢性的ストレス負荷マウスの皮膚免疫系の変化
 人との接触のない一人暮しは慢性的な精神的ストレスとなる。ストレスはアトピー性皮膚炎、喘息や関節炎など炎症性疾患を増悪させると云われている。そこでその機序を明らかにするために精神的ストレスの一種、単独隔離ストレスをマウスに負荷後、低分子感作性物質(ハプテン)を塗布し、アレルギー性接触皮膚炎の誘導およびそれに関わる細胞の機能や細胞表面の変化を90日間にわたって経時的に調べた。その結果、接触皮膚炎の発現はストレス負荷によって顕著な影響を受けることが判明した。ストレス負荷初期(ショック相ないし警告期)には低下したが、中期(半ショック相ないし抵抗期)には顕著に高進し、後期(疲弊期)には再び低下へと向かった。皮膚に塗布したハプテンをトラップして領域リンパ節に流入し、接触皮膚炎誘導に働くランゲルハンス細胞の抗原提示能はストレスによる接触皮膚炎の変化のパターンと平行関係にあった。また、表皮の大部分を占めるケラチノサイトも単独隔離ストレスによって顕著な変化を受けていた。ストレス負荷によって劇的に細胞増殖が抑制され、分化が促進された。ケラチノサイトの抗原提示能はストレスによって、ランゲルハンス細胞とは逆相関するパターンの変化を示した。ケラチノサイトによるIL-1αやTNF-αなど炎症性サイトカインの産生はストレスによって高進し、ICAM-1やE-selectinなど炎症性細胞の浸潤促す接着分子の発現も高進するなど炎症を増強させる方向に変化していた。以上の結果は、単独隔離ストレスは皮膚に複雑な影響を及ぼし、アトピー性皮膚炎など炎症を増悪させている可能性を示している。


先頭
III.女性の骨密度と骨代謝指標

 (1)健康教室一年間の評価
 中高年女性の骨密度とライフスタイルとの関連性では、生活習慣として運動を継続している人、毎日牛乳を飲む習慣のある人、閉経していない人では、骨密度が高い傾向があることを報告してきた。今回、骨密度の特に低い中高年女性45名を対象に、骨密度に関連した運動・栄養指導および骨密度に関する学習会を一年間にわたり行い、その効果について検討した。対象者の平均年齢は59±6.3歳で、約9割は閉経していた。一年後の骨密度はわずかに低下の傾向がみられた。しかし、対象者の年代の骨密度は加齢と共に低下するため、年齢補正骨密度を求め、食習慣、生活習慣などと比較した。一年間で約半数は年齢補正骨密度が増加し、2/5は低下していた。この増加群の特徴として、一週間の牛乳摂取量が増加しており、一日歩行量が増加していたことであった。このことは、閉経後の高齢期であっても、運動・栄養など生活習慣の改善で、骨密度の低下を抑える効果のあることを示唆している。

 (2)骨代謝指標のサンプリングと保存性の検討および体脂肪計の比較
 女性の中高齢期では、加齢に伴い減少する骨密度に先行して、骨代謝指標は増加すると言われている。尿中デオキシピリジノリン(DPYD)や血清中骨型アルカリフォスファターゼ(ALP)など骨代謝指標の測定は骨密度低下の予防のために重要である。これら骨代謝指標のサンプリングとその保存性について検討した。
 血清中骨型ALPの測定では、血清分離まで氷冷下では、3時間まで変化なく、また、血清分離後凍結保存では1カ月までは測定値に変化はみられなかった。
 尿中DPYDのサンプリングは起床2時間後頃が最も高いが、スポット尿より早朝尿の方が骨密度と負の相関が高く、採尿のし易さから早朝尿が実際的と思われた。そのサンプルは、血清中骨型ALPと同様に凍結保存では1カ月までは測定値に変化はみられなかった。
 ライフスタイルとの関連の深い体脂肪の測定器は各種市販されており、市販の体脂肪計3種の比較を行った。表示値に差はあるものの、有意差は認められず、機種間の測定値の相関は高かった。

 (3)某地方自治体研究員の骨密度
 これまで中高年主婦や事務職および保育園保母・幼稚園教諭など勤労主婦を対象に、骨密度と日常生活との関係をみてきた。日常の運動量の多い保母・幼稚園教諭は、50歳台になると運動量の少ない事務職より骨密度が高いことを示してきた。
今回、某地方自治体研究職について、骨密度、骨密度マーカー、運動量など日常生活の調査を実施した。対象(58名)の平均年齢は42±13(23〜66)歳で骨密度指数の平均は81±15(55〜129)であった。年齢幅が広いため、年齢補正骨密度指数を求め、それと正の相関の高い項目は身長、握力、一日歩数であり、負の相関の高い項目は体脂肪、血清中骨型アルカリフォスファターゼ、尿中デオキシピリジノリンであった。特に、今回の対象の一日歩数は他の職種に比べ多く、保育園保母・幼稚園教諭と同程度に高かった。また、運動の面からみると、現在も学生時代も運動をしている群の骨密度は最も高く、その逆に、現在も学生時代も運動をしていない群が最も低く、両者で有意な差が認められた。

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