平成10年度

中高齢者の健康と生きがい
に関する調査


報 告 書

 大阪府立公衆衛生研究所・労働衛生部 編 (平成11年3月)
 A. 男子定年退職者についての種々の側面からの健康調査、B. 勤労女性の骨密度とライフスタイル調査,C. 定年退職者を対象とした、地域社会活動・ボランティア活動、就労、生きがい・満足度についての質問紙調査を平成10年度に実施しました。以下にそれらの概要を示します。


概 要 目 次  

A.
男子定年退職者についての種々の側面からの健康調査

B.
勤労女性の骨密度とライフスタイル調査

C.
定年退職者を対象とした、地域社会活動・ボランティア活動、就労、生きがい・満足度について




概    要


先頭
A.高齢者の健康実態調査

 某地方自治体退職者から健康調査の協力者を募り,男性約200名を対象に,T.免疫機能,U.DNA損傷量,V.コレクチン,W.血液一般検査,X.反応時間測定を含む健康調査を行った。
T−1.男子高齢者の生活習慣と免疫機能
 高齢者における免疫機能は、その後の罹患や寿命と関連しているといわれている。本研究は免疫機能を向上させる生活習慣を明らかにすることを目的としている。今回は、61-76才の某地方自治体男子退職者を対象に健康に関わる諸項目に関する聞き取り調査を行うとともに、末梢血T細胞(リンパ球の一種)の免疫機能を測定し、関連性を解析した。
 聞き取り調査は、生活習慣、ストレス、生活出来事、経済的余裕、健康状態などの項目を含み、個人の総合的な健康情報を得ることを目指した。個々人の回答の中に健康を害する危険因子があるかどうかを当所で作成した基準で判定し点数化し、合計して危険因子指数とした。
 一方、末梢血中の単核球を分離培養し、T細胞の分裂刺激因子フィトヘムアグルチニン(PHA)やスーパー抗原(Streptoccocal enterotoxin A; SEA)に対する増殖活性、インターロイキン2(IL-2; Th1型サイトカインでガン免疫や細胞性免疫に働く)およびIL-4(Th2型サイトカインでIgE抗体産生などに関係する)の産生能を測定した。
 その結果、以下のことが判明した。@対象者は、生活習慣病関連性の症状および疾患数が多く、危険因子指数が高かった。APHA反応、SEA反応およびIL−2産生能平均値は低く、中でもIL−2産生能は顕著な低値を示した。Bこれらの免疫パラメーターの加齢による影響は認められなかった。C職業を持つ人の免疫機能は、持たない人に比べ、やや高い傾向がみられた。以前の調査で某地方自治体中年男子の免疫機能が顕著に低いという結果を得ている。今回の結果は、ストレスなどによる中年期の免疫機能低下が、退職後の免疫機能に永続的な影響を及ぼし、生活習慣関連性の症状および疾患の拡大をもたらした可能性を示している。従って、この集団は健康増進のためにライフスタイルを改善し、中年期における健康管理を見直す必要性があると考える。

T−2.男子高齢者の生活習慣と老化指標

 生体が老化するとアポトーシス(細胞自滅)が起こり、体細胞数の減少、臓器の萎縮、硬化などにいたる。従って、アポトーシスが起こり易くなっているかどうかは老化指標となる可能性がある。Bcl−2はT細胞(リンパ球の一種)内に蓄積されているアポトーシス抑制蛋白であり、加齢とともに減少する傾向にある。他方、FasはT細胞の表面に発現されている蛋白で、Fasリガンドが結合すると細胞を死に至らしめるアポトーシス促進蛋白であり、加齢とともに増加する可能性がある。
 昨年度は、末梢血中のT細胞をPHAで刺激して培養し、この2種の蛋白質を発現させ、フローサイトメトリーで測定することによりその発現量を測定する系を確立した。今年度は某地方自治体男子退職者を対象に、聞き取り調査と末梢血採血を行い、T細胞数、T細胞のBcl−2発現およびFas発現量を測定し、健康や老化に関わる諸項目と、これらの蛋白質の発現量との関連性を検討した。
 その結果以下のことが明らかとなった。@T細胞数、T細胞のBcl−2発現量およびBcl‐2/Fas比は加齢とともに有意に減少した。A職業を持つ人はそうでない人にくらべ、T細胞数、Bcl−2発現量およびBcl‐2/Fas比が有意に高かった。B職業のある人では、趣味・スポーツの時間が長いほど有意にT細胞が多かった。今回調査した集団は、T−1に記述したように、免疫機能の極めて低い集団であったが、老化指標は加齢に相関して明瞭に発現されていることが判明した。また、職業を持つ人の方が老化が遅延するなど、生活習慣との関連性が明瞭にみられた。以上のこのことから、健康な生活習慣が老化を防止することが示唆される。

U.活性酸素によるDNA損傷

 活性酸素はDNA損傷を引き起こす。生活要因との関わりを調べるため、これまで中年男性を対象に、ライフスタイルや運動量の調査と共に末梢血白血球DNAの8-水酸化グアノシン(8-ohdG)量を測定してきた。その結果、運動習慣とDNA損傷との強い関わりが明らかになった。
 本年度は高齢男性(60〜75才)112名を対象として、過去の中年の結果と比較した。DNA損傷量は高齢者グループに有意な高値が認められた。一方、運動習慣や疾病との関係は認められなかった。DNA損傷は加齢により増加することが示唆されたが、さらに異なった高齢者集団での調査が必要である。

V.コレクチンの血中濃度の年令による推移

 コレクチンは、細菌のみならず酵母やウイルスなど広範囲の微生物に対する基礎免疫に関与している可能性がある。しかし、どのような機序で宿主の防御に関わっているかについては、詳しくは解明されていない。最近、コレクチンが補体のカスケードと並行して補体の活性化を導くことが明かとなり、注目を集めている。また、凝集活性により病原体を物理的に排除しやすい大きさに整える働きをしている。これらの機能が宿主の防御に関わっていることはまちがいない。従って、コレクチンの血中濃度の年令による推移を把握することは基礎免疫能の一端を把握する上で重要である。
 本研究では20歳代〜80歳代388名を対象に、コレクチンの一つであるマンナン結合蛋白質の血中濃度の測定を行った。マンナン結合蛋白質の濃度はヒト血清においては平均1.04μg/mlであった。最低濃度は検出限界の0.03μg/ml以下であった。最高濃度は4.70μg/mlであった。また、マンナン結合蛋白質の濃度は20代から50代にかけて減少傾向を示すものの、60・70代ではむしろ増加傾向がみられた。

W.血液化学・臨床検査結果

 臨床検査結果を中心に整理し、定年退職後の健康状態、同年代の一般住民との比較、体脂肪率との関係について検討した。結果は以下のとおりである。
 @ 本調査の対象者(男性)には、BMI、血圧、総コレステロール、中性脂肪およびHbA1cなど生活習慣病に関連する項目に異常値を示す者が高率にみられた。
 A血清アルブミン値から、地域住民に比較して過栄養の者が多いと考えられ、そのことが中性脂肪や尿酸値に影響を与えていることが示唆された。
 BBIA法による体脂肪率はBMIとよく相関し、体脂肪率の増加に伴い中性脂肪およびGPTの異常値率が増加することから、BIA法による体脂肪率の測定は肥満の指標として有用であると考えられる。

X.高齢者の反応時間および握力

 反応時間は機器システムの操作や車両の運転において、操作性・安全性の観点から考慮されなければならない人間要因である。190名の高齢者(60〜75歳)に,単純反応課題(表示画面に何か提示されればキイを押す)、弁別反応課題(数字1の提示にキイ1、数字2にキイ2を押す)、判断反応課題(提示された数字が偶数か奇数かを判断し,キイを押す)という3種類の課題を課し、各反応時間を測定した。
 61〜65歳の各課題の平均反応時間はそれぞれ、296、521、736msec.であり、各課題とも60代前半から後半の5歳の加齢で8〜10%、60代前半から70代前半の10歳の加齢で18〜19%の反応時間の延長をみた。
 同時に調査した握力は、61〜65歳が右手37.2Kg、左手35.7Kgであり、66〜70歳は右手37.6Kg、左手35.0Kgと61〜65歳に比べて変化を示さないが、71〜75歳になると右手33.8Kg、左手31.8Kgと、60代前半に比べ右手9.1%、左手10.9%の低下を示した。




先頭
B.勤労女性の骨密度およびライフスタイルの職種別比較

 5事業所で働く勤労女性(n=394)を対象として骨密度およびライフスタイルの職種別比較を行った。骨密度は、事務職Aが製造従事者に比較し有意に高値を示した。食生活習慣は、事務職Aは他の4職種に比較し、肉、魚、大豆、野菜、海藻等の食事摂取量が有意に多かった。一日歩数は、事務職(AとB)は他の職種に比較し有意に少なかった。勤労女性全体の一日平均歩数は10,622歩であり、主婦の平均歩数7,418歩に比較し有意に多かった。歩数9,000歩以上とそれ未満の2群の骨密度比較は、9,000歩以上群が有意に高値を示した。握力は骨密度と有意な相関関係を示した。
骨密度を結果変数、生活習慣を説明変数とした重回帰分析は、年齢、インスタント食品摂取は骨密度の減少に、握力、牛乳摂取量、BMI、休日のスポーツは骨密度の増加に関係することを示唆した。


先頭
C.退職者の地域社会活動、就労、生きがい・満足度(質問紙調査結果)

<方法>

 某地方自治体退職者を対象とした自記式の質問紙調査(1999年2月実施、配布・回収とも郵送、回収率77.4%)から、主に60〜80歳の男性回答者757名の資料を分析した。

<結果>

●健康状態
 健康状態を、非常に健康、まあまあ健康、あまり健康でない、軽い病気、重い病気とわけて尋ねた時、「非常に健康」あるいは「まあまあ健康」と答えた者の比率は,全体(男女込み)の81.8%であった。年代別では60代前半、後半,70代前半、後半,それぞれ、89.7、83.5、77.5、70.8%と加齢に伴い減少する。通院中の者の比率は、60代前半、後半,70代前半、後半、それぞれ、48.1、59.9、80.1、77.2%と加齢に伴い増大する。特に70歳を境に急増している。

地域社会活動・ボランティア活動
 町会・自治会への加入・活動状況は、「積極的に活動」が13.2%、「まあまあ参加」が20.6%である。また「たまに参加」は43.2%と多い。他方、「非加入・自治会なし」が15.7%、「無回答」が7.3%あった。
 老人会への参加は25.4%に過ぎない。しかし、仕事から完全にリタイアする者が多い70歳以降は老人会への参加が50%を超える。
 神社・寺院の総代や世話をしているは、神社4.5%、寺院6.7%である。
 各種のボランティア活動を行っている者は、「公園・道路・神社などの清掃など:15.1%」、「趣味・学習活動の指導や世話:14.0%」、「福祉・教育関連の世話や活動:11.2%」、「運動・スポーツの指導や世話:6.3%」、「環境保護関連の活動:5.7%」である。
 地域活動でよかったことがらとしては、@地域行事・伝統行事、A旅行や親睦会・レクレーション、B運動・趣味などのクラブ活動や学習会、C清掃などの地域ボランティア活動が挙げられ、なにがよかったかと言えば、D地域の人々と知り合え、コミュニケーションが深まったことが強調されていた。

●地域社会と行政との関わりについての意見
 行政支援などのあり方に関して、@個々人の違いを大切にする、A不平等感をなくす、B高齢者施策の立案段階から高齢者の意見を取りいれる、C介護・福祉のなど公営施設とサービスの充実、D高齢者向けの健康相談・管理体制、E生涯教育の支援の充実とアドバイザー的役割者の育成、F高齢者のネットワークづくり、G高齢者と行政・サービス提供者との双方向情報提供システムの構築、Hバリアフリー社会を、I地方行政経験OBに活躍の場をといった意見が寄せられた。

●就労の状況
 パートや自営を含めて、60代前半は87.4%が就労しており、その3/4は常雇用である。加齢に伴い、60代後半60.6%(常雇用41.8%)、70代前半38.4%(常雇用35.6%)、70代後半18.1%(常雇用23.5%)と就労者比率および常雇用比率は減少する。また、就労者の24.0%は、仕事は自分に「十分適している」、62.6%は「まあまあ適している」と回答しており、86.6%と働いている人の大部分は自分に適した職に就いている考えている。
 『定年後の仕事で、定年前の知識・経験を活用できたか』では、「十分活用:44.1%」、「まあまあ活用:39.6%」と、多くの者が活用できたと考えており、「あまり活用できなかった」は8.2%であった。

●高齢労働の負担
 @新たな知識の吸収が難しく、パソコン・ワープロ、ファクスなどの新しい事務機器が使いづらい。A体力の低下で「疲れやすくなった」や「残業が負担」が多い。気力の衰えを感じている人もいる。B視力および聴力の低下による仕事のしづらさの自覚も多い。C記憶力の衰えも多く、「人の名前が思い出せない」、「判断が遅れることが多い」、「仕事の能率が悪くなった」と訴える人がいる。D「満員電車での通勤がつらい」ので早朝の電車に乗る、「長い通勤時間が負担」など通勤負担も多く訴えられる。E勤務時間や仕事内容も現役時代と異なり負担に感じる人もいる。また、F再就職先での人間関係を新たに築かなければならないことや若い人たちとの考え方の違いも負担になっている。G健康の問題では,「病気による体力不足で仕事が負担」、「仕事と病気加療の両立が困難」など本人の病気が仕事を続ける上で障害になっていることもある。

●高齢労働の望ましい形態
 @常勤で一般の職員と同様に勤務し、同等の賃金を得るべきと考える人もいるが、A低賃金であっても、勤務日数や一日の勤務時間を短くした勤務を望む人が多い。週3日前後の出勤で一日6時間程度の勤務を望む人が多い。また、B高齢者は年齢の上昇に従って、勤務日数・勤務時間、賃金を減らすべきという意見も多かった。理由として、体力の衰えや自分の自由時間の確保などをあげている。C勤務地は自宅に近くで、D始業時間は10時頃など通勤ラッシュを避けた時差出勤を希望している人が複数あった。E仕事の内容は、過去の自分の経験や専門性を生かせる職種の希望が多い。F就労の目的として、収入よりも健康維持や生きがいに重点をおいている人も多くあった。G各人の知識や体力、健康状態に適した就労が大事という回答も多かった。そのほか、H働く必要は無いと考えている人もいるが,非常に少数であった。

●高齢者の就労および就労確保対策についての提言
 多く求められるのは@自助・自立の精神である。若年時より目標をもち、資格や専門知識・技術を取得することへの助言が多い。A自立の支援として、a) 就労に関する情報提供や仲介機関(シルバーセンターなど)の充実、b) 高齢者に研修や再教育機会の提供、c) 自立を促す啓発活動の必要性などが挙げられている。B高齢者の雇用の拡大・創出施策に関する意見・提案も多い。a) 高齢者就労を普及させるための啓発活動、b) 助成金による就労確保、c) 定年延長や65歳までの再雇用制度、d) 労働の分かち合い(通常の意味のほか、数人の高齢者がそれぞれ短時間働き,若年や中年1人分の仕事を)および棲み分け(高齢者と若年者の労働分担の明確化)、e) 高齢者による高齢者向けサービス(介護・給食ほか)、f) 高齢者の経験・知識・技術を活用したサービスなどの企画・起業、g) 政策課題として、高齢者に適した労働と雇用機会の創出を公的機関で検討・実施するなど。
 また、C生きがい・社会参加としての就労、あるいは、ボランティアとしての就労の希望も多く、そのための情報提供や活動を支援するシステムについての意見・提言もある。
その他、D健康管理やコミュニケーションにも配慮をといったことが挙げられている。

●生活の満足感
 「十分満足」が14.8%、「ある程度満足」が40.4%を占め、満足している者が55.2%と過半数を超える。また、「まあこんなもの」が35.8%おり、満足している者と併せて現状を肯定的に捉えている者が91.0%と大多数である。不満を持つ者は少なく、「少し不満」4.1%、「かなり不満」0.9%である。

●経済的ゆとり感
 「十分ある」が13.2%、「ある程度ある」が63.3%で、両者併せて76.5%と、3/4強は経済的にゆとり感を抱いている。しかし、「あまりない」が17.3%、また「非常に乏しい」が0.8%存在した。経済的ゆとり感を失わせている原因は、不時の備え・今後の備えの不安31.4%、レジャー費不足17.6%、交際費不足10.0%、医療・介護費の不安8.9%である。その他、住宅の整備・改修費や住宅ローン返済、高額長期医療・介護費用などの不安がある。

●精神的ゆとり感
 「十分ある」は全体の22.5%である。「ある程度ある」は59.4%と多くあり、併せて81.9%とかなり多くの者は精神的ゆとり感をもっている。他方、精神的ゆとりが「あまりない」が12.0%、また「非常に乏しい」が0.7%と、12.7%が精神的ゆとり感のなさを訴えている。精神的ゆとり感を失わせている原因としては、本人や家族の病気や健康不安、今後の収入の不安、要介護者の面倒、家族の人間関係、生きがいのなさなどが挙げられている。

●生きがい度
 生きがい度テスト(PIL-A)でみた男性の生きがい度得点は、平均107.4(SD=14.1)である。年齢階層別では、平均得点は75〜80歳で若干の得点の減少を示すものの、加齢による変化は認められない。同一基準で生きがい度を高・中・低と分けた前期高齢期について、生きがい度の低い者の比率をみると、60〜64歳7.5%、65〜69歳9.6%、70〜74歳12.0%と加齢に伴い増加する。同時に、生きがい度の高い者も、60〜64歳19.7%、65〜69歳21.2%、70〜74歳24.1%と加齢に伴い増加する。本調査の対象集団は、標準データに比べて若干高い生きがい度をもち、均質な集団であり、また、75歳を超える後期高齢期になっても高い生きがい度を維持していた。

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