平成11年度『高齢勤労者の働きがいと健康に関する調査』報告書概要

 

目次

 

I.                高齢者の就労に関するまとめと提言 (PDF)

1.高齢者就労の必要性,目的および意義

2.高齢者の就労確保のために

3.高齢者の就労上の留意点

 

II.             調査結果の概要 (PDF)

1.高齢者の健康実態調査

1.高齢者のライフスタイルと免疫機能

2.高齢者のライフスタイルと老化指標

3.活性酸素によるDNA損傷

4.血液化学・臨床検査結果

5.血中コレクチン濃度と生化学指標との相関

2.自然環境保全野外活動に参加している女性の骨密度

3.マウスにおける加齢にともなう免疫機能の低下

4.質問紙調査と意見収集

1.企業定年退職者の健康・生活・就労

         健康状態,健康上の留意事項,よく行われるレジャーや気晴らし

         地域社会活動やボランティア活動,日常生活上の問題点,

         就労状況,就労上の不満・問題点,非就労理由

2.定年退職者の健康・生活・就労の企業・団体間比較

3.企業退職者の意見・声

         健康保持や医療・介護,就業者の「仕事上の問題や悩み,要望」

         高齢さや会への意見・提言(収入確保,生きがい確保など)

  

 

 

 

 

 

 

 

 


『高齢者の就労』に関するまとめと提言

  高齢者が働かなければならないかどうかについてはいろいろと意見がある。そして,定年退職した高齢者がどのような生活を選択するかは,各人の経歴,本人と周囲の状況,個人の意志などによる。そのなかで,一つの選択肢として就労がある。過去3年間に実施した質問紙調査結果と収集した意見・提言から,高齢者の就労に関するまとめと提言として,以下の1.3.を示す。

  1.高齢者就労の必要性,目的および意義

  2.高齢者の就労確保のために

  3.高齢者の就労上の留意点


1.高齢者就労の必要性,目的および意義

  高齢者就労の必要性,目的,意義を,以下の1)〜6)にまとめた。

1)収入の確保: 定年退職後に充実した生活を営むには,年金や蓄えなどのみでは十分でない人々も多く,就労によって収入を補う必要がある。また,一応生活できても,健康を損なったり介護が必要となった場合などに備えて,蓄えを減らさずに余裕を残して安心して生活できるように,定年後も就労を希望する人々が多い。年金の切り下げや支給開始年齢の引き上げにより,収入確保のための就労が今後ますます大きな位置を占めるようになる。

2)生きがいのための就労: 仕事が生きがいという人々も多い。たとえ収入減となっても定年退職後もつちかってきた知識・技能,経験や趣味などを活かして仕事をしたいという希望は多い。また,定年退職後,新しい仕事に取組んだり,挑戦したりする人々もいる。

3)健康の保持: 就労は,高齢者に目標・目的を与え,生活を規則的なものにし,また,他者とのコミュニケーションを必要とする。期せずして,身心の諸活動を維持・活性化し,それらをとおして健康の保持に役立つ。同時に,健康保持は就労の必要条件でもある。

4)社会参加・貢献: 就労目的を社会参加・貢献とする人々もいる。軽い意味での就労をとおしての社会参加から,獲得した知識・技術,経験などを就労という形で役立て社会に還元したいとの思いまで,様々である。ボランティア就労・ボランティア的な就労も含まれる。

5)知識・技術,能力,経験の活用: 近年,科学技術の発達のテンポが速く,新しい知識・技術の習得が若年者に課せられることが多いが,高齢者がつちかってきた知識・技術,能力,経験のなかには,多くの有用な熟練の技と智恵,総合的な判断,および洗練された対応や活用の方法などが備わっていることが多い。それらを活用すること,伝承することは,社会的に有用で必要なことである。定年退職でそれらがうずもれてしまうとすれば,それは大きな損失である。また,個人の側からすれば,それらの活用は各人にとって大きな喜びである。

6)労働力の確保: 社会の側からみると,少子化・高齢化のなかで減少していく労働人口を補う意味で,高齢者の労働は貴重な資源であり,労働力の確保という観点から重要である。


2.高齢者の就労確保のために

  高齢者の雇用問題は高齢者のみの問題としてでなく,雇用問題全体のなかで考えられるべき問題であるが,それでも今後の高齢社会を考えた場合,現実問題として,その拡大をはからざるを得ない。また,収入のためばかりでなく,生きがいやボランティア就労,貴重な知識・技術,経験の活用といった意味合いもある。また,労働人口の減少のなかでの高齢労働の位置づけも必要である。ここでは,高齢者就労の拡大にむけての様々の意見・提言を,以下の1)〜6)に要約して記述する。

  1) 自立とその支援を: 各人が高齢期にいたるまでの間に,専門的な知識・技術,経験を高め,会社をはなれても通用するだけのものを身につけ,自立できることが望ましい。高い専門性を身につけた人々は非常に高齢になっても必要とされ,現役として就労している。

自立のためには,「自助・自立の精神を養う」,「若いときから生涯の計画をたてる」,「自己啓発にはげむ」,「専門知識・技術や免許・資格を取得する」,「好きなことや趣味などをプロの域までに高める,仕事に結びつける」などといった経験や意見があげられている。

支援としては,機会の拡大が挙げられ,「時代・社会のニーズに対応した知識・技術訓練・再訓練の場の提供と助成」,「就業途中での教育・訓練,再教育・再訓練を容易に可能とする制度の導入」,「資格や能力を活用できるようにする人材登録制度などの整備・充実」などが要望されている。

また,意識改革の必要性から,「自助・自立の精神が涵養できるように」,また「若年時からの教育を見直す」といった意見や,「自己責任で自立することを妨げないように,高齢者をあまやかせない。助成は最小限必要な範囲に限る」といった意見もある。

2) 高齢者雇用の啓発と普及促進を: 「高齢者雇用の必要性・必然性についての社会的認知がまだまだ不徹底。高齢者は求人で応募しても断られる。社会の意識改革が必要である」といった声が多い。高齢者雇用の必要性・有用性の啓発と普及促進の施策が強く求められている。

また,「年齢制限の緩和が求められる」といった声が多い。「働ける間は働きたい」,「低賃金でもよいから,経験を活かし,週3日程度,75歳まで働ける仕事を」といった声も多い。

3) 定年延長と70歳まで働けるシステムを: 定年制を延長し,退職前の延長の仕事で,「定年と年金制度のリンク」,「65歳定年,70歳までの雇用」,「職場での再雇用や退職後の職場の確保」といった声が多い。

4) 高齢者就労の斡旋・支援システムの拡充を: 公共の高齢者向けの,技術・技能,専門能力,職業などの登録制度と職業斡旋事業として,シルバー人材センターのような機関の設置,拡張・充実を求める声が多い。「高齢者のための人材派遣会社を」,「もっとキャリア・特技を活用できるシステムを」という声もある。また,ボランティア的な仕事も含めて「就労に関する情報収集と情報提供の機能強化」が望まれている。

  5) 高齢者雇用の創出と確保を: 高齢者が働ける場の開発・拡大が強く求められ、「公的な機関での検討,掘り起こし」や「ワークシェアリング」の必要性が強調される。雇用創出に関しては,「高齢者による各種高齢者サービスや対人サービス」,「高齢者による農業労働」,「多年つちかってきた知識,技術,経験などを活かせる職場の創生」,「高齢者起業の支援」,「人材の発掘を図ってベンチャー企業支援を」,「高齢者のための起業を研究し実践に移す機関の設置」などがあげられている。

また,給与・処遇よりも働けることを優先して,「高齢者はワークシェアリングとして,週2〜3日の就労,また,宿直などは2人で」,世代間ワークシェアリングとして「高齢者向きの仕事は,若年者でなく高齢者に」,地域活動の支援と就労確保から「地域における公園・道路の清掃・整備,駅前自転車整理などを地域の老人クラブなどに委託」といった声があがっている。

6) 生きがい就労・ボランティア的な就労の促進を: 高齢になると,「賃金収入はさほどでなくとも,生きがいや社会参加のために,あるいはボランティアとして働きたい」という声も多い。こういった人々のために,「情報の収集・提供と斡旋・仲介システムの強化・充実」,および,「それらの就労に必要な教育・訓練の制度」,そしてまた,「ボランティアなどの活動の活性化」と「啓発活動の充実」が求められる。

 


3.高齢者の就労上の留意点

  意欲的に取組める環境,負担軽減,危険回避,勤務体制,介護からの解放を取り上げる。

  1) 意欲的に取組める職場体制・環境の形成: 定年後の就労で意欲的に取組めた理由として,知識や経験などの活用があり,「経験などを活かせた」,「頼られた」,「期待された」などがあげられている。また役割の明確化も重要で,「職場の体制および自分の役割が明確であったこと」,「雑用が減り体力低下の割に取組めた」,「掌握範囲が狭まり集中できた」との声があがっている。そのほか,「よい人間関係」,「やりがいのある仕事」などがあげられている。

逆に,意欲的に取組めなかった理由として,「職種などの違いから意欲的に取組めなかった」,「責任がない」,「仕事がつまらない」,「職場の人間関係がよくなかった」,「一体感がかけている」,「年限が限られている」,「拘束時間に比して低報酬」,「負荷が過大」などがあげられている。

2)負担軽減をはかる: 高齢者になるほど,新しい知識の吸収が困難になってくる。また,定年後再就職先でパソコン,ワープロなどを初めとする情報機器類をそれまで使っていなかった人が新たに使わねばならないときの負担は大きい。「端末機の操作には困りました」,「現職の時,パソコンなどを操作できなかった。再就職先で利用しなければならないので仕事ができないと思った」,「情報過剰時代で,パソコン,インターネットの普及など時代についていけないと感じることが多い」と言った声が多い。情報機器類を使用せずにすませられる仕事を用意する。また情報機器類を新たに使用せざるを得ない場合や新しい知識などの習得を必要とする場合は,教育・訓練,それも若年者の3倍程度の時間をかけた教育・訓練が必要であり,習得後も,処理量や速度の上限を低く設定することが負担軽減上大切である。

体力低下で,「疲れやすくなった」,「体力的に無理がきかなくなった」,「残業が負担」,「動作が緩慢」などを訴える人や「集中力が持続しない」,「根気がなくなる」など気力の低下を訴える人も多い。また,視力や聴力の低下と同時に「新しいことが覚えにくい」,「物忘れ,注意力低下」,「よく考えたつもりでも間違える」,「判断が遅い」,「能率低下」など記憶力,判断力,処理能力の低下の訴えも多い。就労の適否と負担軽減の上から,業務の種類と量,一日の作業時間や一連続作業時間,作業遂行の方法・手順などに配慮する。作業姿勢や重量物扱いなどは頚肩腕障害や腰痛防止のために人間工学的な配慮が欠かせない。高齢者は若年者の2〜3倍の明るさが必要なので照明は明るくし,視覚情報は大きく読み取りやすくする。物忘れ防止のため連絡はメモなどを多用する。また,近年はユニバーサルデザインとして適応の幅を広げた設備・機器が増加しているので,それらを導入するといった配慮も必要である。

「再就職先で人間関係を新たに築かなければならない」ことや,「若い人たちとの考え方の相違」が負担になっていることも多い。「仕事は他の人とともに組織でやるものであり,対応してくれる周りの人の知識,技術面で大きな格差がある。意志・意図の疎通が十分にはかれないことがある」,「職員との意識のずれ」,「遠慮や立場の違い」といった指摘や,「若い人とコミュニケーションに心をつかってきたが,意識のずれをさけることができないことがしばしばあった」,「なかなか今の若い人のスタンスには立てない面がある」,「若い人とは話が会わない」などの訴えが多い。人間関係やコミュニケーションギャップを如何に克服するかも問題である。

そのほか高齢者の場合,「長時間通勤の負担」の訴えが意外に多い。「満員電車」や「早い出勤」の負担の訴えも多い。後述の働き方・勤務形態などとも関連するが,「遅い出勤,早い退席」,「ラッシュを避ける時差出勤」が望まれている。また「職住接近」を望む声も多い。

3) 危険回避: 加齢にともなう身心の機能低下から,歩行時や階段昇降時,自転車・自動車の運転,農機具などの操作などで多くの高齢者がさまざまな危険経験を報告している。就労との関連では,通勤時の道路や駅舎の通路・階段・ホーム(特にラッシュ時),職場内の滑りやすい床や段差・階段などが問題である。また幹線道路での歩行者用の信号が短いと感じたり,歩道の無い道路では車に対して危険を感じている。高齢者の事故は骨折に結びつき回復に時間がかかり,寝たきりになりやすい。施設・環境の整備などでは安全面の配慮が欠かせない。

責任ほか仕事上の過重なストレスの訴えもある。「ある仕事について,ストレスのため血圧が非常にあがっていた。医師の指示により退職。大失敗を未然に防ぎ得た。…」。大きなストレスからの健康阻害や高齢期の様々の疾病予防と早期発見のため,検診や予防体制も必要である。

作業からくる腰痛や首・肩・腕などの障害の回避については,2)の負担軽減で記した。

4) 勤務形態,賃金・処遇など望ましい就労形態: 高齢者も常勤で一般の職員と同様に勤務し,同等の賃金を得るべき」と考えている人も一部いるが,「低賃金であっても,勤務日数や一日の勤務時間を短くした勤務を望む」人が多い。特に,「週3日前後の出勤で一日6時間程度の勤務を望む」人が多い。また,「高齢者は年齢の上昇に従って,勤務日数・勤務時間,賃金を減らすべき」という意見も多かった。その理由として,体力の衰えや自分の自由時間の確保などをあげている人が多い。「勤務地は自宅に近くで,始業時間は10時頃など通勤ラッシュを避けた時差出勤」が希望されている。さらにまた,高齢になると通院している者が増加している。「通院や加療と両立できる勤務体制を望む」声も多い。

仕事の内容については,「過去の自分の経験や専門性を生かせる職種を希望する」人が多い。就労の目的として,「収入よりも健康維持や生きがいに重点」をおいている人も多くあった。「各人の知識や体力,健康状態に適した就労が大事」という回答も多かった。そのほか,「働く必要は無い」と考えている人もいるが,非常に少数であった。

  5) 家族介護からの解放: 働きたくとも,両親や配偶者の介護などで働けない」と訴える高齢者が多い。介護などに関する支援が充実され,部分的にでも介護から解放されれば,就労や好きなことに時間をとれる。制度上の整備が求められる。

 

 

 

 


調査結果の概要

 

  U.調査結果の概要  1999年度は 1)高齢者の健康実態調査、2)女性骨密度調査、3)免疫機能の加齢効果をみた動物実験、4)企業の定年退職者を対象とした生活,健康,就労に関する質問紙調査と意見収集などを実施した。


1)   高齢者の健康実態調査

1)-1.高齢者のライフスタイルと免疫機能

高齢者の免疫機能は、その後の罹患や生命予後と関連しているといわれている。免疫機能を向上させるライフスタイルを明らかにすることは、高齢化社会の到来を前に、緊急の課題である。

今回は、3つの男子高齢者集団(61-80才)を対象に、健康に関わる諸項目に関する聞き取り調査を行うとともに、末梢血T細胞(リンパ球の一種でT細胞とB細胞がある)の免疫機能を測定し、得た結果をプールして解析した。

聞き取り調査は、ライフスタイル、ストレス、生活出来事、経済的余裕、健康状態などの項目を含み、個人の総合的な健康情報を得ることを目指した。個々人の回答の中に健康を害するリスクファクターがあるかどうか判定し点数化し、合計してリスクファクター指数とした。

一方、末梢血中の単核球を分離培養し、T細胞の非特異的分裂刺激剤フィトヘムアグルチニン(PHA)やStreptoccocal enterotoxin ASEA;スーパー抗原の一種)に対する増殖活性、インターロイキン2(IL-2; Th1型サイトカインでガン免疫や細胞性免疫に働く)およびIL-4Th2型サイトカインでIgE抗体産生などに関係する)の産生能を測定した。

その結果、次のことが判明した。

(1) 被験者の年齢範囲では4種の免疫マーカーの加齢による低下はみとめられなかった。

(2) 悪いライフスタイル、ストレス関連性症状およびこれらを合計したリスクファクター指数は、PHA反応、SEA反応およびIL2産生能と有意に逆相関した。

(3) ライフスタイルの各項目でみると、職業を持つ人は持たない人に比べ、有意に高いPHA反応とSEA反応を示した。また、通勤時間が20分以上90分未満の人はそうでない人より有意に高いPHA反応とSEA反応を示した。

(4) PHA反応やSEA反応は末梢血中のT細胞の比率と有意に相関しており、免疫機能の高い人は老化も遅延している可能性が示された。

1)-2.高齢者のライフスタイルと老化指標

生体が老化するとアポトーシス(細胞自滅)が起こり、体細胞数の減少や臓器の萎縮、硬化などに至る。アポトーシスが起こり易くなっているかどうかは老化の指標となる可能性がある。アポトーシスは能動的な死であるために人為的に制御することが可能であると考えられている。

末梢血中のT細胞(末梢血中にはT型とB型のリンパ球がある)の比率は加齢に伴って有意に低下することが知られているがその機序としてアポトーシスが考えられている。Bcl2T細胞内に蓄積されているアポトーシスを抑制する蛋白であり、加齢とともに減少する傾向にある。これに対してFasT細胞の表面に発現されている蛋白で、Fasリガンドが結合すると細胞を死に至らしめるアポトーシス促進蛋白であり、加齢とともに増加する可能性が示唆されている。

今年度は3つの集団に属する61-80才の男子高齢者を対象に、聞き取りによる健康調査を行なう一方、末梢血を採取して単核球を分離し、非特異的分裂刺激剤PHAで刺激・培養後、非付着性細胞中に含まれるT細胞の比率、Bcl2およびFas陽性T細胞の比率を測定し、健康や老化に関わる諸項目と、これらの老化指標との関連性を解析した。

その結果以下のことが明らかとなった。

(1) T細胞比率およびBcl2陽性T細胞の比率は加齢とともに有意に減少した。

(2) T細胞比率とBcl-2陽性T細胞の比率は有意に相関し、T細胞比率とFas陽性T細胞の比率は有意に逆相関した。

(3) ライフスタイルとの関連では、趣味やスポーツの時間が長いほどT細胞比率が有意に高く、Bcl-2陽性T細胞の比率が有意に高かった。また、スポーツの時間が長いほどFas陽性T細胞の比率が有意に低かった。

(4) さらに、ライフスタイルの種々の項目の良し悪しと、これらの老化指標との間に有意な関係がみられた。しかし、個々人の悪いライフスタイルやストレス、ストレス関連性症状など健康を害するリスクを合計したリスクファクター指数とこれらの老化指標との間には有意な関係はみいだせなかった。

  以上、老化指標は加齢に相関して明瞭に発現されていることが判明したが、趣味やスポーツのなど積極的なライフスタイルを持つことによって老化の防止が可能なことが示唆された。

1)-3.活性酸素によるDNA損傷

活性酸素はDNA損傷を引き起こすが、どのような生活要因がこれに影響するかを調べるため、これまで中年男子を対象にしてライフスタイルに関する質問紙調査や運動量調査と共に末梢血白血球DNA8-水酸化グアノシン(8-ohdG)量を測定してきた。その結果、DNA損傷は運動習慣と強く関わっていることが明らかになった。

本年度は高齢男性(6075才)121名を対象として、これまで得られている中年・高齢の結果と比較した。その結果、DNA損傷量は高齢者グループに有意な高値が認められた。しかし、DNA損傷量と運動習慣やスーパーオキシドジスムターゼ活性との相関は高齢者では認められなかった。これは加齢による影響と考えられる。

1)-4.血液化学・臨床検査結果

地方自治体職員OBと自然環境保全に関する野外ボランティア活動を行っているグループの61歳以上の男性について臨床検査成績を中心に分析し、両者の比較を行った。その結果、以下のことが明らかになった。

(1)両グループとも体脂肪率、BMI、血圧、HbA1c、総コレステロール、中性脂肪など生活習慣に影響される項目に異常を示すものが高率にみられた。

(2)野外ボランティアグループの方が地方自治体職員OBに比べて体脂肪率およびBMIが有意に低値を示し肥満者が少なかった。しかし、HbA1c、総コレステロール、中性脂肪などには有意差がみられなかった。

1)-5.血中コレクチン濃度と生化学的指標との相関

コレクチンの生理的な機能の一つとして、細菌のみならず酵母やウイルスなど、広範囲の微生物に対する基礎免疫に関与している可能性があるが、コレクチンがどのような機序で宿主の防御に関わっているのか、詳しくは解明されていない。しかし、コレクチンは補体のカスケードと並行して補体の活性化を導くことが最近明かとなり注目を集めている。また、凝集活性により病原体を物理的に排除しやすい大きさにする働きをしている。これらの機能が宿主の防御に関わっていることはまちがいないであろう。このような働きがあると考えられているコレクチンの血中濃度と生化学的指標との相関を把握することは基礎免疫能と生理的状態の相関の一端を把握する上で重要なものと考えられる。

本研究では121名を対象として、コレクチンの一つであるマンナン結合レクチンの血中濃度の測定を行った。さらにこの価と、様々な生化学的指標との相関について検討を行ったが、様々な金属イオン、血中コレステロール類、肝機能の指標等との相関は見られなかった。


2) 自然環境保全野外活動に参加している女性の骨密度

自然環境保全団体の自然観察や里山保全などの野外活動に参加している女性について、骨密度測定を実施した。その結果、これら活動を行っているグループは、一般主婦群に比較して、平均年齢が高いにもかかわらず、骨密度が高いという傾向を示した。また、定期的に運動するという習慣をもっている人の割合が多く、日光のもとでよく歩き、毎日黄緑野菜を食べる、乳製品摂取が多い、十分睡眠をとるなど健康的な生活習慣をもっていた。それら健康的な習慣が骨密度減少を予防する要因のひとつになっていると考えられた。


3) マウスにおける加齢にともなう免疫機能の低下

加齢にともない,基礎代謝を含めたほとんどの生理機能は次第に衰退してゆくことが知られている。生体の免疫機能も加齢にともない次第に衰退してゆく。自立した生き甲斐のある健康的な高齢期・老齢期を過ごすためには、この時期の健康をどのようにして維持するかという課題に行き着く。

免疫系は自然免疫系と獲得免疫系とに大きく分けられる。今回は、自然免疫系の指標としてマクロファージ系細胞の貪食能を、また獲得免疫系の指標としてIgG抗体の産生能を調べて、加齢に伴う機能低下がどのように推移するかをマウスの生涯にわたって調べた。

その結果、マクロファージ系細胞の貪食能は、加齢に伴う機能低下が少なく、高い機能の維持されている期間が長かった。しかし限界寿命近くでは低下した。IgG抗体の産生能は高い機能が維持されている期間は短く、生涯にわたって加齢とともに次第に低下した。これらのことから、高齢期・老齢期に自立した健康的生活を過ごすためには、中年期より免疫系の機能を維持することが重要であることが示唆された。


4) 質問紙調査と意見収集

4)-1.企業定年退職者の健康・生活・就労

複数企業退職者(機械製造業OB、放送業OB、自然観察リ−ダー養成と自然保全を目的とした野外活動団体の高齢者)を対象者とした健康、生活、就労などに関する自記式質問紙調査を19991012月に実施した。配布回収は主に郵送によった。配布数1599、回収数922(男性802名、女性112名)で、回収率57.7%である。得られた資料を解析し、以下の結果を得た。

健康状態: 健康状態を、非常に健康、まあまあ健康、あまり健康でない、軽い病気、重い病気、と分けて尋ねた結果、「非常に健康」あるいは「まあまあ健康」と回答した者の比率は男性82.4%、女性82.8%であった。年齢階層別に、60代前半、後半、70代前半、後半それぞれについてみると、男性は86.383.577.071.6%,女性は83.380.072.775.0%であり、男女とも加齢にともない健康者の比率は減少している。

通院中の者の比率は、男性56.4%、女性48.4%で、年齢階層的には男女とも加齢にともない増加する。通院者は多いが、その多くは月に2回以下の通院である。回答者数の多い男性でみると、全回答者中「週2回以上の通院:5.9%」,「週1回程度の通院:6.7%」,「月2回以下の通院:43.8%」である。

健康上の留意事項: 高齢者が健康上でどのような点に注意をはらっているかをみると、特に何もしていないは10%以下で少なく、多いのは、@睡眠・休養をとる(男性66.5%、女性71.0%)、A食事・栄養バランスに注意(男性63.4%、女性68.8%)、Bウオーキングや散歩(男性61.7%、54.8%)、C趣味や打込めること・気のやすまることをする(男性49.4%,女性65.9%)、D体重に注意し肥満を防ぐ(男性44.2%、女性43.0%)、Eストレスを溜めない・発散する(男性31.2%、女性41.9%)や、タバコをすわない、酒を飲まない・控えるなどであった。

よく行われるレジャーや気晴らし: 男性の場合、多いのは,@散歩54.8%、A旅行53.2%、Bテレビ視聴50.5%、C読書48.9%、D趣味46.8%、Eスポーツ・運動38.8%、F家族との会話・食事など38.6%、G友人などとの会話・食事・酒など34.8%である。以下、酒29.2%、睡眠・休養28.7%、音楽27.1%、買い物23.6%と続く。

女性の場合、多いのは、@旅行55.9%、A散歩53.8%、A読書53.8%、C趣味52.7%、D友人などとの会話・食事・酒など50.5%、E買い物41.9%、Fテレビ視聴37.6%、F音楽37.6%、H家族との会話・食事など33.3%、Hスポーツ・運動33.3%である。以下、睡眠・休養25.8%、映画・演劇・スポーツなどの観劇・観戦25.8%である。男性は、テレビ視聴、家族との会話・食事など、スポーツ・運動が上位にきているが、女性は、友人などとの会話・食事・酒などと買い物が上位にあがっている。

地域社会活動やボランティア活動: 自治会などの世話や活動を行っている者は、男性23.8%、女性38.1%で、女性の比率が高い。また神社・寺院・教会などの世話や活動を行っている者は、男性10.8%,女性7.1%である。ボランティア活動は、調査した普通の企業の男性OBでは1215%程度で、特定野外活動(野外活動リーダー育成)集団の男性の場合、67.3%であった。

日常生活上の問題点・不安点: 男性では、@将来の健康に不安43.2%、A家族の健康問題31.4%、B今後の収入に不安21.1%、C経済的な問題がある15.2%、D健康上に問題がある14.4%、E要介護者の面倒11.5%、F住居・住環境の問題9.7%などの訴えが多かった。女性もほぼ同様で、@将来の健康に不安47.3%、A家族の健康問題36.6%、B経済的な問題がある22.6%、C要介護者の面倒20.4%、D今後の収入に不安17.2%、E住居・住環境の問題14.0%などが多かった。

就労状況: パートや自営を含めた就労状況をみると、男性の場合、60代前半は37.0%、60代後半38.3%、70代前半27.0%、70代後半11.7%である。女性就労者は絶対数が少ないが、60代前半27.8%,60代後半50.0%,70代前半9.1%である。雇用関係は,常雇用は男性23.0%,女性12.0%と少なく,非常勤・パートが男性で34.6%,女性で44.0%と多い。また,嘱託も男性が17.5,女性が12.0%いる。自営および自営手伝いは男性が13.2%,女性が16.0%である。

就労上の不満・問題点: 賃金の安さ、夜勤や長時間勤務、勤務先の作業組織や評価システム上の諸問題、能力活用,身分の不安定さ、職場の人間関係、体力・健康上の問題があげられている。

非就労理由: 男性の場合,最も多いのは「もう歳だし,のんびりしたい」で31.7%を占め,加齢にともない増加する。次いで多いのが「働きたいが適当な仕事がない」で25.6%占める。50代後半と60代前半に特に多く4045%を占める。また,「趣味やボランティアボランティア活動など,好きなことに集中したい」も35.4%ある。定年後にしたいことを実践している人たちがかなりの比率あることがわかる。「もう歳なのでのんびりしたい」は60代後半あるいは70代前半以降に増加し全体では23.1%である。また,50代後半および60代前半では「働きたいが適当な仕事がみつからない」も多く,全体で20.0%を占めている。

  その他,男女とも,非就労理由の「その他」に,『介護のため』と回答した者がかなりある。

4)−2.定年退職者の健康・生活・就労の企業団体間比較

  企業/団体間比較の要約を表1に示し、それぞれの特徴や問題を以下にまとめる。

@機械製造A社OBは、生活満足度、健康ともよいレベルにある。趣味や運動、地域活動もそれなりのレベルである。しかし、経済的悩み・問題を持つ者が若干多い。就労比率は低く、またボランティアなどの活動も少ない。

A放送B社OBは、生活満足度、主観的健康感ともよいレベルにあるが、通院比率が若干高い。経済的な問題も少なく、趣味や運動も多くが行っている。ただし、地域の諸活動やボランティア活動が少ない。また、約半数の者は就労している。

B野外活動(自然保全)C団体会員は、生活満足度、健康、経済的な状態、趣味・運動、ボランティア活動への参加など、非常に高いレベルにある。ただし、自治会活動はそれなりにあるが、神社・寺院,教会などの世話や活動が低い。また就労比率は他集団に比較して著しく低い。

CD市役所OBは、生活満足度と主観的健康状態がやや悪い。現状では経済問題の訴えは多くないが今後の収入不安の訴えは多い。地域諸活動やボランティア活動はよくなされているが、趣味や運動についてはまだまだ低い水準である。E市役所OBも同様の傾向にある。

DF自治体OBは、生活満足度、主観的健康感ともよいレベルにあるが、通院比率が若干高い。経済的悩みも少なく、地域の諸活動やボランティア活動にも多く参加している。企業OBに比べ、趣味や運動が少ない。就業比率は高い。

    表1.企業/団体間比較の要約(男性,60〜74歳について)

 

(数値は比率で単位は%。 丸印記号は各項目における企業/団体間の「よい・悪い」または「多い・少ない」の相対的位置づけ)

 

生活満足

主観的

通院者

経済的悩み

今後の収入

運動スポーツ

趣味

自治会の

神社・寺院,

ボランティア

就労(パート,

 

者の比率

に健康

の比率

をもつ者

に不安

ウオーキング

 

世話・活動

教会等活動

等の活動

自営等も)

A社      

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機械製造

94.0

83.5

55.7

19.9

24.5

73.2

78.8

27.3

13.5

14.8

32.8

B社

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放送

92.4

85.6

61.4

14.2

20.3

72.6

86.6

15.8

8.3

11.7

49.7

C団体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●●

 野外活動

94.4

90.9

47.3

7.3

16.4

86.4

94.1

30.4

5.8

67.3

22.0

D市役所

 

 

 

 

 

 ●●

 

 

 

 

 

年金者連盟

90.5

72.7

58.6

15.9

29.4

46.7

57.9

31.3

34.4

23.5

50.0

E市役所

 

 

 

 

 

 ●●

 

 

 

 

 

年金者連盟

93.7

65.2

     -

20.9

32.9

45.3

56.7

    -

     -

    -

38.5

F自治体

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

93.1

83.8

63.1

9.1

23.9

61.1

56.1

36.4

10.7

35.4

61.4

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4)−3.企業退職者の意見・声

@健康保持や医療・介護

  まず、病気になる前に、自己健康管理が必要と考えている人が多かった。健康には、運動、栄養、睡眠が重要である。また、ストレスのあまり掛からない生活が大事であり、趣味や他人とのコミュニケーションを楽しむことによって精神的な健康を維持することができると考えている人が多かった。気軽に利用できる運動施設の設置を望む人が多い。

  20004月から実施される介護保険制度に関しては、制度に関する情報不足を訴える人が多い。高齢者には介護保険料の負担は大きいなど制度への批判の声も多かった。

  医療に関しては、待ち時間が長く診察時間が短い、検査や薬が多い、医師に対する不信感等、医療機関に対する不満が多い。また、医療費・保険料の負担が苦しいと訴える人も多かった。ホームドクターの必要性を訴える人も複数あった。

  今現在は医療や介護に関して特に心配していないと答えた人もあったが、多くの人は将来に何らかの不安を持っている。

A就業者の「仕事上の問題や悩み、要望」

賃金の安さ,長時間勤務や夜勤の負担、休日の問題、勉強などの時間の不足、勤務先の作業組織や評価システム上の諸問題、能力活用、職種・職制の不備、改善意欲の欠如、身分の不安定さ、能力を活かしてもらえない、職場の人間関係の悪さ、体力・健康上の問題などがあげられている。

一方、現状の仕事に満足しているとの回答も多くあり、好きなことができ、能力が活かせる、時間的余裕がありかつ自由、職場の人間関係・雰囲気がよい、喜んでもらえることに喜びがある、働けるだけでありがたいなどの声も多い。

また,要望として、働ける場の創造・拡大が求められており、もっと働きたい、経験を活かせる場を、高齢者が楽しく働ける場を、不景気を何とかして欲しいなどの声が多い。

B高齢社会への意見・提言(収入確保,生きがい確保など)

収入確保に関して,定年延長や高齢者の就労環境の整備が強く求められている。勤務形態は、軽作業、短時間、収入減可である。若年時からの専門知識・技術習得の個人的努力とそれらに関する若年者への啓発・教育の必要性もあげられている。

また,将来にわたって年金で安定した生活ができるように、年金制度、医療・福祉・介護保険制度(低負担化)、低金利施策の見直しが求められ、さらにまた、経済の安定も求められている。

生きがい確保に関しては、与えられるものでなく自分で確保するもので、若年時からの準備の大切さが強調される。チャレンジ精神をもち、打込めるものをもつこと、交友・交流を深める、地域社会への参加などが重要とされる。そのための支援として、交流、趣味・運動、学習、ボランティアなどの各種活動の場の提供、指導者の養成、情報提供、金銭的支援が求められている。

そのほか、高齢者の知識・経験を活かせる仕事やボランティア活動の場を開拓・確保し、意欲のある高齢者が容易に社会参加・貢献できる環境を整える必要性が強調されている。